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  • 西武鉄道と日立の協創でさらなるバリアフリーの実現へ
    〜デジタル化でつくる快適な移動介助〜

    2019-01-18

    顧客が求める未知なるサービスを、いかに迅速・確実に具現化していくか――。これは多くの企業にとって重要なテーマだといえるだろう。その実現に向けて、西武ホールディングス・西武鉄道では日立との協創を決断。デザイン思考のアプローチを用いて、顧客や駅係員の想いをくみ取り、バリアフリー対応のかつてないサービスモデルを構築した。これにより、車いすや白杖利用者の安全確保と満足度の向上を高いレベルで両立している。

    顧客満足向上に向けたICT利活用プロジェクトが始動

    西武ホールディングス・西武鉄道は2014年から、ICTの利活用によって顧客満足度の向上を図り、今以上に「選ばれる沿線」「選ばれる鉄道」をめざしたプロジェクトを全社一丸となって推進している。

    実際、部門を横断して集められたプロジェクトメンバーの意見交換は、初回から熱を帯びたものになったという。だが議論を重ねても、「実際に何から取り組むべきか、結論が見い出せない状態になっていた」と振り返るのは、とりまとめ役を務めた西武ホールディングスの國貞 幸枝氏だ。

    「こんなサービスがあったらいいな、こんなことはできないだろうかというアイデアはたくさん出てきましたが、次の一歩を踏み出せない状態が続いていたのです。ちょうどそのころ、インバウンドのお客さま向けの新たな施策で情報交換をしていた日立の方に、プロジェクトが進まない悩みをお話ししたところ、デザイン思考(Exアプローチ)の存在を教えてもらったのです」(國貞氏)

    日立のExアプローチは、新たな事業やサービスを顧客と共に創り出す「協創活動」の中で、その事業やサービスを通して得られる“うれしさ・感動・喜び”といった経験価値(Experience)を共有しながら、プロジェクトをゴールに導く手法。具体的にはワークショップを通じてステークホルダー全員のフラットな対話を促すとともに、多様な視点で課題や想いを引き出し、サービスアイデアや解決策の検討、将来像の共有を図っていく。


    Exアプローチで行われるワークショップのひとコマ

    「ワークショップでは、各メンバーが出したアイデアや漠然とした想いを、日立のご担当者が一つひとつ明文化し、具体的なサービスモデルへと見える化してくれました。そのサービスを実現するためには何が必要で、いま何が足りないのか。また1つのサービスで完結させるのではなく、より大きな可能性や拡張性が出てくることも提示してくれました。各メンバーの意見をきちんと吸い上げ、参加者全員を巻き込むダイナミックな展開に、私自身もまとめ役としての立場を忘れ、一緒にディスカッションにのめり込んでしまったほどです」と國貞氏は語る。

    駅を安心して利用できるデジタルサービスを協創

    その過程でたどり着いたのが、バリアフリー対応の新たなサービスモデルだった。西武鉄道の堀口 弘恵氏は、その背景を次のように説明する。

    「社会的なバリアフリー化が進展している中で、西武鉄道でも車いすや白杖をご利用のお客さまが、年々増加傾向にあります。こうしたお客さまが電車をご利用される際には、ホームと電車の間に溝ができてしまって危険なため、駅係員が介助をしています。しかしこれまでは、介助に必要な情報について、乗車駅および降車駅の駅係員間の連絡が電話や無線、メモや口頭での伝達といったアナログな連携作業になっていたため、時として聞き違えや読み違えなどが起こることがありました。小さな駅では駅係員の数も限られているため、ICTを利用して、いかに限られた人員の中でミスなく、お客さまに安心して駅をご利用いただけるかが大きなテーマとして浮上してきたのです」

    もちろん同社でも円滑なサービス提供に向けて、さまざまな工夫が行われていた。乗車駅と降車駅間の電話連絡では、利用者が乗る「列車番号」や「乗車位置」、「介護者がいるかいないか」「乗り換えて次はどこまで行くのか」といった情報のやりとりを、専用の紙シートを用意してチェックしたり、ご案内遅れが起こらないよう、駅係員は到着時刻の数分前にタイマーを設定し、アラームが鳴るとホームに向かうといった取り組みはその1つだ。

    日立はサービス開発に先立ち、西武鉄道の各駅で案内業務の実態調査を行った。その中で、これらの業務フローや手法をあらためて確認するとともに、駅の規模に応じて連絡業務の運用に違いがあることが顕在化した。

    「大きな駅ではホームや窓口、信号所の駅係員などが分業制をとっています。そのため、ホームの駅係員がお客さまをご案内した後、無線で信号所の駅係員に伝えるなど“伝言ゲーム”に似た運用が行われていました。一方、駅係員が2名の小さな駅では、連絡を受けた駅係員自身がご案内を行うといった運用の違いを、日立さんが図により“見える化”してくださいました。実際のサービス開発では、この違いを考慮したシステム設計が必要でしたので、事前にしっかり把握できたのは本当に助かりました」と堀口氏は語る。

    日立は、西武鉄道と駅係員が確立していた業務フローを踏襲しつつ、デジタルならではの付加価値も加味し、スマートフォンやタブレットで案内業務が行えるシステムを協創。現場への試験端末導入と教育・訓練期間を経て、2017年5月から「車いすご利用のお客さまご案内業務支援システム」(略称:GSシステム*)をスタートさせた。

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    Guidance for Customers Support

    スマートデバイスを活用し駅係員の対応円滑化に寄与

    GSシステムでは、電話やメモなどを使うことなく、一連の連絡業務がすべてスマートデバイス上で完結する。乗車駅で駅係員が列車番号や乗車位置などを見やすいボタンで入力すると、自動的に降車駅の駅係員に通知され、到着時刻の数分前にはアラームが鳴動するため、ミスなく業務を遂行できる。さらに、担当以外の係員へも情報が共有され、案内業務が確実に行われたかどうかを確認できるなど、さまざまな形で駅係員の負担やミスを減らす工夫が凝らされている。


    従来のアナログ作業と現在のGSシステムの違い(イメージ)

    「当初、ベテランの駅係員からは、スマートデバイスの導入に抵抗感や不安の声が多かったのですが、1年経過した今では“もうアナログの時代には戻れない”といった嬉しい声をたくさんいただいています」(堀口氏)

    GSシステムは、その有用性と優れた操作性が評価され、2017年度のグッドデザイン賞を受賞。バリアフリーの実現に向けた西武鉄道と日立の取り組みが、あらためて高く評価された形となった。

    「生み出されたアイデアが、西武鉄道をご利用いただいているお客さまに、便利で使いやすいサービスとして提供できたことが何よりも嬉しい。また新たな課題に挑戦する時は、日立さんと一緒になって、お客さまへより高いご満足を提供していきたいと考えています」と國貞氏。 西武鉄道は既に今後のサービスを見据え始めている。

    國貞 幸枝 氏
    株式会社 西武ホールディングス
    経営企画本部 第一事業戦略部
    課長

    堀口 弘恵 氏
    西武鉄道株式会社
    鉄道本部 運輸部
    お客さまサービス課 課長補佐

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