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日立には、Society 5.0と呼ばれる次の社会を具体的に描くために作られた『ビジョンデザイン』というプロジェクトがある。そこでは、技術起点ではなく、仮説となる未来のビジョンを示し、議論することで次の社会のヒントを探すという研究が行われている。このまだ見ぬ世界の探求の中に、『こくベジ』との協創がある。社会イノベーションという大きなテーマを掲げる日立が、なぜ野菜の地産地消活動に参加するのか。その意味と意義について、4名のプロジェクトメンバーに話を聞いた。

出演者
株式会社 日立製作所 研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ
左:ビジョンデザインプロジェクト主任デザイナー 柴田吉隆
左から2人目:サービスデザイン&エンジニアリング部 主任研究員 森木俊臣
右から2人目:ビジョンデザインプロジェクト デザイナー 曽我佑
右:ビジョンデザインプロジェクト デザイナー 田中久乃

「第1回:スタートは、地産地消のご当地メニュー開発。」はこちら>
「第2回:『こくベジ』が作り出すシナジー効果」はこちら>
「第3回:二人の野菜集配人の誕生。」はこちら>
「第4回:人とのつながりを貯金する。」はこちら>

議論から実践への第一歩

Society 5.0、それは2016年に内閣府が発表した次の社会を考える概念で、1.0:狩猟社会、2.0:農耕社会、3.0:工業社会、4.0:情報社会 に次ぐ転換期を、今私たちは生きている。しかし、資料を見ても技術の話が中心で、具体的にどんな社会になるのかは見えにくい。社会イノベーションをテーマにする日立は、複雑化した社会課題などを掘り下げ、次の社会への仮説を提示して議論することから始めるという『ビジョンデザイン』というプロジェクトをスタートさせた。

画像1: 議論から実践への第一歩

柴田「日立は『社会課題を解決する』ということを言っているので、私たちは、そもそも社会課題とは何かということについて京都大学のさまざまな分野の先生と議論し、その根源が「不安」につながっているという考えにたどり着き、“Crisis 5.0”というレポートを作りました。社会課題をほかの観点から捉える活動としては、2030年の多様な社会における人々の日用品を創造することで未来の信頼を考える“FUTURE TRUST”というプロジェクトも行いました。また、これらで得られた考え方をもとに、次の社会を議論するためにさまざまなビジョンを示してきました。そして、議論だけではなく、地域の方と一緒に実践も行いながら探索し、新しい社会で大切にされるべき価値を考え、作り出す“フューチャーリビングラボ”という活動を始めました」

2019年4月、『ビジョンデザイン』を行う東京社会イノベーション協創センタは、国分寺の中央研究所内に作られた『協創の森』という新しい施設に移転した。ここは、日立が社外のさまざまな人や組織とオープンに協創を行う場として建てた場所であり、社会イノベーションの拠点だ。

画像2: 議論から実践への第一歩

田中「国分寺に移転することが決まってから、せっかく国分寺に移るのであれば、国分寺でしかできない活動を、地域の方たちと一緒に創っていきたいと思っていました。日立が何かソリューションを提案するということではなく、生活者視点で、地域の方たちと一緒にボトムアップできるような活動がやりたかったんです」

田中たちは、国分寺をベースに地域のプロデュース活動などを行っている知人を介して、『こくベジ』のキーパーソンである奥田氏と南部氏と出会った。その際、日立という大きな組織の人間が、深い森に囲まれた中央研究所から、ビジネスをするために来たと思われないように、まずは『こくベジ』のプロジェクトメンバーの話を聞き、一緒に農家を訪ね、彼らが現場で何をやり、どんな話をし、何を考えているのかを知ることから始めた。そうして、フューチャーリビングラボの活動として、『こくベジ』との協創の試みが始まった。

田中「奥田さんや南部さんから、“実はこんなこともやりたいんだよね”といった話をしてもらえるまで、こちらからアイデアを提案したりということはしませんでした。もしかしたら、彼らは日立の技術で何かしらの課題を解決してくれるという期待があったのかもしれません。

