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早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄氏/株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長 髙本真樹
経営学者の入山章栄氏と、日立の情報通信部門の人事を統括する髙本真樹による対談。第3回では、世界企業の経営戦略に精通する入山氏が、HRテック登場以前の日本企業の人事を「平均値しか見てこなかった」と喝破。さらに、日本企業が抱える2つのウィークポイントを挙げるとともに、大企業のイノベーションに必要な人財について語った。

「第1回:HRテックが変えた、日立の新卒採用」はこちら>
「第2回:社員一人ひとりの“意識”を測る」はこちら>

これまでの人事が見てきたのは「平均値」

入山
人事というのは、研究者視点で見ても宝の山です。実は毎年膨大なデータを集めているわけですから。

髙本
本当にそうですよね。でも、その貴重なデータがPCの片隅のどこかのフォルダに眠っている。実際には有効活用されていないケースがほとんどだと思います。

入山
それは人事を担う社員のITリテラシー不足の問題もあるし、以前はせいぜい表計算ソフトを使うしかなかったので、きちんと活用できていなかった。でも今はHRテックが登場したことで、いろいろなデータを一気に吸い上げて分析できるようになった。そこに大きな可能性を感じます。

それに今までは、人事データの使い方自体が間違っていたと思うのです。全社員のデータを取っても、その平均値しか見てこなかった。でも今はビッグデータの時代になって、社員一人ひとりを分析できるようになった。だからこそ、先ほど申し上げた個別評価の人事が可能な時代になっている。

髙本
おっしゃるとおりですね。例えばある組織の売上業績が悪かった場合、一部の社員が足を引っ張っているのか、それとも全員の業績が同じように低いのかでは、問題点の意味合いが全然違いますし、そこに働く一人ひとりの意識がどうなのかも極めて重要なポイントになってきます。そういったことが分かると、自ずと改善のための打ち手もまったく変わってくる。ところが平均値しか見ないと、打ち手を間違ってしまうと思います。

このように意識のデータも活用することで、個別の状況がかなり容易に可視化できる時代になったので、それを活かせない会社の人事は経営層から「サボっている」と言われても仕方ないと思うのです。

入山
当然、そうなりますよね。

日本企業最大のウィークポイント

入山
わたしは人事系のイベントに呼ばれて講演することが多いのですが、そのときにいつも申し上げているのが、「日本の企業の最大の弱点は人事です」。当たり前ですけど会社というのは人で構成されていますから、人事が単なる事務処理を行うだけのバックオフィスになってはいけない。人事そのものがイノベーションを起こさないと、会社はよくならないと思っています。

髙本
日本では、人事というと単に間接部門のスタッフとして見られている会社もまだまだ多いと感じています。世界的な外資系企業では、人事はどんなポジションだと先生は見られていますか。

入山
人事は間違いなく戦略部門です。

日本の大企業に1つ足りないのは、CHROというポストです。Chief Human Resource Officer、最高人事責任者。人事のトップはCHROになって、CEOとまったく同じ目線で会社の戦略を語る。これが今、多くの企業が取り組み始めていることです。

画像: 日本企業最大のウィークポイント

髙本
今の先生のお話、同感です。当社も実は数年前から人事部門のトップはCHROの肩書きを持ち始めています。わたしはよく「社長業の因数分解」と言っているのですが、中小企業の経営者さまなら資金調達も採用活動も昇級人事もお一人で全部されているわけですが、大企業では規模的にそれが難しいから、みんなで役割分担をしている。人事もその1つの大事な機能ですから、「経営者に成り代わって行動できる」HR社員を増やす必要があるとわたしは考えています。

そのときに、データで人事を語れないと経営者と対等に議論できません。ですから我々の部署には、データを統計学的に読解できる理科系出身の社員もいます。ただ、まだ少数なので、これからもっとデータアナリティクスができる人財を増やしていく必要性を感じています。

変革を起こす会社に必ずいる人財

入山
日立さんの人財戦略のお話を伺って面白いなと思ったのは、会社が抱えている課題を、自社のテクノロジーで解決されていることです。それと、堅実なイメージのある日立さんにおいてこうした斬新な取り組みをなさった髙本さんご自身が、面白い方だなと。変革を起こそうとしている大企業には、必ず髙本さんのような異色の社員がいらっしゃいます。

そしてもう1つ面白いなと思ったのは、長年続いてきた人事システムを自ら変えようとされた点です。先日ある実業家の方ともお話ししたのですが、今までの日本企業の人事システムというのは、いわゆる製造業モデルだったのですよね。社員みんなが同じ時刻に出社して、同じ時間働き、みんなで同じものをミスなく作るのがよしとされてきた。

髙本
ええ。まさにそうでした。

入山
ところが、髙本さんもはじめにおっしゃったように、コトづくりの時代に変わってきました。とはいえ、日本の製造業はずっと従来のやり方で業績を伸ばしてきたので、今さら変えづらい。それをご自身から変えるなんて、なかなかできないことですよ。

髙本
お褒めいただき、恐縮です。

画像: 変革を起こす会社に必ずいる人財

入山
髙本さんが人事を変えなくてはいけないと気づかれたのは、何かきっかけがあったのですか。

髙本
きっかけと言うか、ずっとストレスを感じていました。世の中、ITが進化していろいろな分析ツールが出てきているのに、なぜ人事に特化したものはないのだろうと。結局、表計算ソフトとにらめっこするしかなかった(笑)。

入山
かつてはそういう時代でしたよね。

髙本
それで、一度自分たちでシステムを手作りして、先ほどお話しした2017年卒の技術系新卒採用に活用しました。

この取り組みは、ある意味わたし自身が過去に身に着けたことを否定する旅のようなもの、いわばアンラーニングです。かつてはアナログだったHRをデジタル化するという。もうわたし、今年で58歳になるのですが(笑)。

入山
いやいや、素晴らしいですよ。先ほど人事が日本企業の弱点だと言いましたけど、日本の大企業が変革を起こせないのは、もう1つの理由があるのです。それは、典型的な例で言えば、50代の本部長クラスの方がリスクをとれないからです。やっぱり過去の成功体験を否定するというのは、人間だれしもできることではないですから。髙本さんの場合はご自分から行動されて、新たな取り組みの既成事実をお作りになった。この既成事実を作るということが、企業の変革には非常に重要なことだと思います。

髙本
上司が理解のある者なので、この歳になっても自由に取り組ませてもらっているのはありがたい話ですし、彼はもちろん、多くの社員の期待にも応えたいという想いがありますね。

画像1: 対談 個を輝かせる人事
【第3回】人事は戦略部門である

入山章栄(いりやまあきえ)
1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。株式会社三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.(博士号)を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を務め、2013年から早稲田大学ビジネススクール准教授。経営戦略論および国際経営論を専門とし、Strategic Management Journalをはじめ国際的な主要経営学術誌に論文を数多く発表している。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版,2012年)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社,2015年)。

画像2: 対談 個を輝かせる人事
【第3回】人事は戦略部門である

髙本真樹(たかもとまさき)
1986年、株式会社日立製作所に入社。大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長などを経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長を務め、ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ長を兼任。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共に駆け抜ける "伴走者"も務めている。

「第4回:日本企業には『腹落ち』が足りない」はこちら>

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

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新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

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