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五島市と日立の協創で、
鳥獣害から暮らしを守る。

2018-10-12

近年、シカやイノシシなどの野生動物による農作物の被害が深刻化・広域化している。農林水産省の調査によれば、その被害額は全国で年間約200億円といわれる。鳥獣害はその経済的損失だけでなく、営農意欲の減退、耕作放棄地の増加、さらには市街地の環境悪化や人的被害にも及んでいる。その対策のブレイクスルーとして、いま期待されているのがIoTを活用した日立の鳥獣害対策システムだ。この最先端の取り組みを、長崎県・五島市で追った。

広域化で急務となった鳥獣害対策

五島市は五島列島の南西に位置し、市の人口の9割以上* が住む福江島をはじめ、11の有人島と52の無人島からなる。また、2018年6月には「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」がユネスコの世界文化遺産に登録され、20もの教会が残る世界遺産の島″としても注目されている。この美しい島の新しい課題として浮上した鳥獣害対策の背景について、五島市農業振興課の藤原 勝栄氏は次のように語る。

「2015年の長崎県の調査では福江島の南西部に1,670頭くらいのシカが生息していることが分かっていましたが、その頃からイノシシによる水稲や甘藷などの農作物被害も福江島の北東部で出始め、シカとイノシシを合わせた被害額も年間で約500万円近くにのぼっています。また、イノシシと車・バイクがぶつかった人身事故や物損事故も起きています。そうしたなか、捕獲免許を持った猟師さんの数は100人程度と少なく、かつ高齢化していますので、このまま放置すれば被害がますます深刻化・広域化するのは目に見えていました」

*
34,804人(2017年3月末現在)。五島市全体の人口は37,298人(2018年7月末現在)

猟師の経験知と労力をIoTで補う

一般的な鳥獣害対策としては、電気柵やワイヤーメッシュ柵のほか、箱わなや囲いわななどが用いられる。なかでも捕獲の観点では機動力もあわせて箱わなが有効とされ、福江島だけでも約150基が設置されている。しかし、問題となるのが箱わなの管理だという。

「箱わなの設置場所にしても、これまではどこに設置するのか、どのタイミングで移設するかなど、猟師さんの経験知や見回りに頼るしかありません。また箱わなにかかっているかどうかを確認しに行くのも大きな負担です。これらを一元的にシステム管理することで、効率的で効果的な対策を実現するため、IoTの力を活用することにしました」(藤原氏)

そこで五島市では総務省の「ICTまち・ひと・しごと創生推進事業」に応募。NTT西日本と連携して、出没検知センサーや地理情報システム(GIS)などのソリューションを持つ日立との協創によって鳥獣害対策に取り組むことなった。


日立で開発中のクラウドサービス「鳥獣害対策支援サービス」のイメージ図

鳥獣出没の見える化で変わる捕獲

今回構築されたシステムは、鳥獣の調査・捕獲(わな)区域に、出没検知や捕獲検知のためのIoTセンサーを設置し、これらを地理情報システムと連携させることで、鳥獣の出没や捕獲などの状況をリアルタイムで可視化・通知できるようになっている。たとえば、イノシシの出没や捕獲をセンサーが感知すると自動的に写真撮影を行い、事前に登録された捕獲隊員にメールを送信することで、現場の状況を迅速に把握できる。

「このシステムは2017年11月末から、もっともイノシシ被害が大きい北東部の奥浦地区で、捕獲検知センサー10基、出没検知センサー10基という規模で市職員の捕獲隊が中心となって運用を始めました。出没エリアが地図情報上に可視化されたことで重点的に箱わなを仕掛けられる点が大きいと思います。従来設置されていたセンサーカメラだと、現場へ行ってSDカードを抜き取ってから所内で再生確認しなければならなかったので、その手間と労力のほとんどが軽減されました」(藤原氏)

もちろん出没・捕獲の情報は地区の猟師さんたちとも共有できるという。五島市ではここ数年のシカとイノシシの捕獲目標をそれぞれ500頭に設定し、その目標をクリアしてきた。とくにイノシシ被害は実りの季節と重なる。秋に向けてより効率的に効果的に捕獲するという点で、今回のシステムに対する期待は大きい。

捕獲の効率化に悩む自治体の希望に

藤原氏は今後の計画について、奥浦地区からさらに対象区域を広げるだけでなく、現在は直接被害を受けていない地域での出没データも取り込んで、さらに鳥獣害対策のレベルを高めていきたいという。また鳥獣害だけではない。不法投棄の監視、農業用水のチェック、防犯対策などにもつながるものとして期待される。

いま日立は、五島市に提供したセンサーデータを蓄積し鳥獣の出没や捕獲状況などを地図上に表示する機能を、「鳥獣害対策支援サービス」としてクラウド環境で提供することで、どのユーザーでも容易に利用できるようにしようとしている。我が国の農作物被害の7割を占め、大きな離農動機の一つにもなっているシカ、イノシシによる被害。その解消にむけた取り組みが、IoTと人のアイデアによって加速する兆しを見せている。

藤原 勝栄 氏
五島市農業振興課

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