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左:国分寺市役所 政策部 市政戦略室 まちの魅力企画担当係長 新保浩太郎氏 中央:市民生活部 経済課 経済振興係長 西脇康弘氏 右:市民生活部 経済課 農業振興係長 榎本紘幸氏
都心から、中央線で約20分。東京都の真ん中に位置する東西約5.68キロメートル、南北約3.86キロメートル、人口124,794人の街。それが国分寺だ。この街が、多摩26市の中で市域面積に対する農地の割合が第2位の農業の土地であることをご存知だろうか。およそ300年前の新田開発から続いてきた農家が国分寺には多く残っており、採れたて野菜を畑の直売所で買って食べるという地産地消が生活の中で受け継がれてきた。そんな国分寺の野菜をブランド化して、街の魅力を高めたい。国分寺市役所でそんな議論が始まったのは、2014年のことだった。
6回シリーズでお届けするベンチマークニッポン『こくベジ』篇、まずは市役所職員3名の取材をもとに、市の取り組みを2回にわたってお届けする。

スタートは、国からの地域活性化の補助金

国分寺は、市の面積の約13%が農地という東京でも稀有な土地であり、国分寺に住む人たちはその環境を享受していた。市も、農家の所得向上のための農業振興施策を実施するなど、日常的にさまざまな形で農家に寄り添ってきた。そして2014年、国が地方の活性化を進める事業には“地方創生先行型交付金”という補助金を出すということになり、国分寺市では観光振興に重点をおき、施策の検討を行なった。

画像: スタートは、国からの地域活性化の補助金

市政戦略室という部署でまちの魅力企画を担当されている新保氏は、前任者が地域活性化事業に取り組んでいた当時をこう振り返る。 新保氏「当時の観光動向調査で、国分寺市の観光客について調べてみると、国分寺を訪れる方の滞在時間が、約3時間と短く、すぐに国分寺を出て別のところに行ってしまうということがわかったそうです。この方々にもっと国分寺を楽しんでもらうため、委託事業者の(株)リクルート(当時)と組んで観光には欠かせない「食事」に着目し、地場野菜を使った国分寺ならではのご当地メニューを作り出す事業を実施することにしました」

ご当地メニューを作るにあたっては、実際に飲食店の方や市民の方たちを招いたワークショップを開いて、ご当地メニューのアイデアを出し合ったが、統一したレシピで同じメニューを出すのは、個別の店舗の事情もあり難しいということがわかった。そこで、地場野菜の良さを生かして、店舗がそれぞれ自由にメニューを開発するという方向に軌道を修正した。

『こくベジ』の誕生

しかし、単に「地場産野菜を使ったメニューができたので食べに来てください」というだけでは、他の自治体などで同様の事例が数多くあり、有益なPRにはなりにくい。そこで、「国分寺の農業や農作物」そのものに着目し、その魅力を発信することにした。それを、地場野菜をふんだんに使ったメニューを提供する飲食店のPRと併せて行なうことで、国分寺ならではのPRが実現できると考えた。

国分寺で農業が始まったのは、今から300年前の江戸時代の新田開発がきっかけだ。その新田開発で開発された78新田のうち、8新田が国分寺市に続いており、都内でもっとも数が多い。当時の農家は、決して肥沃ではない土地を耕し、土と向き合いながら工夫を重ねて農業を営み、農地を守ってきた。それが脈々と受け継がれて現在に至っている。そうした地場野菜の魅力をわかりやすく伝えるため、国分寺の農家が丁寧に育て上げた野菜を『こくベジ』と名付け、まずはブランディングすることから開始し、農家や野菜を前面に押し出したポスターを制作し、鉄道駅、飲食店などに掲示した。そして、こくベジを使ったオリジナルメニュー“こくベジメニュー”を提供するお店を募集し、その提供が始まった。

『こくベジ』でつながる食のネットワーク

画像1: 『こくベジ』でつながる食のネットワーク

『こくベジ』は、農畜産物を生産する農家、それを集めて配達するメンバー、それを使って料理をつくる飲食店、それを食べる消費者をつなげるネットワークだ。すべては、人でつながっている。『こくベジ』を使ったメニューを提供してくれる飲食店は、スタート当初は22店舗。4年経った現在は100を超える飲食店が『こくベジ』をメニューに取り入れている。

ということは、地元で生産されたものを地元で消費する「地産地消」への関心が高まっているということになる。市民生活部 経済課 農業振興係榎本氏は、この土地の農業の特徴をこう語ってくれた。榎本氏「国分寺の農家の方は、自宅の庭先や畑に直売所を設けている場合が多いです。実際にそこで生産物を売り切ってしまう農家も多く、市場出荷や契約出荷という販売方法とは売り方が異なるため、地産地消が進んでいると感じます。

また、“産地”と呼ばれる地方の大規模農家と比較するとどうしても作付け面積が限られてしまいますので、消費者のニーズに応えるためにさまざまな種類を売り切れる分だけ作る“少量多品目生産”を営んでいるというのが特徴です。実際に直売所で購入される消費者から寄せられる声に応えるために、農畜産物の作付け品目を増やすこともあるそうです。住宅地のすぐ隣に畑があり、消費者との距離が近い“顔の見える”国分寺の農業は、都市農業と呼ばれています」

画像2: 『こくベジ』でつながる食のネットワーク

そんな『こくベジ』に、いま新たな展開が始まろうとしている。市民経済部 経済課 経済振興係 西脇氏は、まだ調整すべきことが多くあることを前提に、これからの話をしてくれた。 西脇氏「こくベジとは、野菜だけではなく果実や花、鶏卵や植木といった農畜産物すべての愛称です。これまでは、野菜を中心としてブランディングに取り組んできましたが、野菜以外の農畜産物に目を向けた取り組みにも挑戦したいと考えています。秋口には柿、ゆず、栗などの果実がたくさん採れます。それを野菜と同じように飲食店にオリジナルメニューとして提供いただいたり、一週間果樹祭りのようなイベントを実施できたら面白いのではないか。そうすることで野菜以外の生産者にもスポットを当てて、国分寺の農畜産物全体をPRできたらと考えています」

スタートから4年、ここからは、国からの補助なしに、自立した活動を展開していかなければならない。第2回では、そんな『こくベジ』を通じて人がつながることの意義を考える。

「第2回:『こくベジ』が作り出すシナジー効果」はこちら>

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