こくベジのプロジェクトメンバーと農家さんを訪ねたときに、『私たちは競争力のあるブランド野菜を作りたいわけではなくて、地域の文化を作りたいんだ』という話を伺いました。地域のものを地域で消費することの良さを理解できる心を育むということに、私たちも深く共感し、皆さんが一番大事にしている地域の新しい価値を強めていくということを、一緒にやりたいと思ったんです」

農家から採れたての野菜を集荷し、飲食店に配達し、それぞれのお店がそれを料理してお客さまに提供する、それが『こくベジ』の仕組みだ。農家と飲食店を奥田氏・南部氏がつなぎ、料理を食べた人が野菜を通して農家やお店とつながっていく。『こくベジ』との関係を深めていく中で、このつながり方を少しアレンジすることで、いつもとは違った体験が作れるのではないか。奥田氏・南部氏、そして日立のメンバーを含めたチームの中で、ひとつのアイデアが生まれた。

『つれてって、たべる。わたしの野菜』

画像1: 『つれてって、たべる。わたしの野菜』

曽我「お店で調理されたものを食べ、消費することが、普段のお客さまにとっての『こくベジ』との関わりなのですが、奥田さんや南部さんのされている“お店に野菜を運ぶ”というプロセスにも参加してもらえたら、食べることとはまた違った体験や価値を生み出せるのではないか。そう考えて企画したのが、『つれてって、たべる。わたしの野菜』というイベントです」

『つれてって、たべる。わたしの野菜』とは、国分寺の駅ビルにあるカフェを併設した市役所の施設“cocobunjiプラザ”に野菜を集めて展示し、お客さまがそこから自分が食べたい野菜を選び、さらに飲食店を選んでその野菜を自分で持って行く。そして、飲食店に調理してもらって食べ、その感想などをSNSにアップしてもらうイベントだ。この企画は、奥田氏・南部氏、そして日立メンバーの間の会話の中から生まれ、日立メンバーは、ウェブアプリケーションをはじめ、ポスターや飲食店で使ってもらうランチョンマット、野菜を持ち運ぶパッケージなど、サービスに必要なあらゆるものを「こくベジ」のメンバーとともに作った。

曽我「共感が得られるのかどうかわからなくても、小さなイベントとしてまずやってみると言うのは、日立としては新しいアプローチでした。実際にイベントに参加していただいた方からは、自分で野菜を運ぶという体験が新鮮だったとか、地元で野菜が採れるということのありがたさを改めて認識したといった多くの感想が寄せられました。

農家の方々からも、育てた野菜がどんな料理になったか、食べた人がどんな感想を持ったかがSNSで共有されることの驚きと喜びの声をいただきましたし、飲食店からもこれまで自分たちが抱いていた地域の農家・野菜への愛着を、お客さまと共有する機会になったという感想をいただきました。このイベントを通じて、『こくベジ』というのは、単に野菜のブランドなのではなく、野菜をとりまく人たちの『営(いとな)み』のことなんだと思いました」

この、人の『営み』を実現し、お客さまがよりイベントに参加しやすくするために、野菜の登録やお店の選択などを簡単に行うための手段として、日立はスマートフォン用のウェブアプリケーションを開発した。

画像2: 『つれてって、たべる。わたしの野菜』

森木「今回は、野菜のQRコードを読んで、そこからお店を選択してもらい、お店までの道案内をする。そしてお店のランチョンマットにQRコードをつけて、写真や感想をSNSにアップするというWebのアプリを作りました。ただ、これは技術提供というよりは『こくベジ』の世界観の中で、お客さまが食べるだけじゃなく、運営する側も少しのぞいてみるというテイストをデザインしたということだと思っています」

次の社会という大きなテーマに取り組む『ビジョンデザイン』、そのひとつの実践である『こくベジ』との協創は、『つれてって、たべる。わたしの野菜』というイベントとして結実した。第6回では、さらに地域の持つ可能性を探る日立の取り組みを紹介する。

関連記事「地域の中で「ビジョンデザイン」を実践し、考える。」はこちら>
「第6回:『こくベジ』の気づきを、国分寺で生かす。」はこちら>

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

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