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  • カブドットコム証券と日立の協創で証券ビジネスに革新を
    〜「攻め」と「守り」でAIを活用〜

    2018-11-16

    ビジネスにAI(人工知能)を活用する流れは一段と加速。その適用領域も、多種多様な業務分野へと広がりつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループのネット証券会社であるカブドットコム証券では、日立製作所(以下、日立)の「Hitachi AI Technology/H」をストック・レンディング業務や売買審査業務に活用。専門家が有する高度な業務ノウハウをAI化することで、収益力の強化や人にしかできない業務への特化など、さまざまなメリットを得ることに成功している。

    高度専門人材の不足がAI活用のきっかけに

    カブドットコム証券では、社内業務へのAI活用を推進し、数多くの成果を上げている。その裏側には、優秀な専門人材を確保することの難しさがあったという。「どのような分野の業務であれ、高度な専門性やスキルを身に付けるには数年の期間が必要になります。その間もビジネス環境はどんどん変化していきますので、ただ人が育つのを待っているわけにもいきません。そこで、AIの力を積極的に生かしていこうと考えたのです」と同社の齋藤 正勝氏は説明する。

    この取り組みで重要な役割を果たしているのが、日立のAIだ。日立では、分析系、認識系、言語処理系など、幅広い分野のAIを提供しているが、カブドットコム証券が利用しているのは分析系AIに位置付けられる「Hitachi AI Technology/H」(以下、AT/H)である。その最大の特徴は跳躍学習技術と呼ばれる日立の独自技術を採用している点だ。

    AI関連技術として広く知られる「ディープラーニング」では、算出された予測値の根拠が示されないため、どうしてもブラックボックスの部分が残ってしまう。その点、日立の跳躍学習技術は、予測値の影響因子を抽出できるため、「なぜそのような結果が提示されたのか」を知ることができる。これにより、カブドットコム証券の業務において分析で得た知見やノウハウを継承していくことができるのだ。

    「実証実験を通じて日立のAT/Hは数字に強く、我々の業務にマッチしていると判断しました」と齋藤氏。現在ではさまざまな用務にAT/Hを適用している。その1つが機関投資家向けのストック・レンディング(貸株)業務である。ここでは、約4000にも及ぶ銘柄を取り扱う上に、毎日500件以上もの貸出交渉を行っている。業務を担当するレンディング・トレーダーの数も限られるため、年々増え続ける需要に人手だけで応え続けるのは困難な面があった。「そこで、特にネックとなっていた株式の貸出レート決め作業にAT/Hを活用。1000種類にも上る数値データを分析し、最適な貸出レートを自動算出する仕組みを構築しました。その結果、機関投資家への回答時間を大幅に短縮することができ、売り上げも約30〜35%アップしました」と齋藤氏は話す。

    疑わしい取引をスコアリング 売買審査業務の効率化が可能に

    この貸株業務を「攻め」の業務とすれば、「守り」の分野で大きな効果を発揮しているのが売買審査業務である。証券会社では、公正ではない取引が行われていないかどうか日々審査を行っているが、インターネットによる売買が個人投資家の主力な取引手段となる中で、審査件数も年を追うごとに増加していた。

    「このため売買審査部門においても、『目視点検は負担が重く1日に処理できる件数に限界がある』『審査ノウハウが個々の担当者に依存しており業務の引き継ぎが困難』『今後の規制強化に伴い新たな売買形態が審査対象になる可能性がある』など、数多くの課題を抱えていました」と カブドットコム証券の黒澤 郁夫氏は振り返る。

    こうした課題の解決にAIが有効ではと考えたカブドットコム証券では、日立と共同で約定の意志を持たない大量の売買注文、いわゆる「見せ玉」を対象としたPoC(Proof of Concept:概念実証)に取りかかった。

    ここでは、売買審査システムが全注文の中から抽出した取引に対し、まずAT/Hを用いたスコアリングを実施する。このスコアを基に問題がなさそうな取引をフィルタリングすることで、本当に人による審査が必要な取引だけに対象を絞り込んでいくわけだ。「口座番号順などの形で売買審査を行ったのでは、疑わしい取引が最後の最後まで出てこないことも考えられます。その点、スコアリングによって疑わしい取引が優先的に明示されれば、ムダのない効率的な審査が可能になります」と黒澤氏は話す。


    「見せ玉」審査業務へのAI適用 人手による審査が不要な取引を機械的に見極めることで、より短時間で深度のある審査を行えるようにしている

    日立と実施したPoCの手応えも大きかった。「過去2年分の取引データをAT/Hに学習させたところ、非常に高い精度で非公正と疑われる取引を洗い出すことができました。具体的には人手で全件審査していた取引のうち、実に約73%強を除外できることが判明。審査担当者は、残りの約1/4だけに特化すれば良いことが分かったのです」と黒澤氏は話す。

    加えて、もう1つ見逃せないのが、個々の担当者が有する審査ノウハウを可視化できた点だ。黒澤氏は「AT/Hが算出したモデル式では、見せ玉と相関の高い顧客行動が変数と相関関係で表現されます。なぜその取引が疑わしいのかを、モデルの結果から理解できるわけです。これはいわば、ベテラン担当者から審査ノウハウの研修を受けているのと同じことです」と強調する。

    さらに、今後新たな売買形態が審査対象に加えられた場合にも、モデル式をメンテナンスすることで対応を図ることができる。「スコアリングモデルは一度作って終わりではなく、継続的に進化させていくことが肝心です。当社でも日立と共に、モデル式のチューニングを継続的に行っています」と黒澤氏は話す。

    分析や認識処理などの自動化を行うことで、限られた人の力を人にしかできない業務に振り向けられるのがAIの最大のメリットだ。そのためには、熟練者の知見をいかにAIに覚えさせるかが重要なポイントとなる。カブドットコム証券ではAT/Hや日立の支援を活用することで、見事にベテラン担当者の業務ノウハウをAI化することに成功したのだ。

    より最適なサービスの実現に向けAIの適用領域をさらに拡大

    こうしたAT/Hの実績を高く評価した同社では、今後も適用範囲をさらに広げていく考えだ。「見せ玉だけでなく、対当売買についても90%を超える除外率が確認できています。将来的には、インサイダー疑義検知や顧客属性分析などの業務にも、AT/Hを活用していきたいです」(黒澤氏)。

    さらに、齋藤氏も「与信業務や株価などの予想、お客さま向けサービスの強化など、当社のあらゆる業務においてAIは有効に利用できると考えています。貸株や売買審査で成功を収められたことで、各部門のマネージャーの間にもAI活用の機運が高まっています。将来的には、当社のお客さま一人ひとりに専用のAIを活用したコンシェルジュサービスを用意して、さまざまなアドバイスが行えるような環境を実現できればと思いますね」と展望を話す。こうした取り組みを進める中では、日立に寄せる期待も大きい。齋藤氏は「ITの専門家ではない人たちが、当たり前のようにAIを利用する時代が近づいています。日立にはAT/HやAIソリューションの拡充はもちろんのこと、経営層や一般ユーザー部門向けの支援も期待したいですね」と述べた。

    日立はこれからもカブドットコム証券との競争で、証券ビジネスのさらなる革新に取り組んでいく。

    齋藤 正勝 氏
    カブドットコム証券株式会社
    代表執行役社長

    黒澤 郁夫 氏
    カブドットコム証券株式会社
    売買審査室長

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