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株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長 髙本真樹
近年、声高に叫ばれている企業の働き方改革。ただでさえ労働人口が減り続ける今、多くの経営者が人財確保に頭を悩ませている。その難題を解決するため、日立製作所システム&サービスビジネス統括本部は先端技術「HRテック」(*)をいち早く導入した。人事業務の高度化・効率化を進め、社員一人ひとりにもっと寄り添うことで、企業人事の高度化という新たなスタイルを切り拓こうとしている。2016年にシステム&サービスビジネス統括本部における技術系採用にてHRテックを採り入れ、現在も人事業務の改革を牽引する髙本真樹に話を聞いた。
*HR(Human Resource)とTechnologyを掛け合わせた造語で、AIやビッグデータ分析、クラウドなど先端的なITを活用して、人財の採用・配置・育成・評価などの人事関連業務を効率的に行う手法のこと。

なぜか採れなかった「コトづくり」人財

――日立はシステム&サービスビジネス統括本部における技術系採用にて、2016年にHRテックを導入しました。きっかけは何だったのですか。

髙本
新卒採用が狙いどおりにいかなかったことです。

ただでさえ学生の数が減っているなか、ここ数年弊社に必要とされているタイプの人財、つまり「モノづくり」よりも「コトづくり」に長けた人財を十分に確保できない状況が続いていました。

日立は社会インフラを支えるメーカーとして、お客さまが抱えている課題にモノづくりでお応えすることで成長してきた会社ですから、課題解決型の思考を得意とする社員がすごく多い。ところが近年、お客さまのニーズは大きく様変わりしました。「こういうモノをつくってほしい」というオーダーがほとんどなくなりましたし、ハードウェアだけの需要自体かなり減ってきました。今、弊社に求められているのは、新しい仕組みやこれまでになかった顧客体験、新たな価値を創造する「コトづくり」なのです。

では、なぜコトづくりを得意とする人財を確保できないのか。それを明らかにするための手がかりは、もしかしたら現役社員による現行の採用方法にあるのかもしれない。毎年新卒採用では、社内で優秀と評価されている社員に面接官になってもらっています。そこで我々は、HRテックを使った現状分析を試み、彼ら面接官自身の人財タイプを「じっくり思考型」「積極行動型」など4つに分類してみました。

その結果、面接官の人財タイプの比率とほぼ同一の割合で、新人を採っていたことがわかったのです。結局のところ弊社は、大多数を占める「モノづくり」が得意な現役社員と同じタイプの人ばかり採用していたわけです。このままだと、会社の体質は永久に変わるはずがない…。強い危機感を覚えました。

画像: なぜか採れなかった「コトづくり」人財

賑やかすぎた2017年度入社式

――そこからどうやって採用方法を変えていったのですか。

髙本
2017年卒の新卒技術系採用から、積極性や創造性に優れた人財をより多く確保できるよう選考方針を一新しました。例えば、それまで全社員の5%程度しかいなかったタイプAの人財を、新卒採用では15%確保するといった具体的な数値目標も設定しました。面接での質問も、通り一遍な内容ではなく、「コトづくり」が得意かどうかを確かめる具体的なものに限定しました。面接官になってもらう社員を集めて事前にワークショップも行い、考え方を徹底して採用に臨みました。

そうしたら、新人(内定者)の人財タイプのウェイトがガラッと変わったのです。日立の入社式というと例年おとなしめで、社長の東原が新入社員歓迎スピーチのあとに質問を求めても、ほとんど手が挙がることはなかった。ところが2017年度入社式では、100名くらいから手が挙がり、収拾がつかなくなるほどになったそうです。幹部の間では「今年の新人は一体どうしたんだ?」「何があったんだ?」とかなり話題になったそうで、後で調べてみたらその質問した者の大半が、我々システム&サービスビジネス統括本部が採用した面々だったことがわかりました。

HRテックを活用したことで、それまで日立には少なかったタイプの人財を狙いどおり採用することができました。データで人財を見ることの大切さを改めて学んだ我々は、HRテックを新卒者採用だけでなく人事業務全般にも活かしていきたいと考えるようになりました。

HRテックで見えた、曜日と生産性の関係

――人事業務では、具体的にどのような形でHRテックを活用されようとしていますか。

髙本
今行っている取り組みの一つは、社員一人ひとり、あるいは組織単位での生産性の意識の可視化です。

いろいろなデータを組み合わせて生産性を可視化していくと、面白いことがわかってきます。ある部署では、総労働時間はほぼ同じなのに、なぜか生産性の意識が高いチームと低いチームが現れました。この違いはどこから生まれてくるのでしょう? それぞれのチームの行動データを掛け合わせてみたところ、意外な分析結果が見えてきたのです。

それは「金曜日に残業しているチームは総じて生産性が低い傾向にある」。逆に言えば、「金曜日に残業していないチームは生産性が高い」という事実がデータから導き出されました。

実は日立では、週の中日である水曜日を、労使協定により定時退社日と位置付けています。社員の健康管理の観点から、医学的な裏付けをもとに決めたことですから、それ自体は決しておかしなことではありません。ところが生産性の観点で言うと、部署によっては金曜日こそが定時退社日にふさわしいのかもしれない、ということが見えてきたというわけです。HRテックによって、こういった今までのアナログ的な手法だけではなかなかわかりにくかった面白い事実が、次々と簡単に見えてくるようになったのです。我々もとても興奮しました。

もちろんこれはある特定の部署で見られた傾向で普遍的なものではないのですが、かようにきめ細やかな部署単位での分析も可能になってきたのです。

画像: HRテックで見えた、曜日と生産性の関係

さらに言うと、データ自体を社員に見せることが働き方改革の推進にもつながることになると考えました。例えば、部署ごとの生産性を比較して見せると、「どうしてうちの部があそこの部より低いんだ!?」と、自然と競争が起きるわけです(笑)。そのタイミングで我々人事担当が「こんな施策を打つと、もっと生産性が高まりますよ」なんて具体的な提案をすれば、すぐ受け入れてもらえるでしょう。データの力って本当にすごいな、と思います。

生産性=OUTPUT/INPUT

――髙本さんは、生産性をどう定義していますか。

髙本
いろいろな考え方がありますが、我々は「生産性=OUTPUT/INPUT」と捉えています。INPUT=主に労働時間。OUTPUT=仕事で生み出される価値。今、世の中では、分母の主体である労働時間をいかに短くするかばかりが話題になっています。それももちろん大事な要素ですが、労働時間だけを減らしても実際は生産性自体はあまり高まらないことが、我々のさまざまなデータ解析からわかってきています。もっと大事なことは、実は分子である「価値創造」の質をより高めることなのです。

我々の分析によると、例えば会社の経営方針を社員みんなで共有することでINPUTの削減にはつながりますが、OUTPUTの増大には、それだけではすぐに効かないことがわかっています。では何がOUTPUTに関係するかというと、その一つは組織の自立度を高めることです。社員が自らの意思で行動できる組織でなければ、社員の創造性も結局は高まらないことがわかってきました。

画像: 「幸せな社員」の増やし方
【第1回】HRテックが可能にした、狙いどおりの採用活動

髙本真樹
小樽市生まれ。1986年に株式会社日立製作所に入社し、大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長、情報・通信システム社人事総務本部プラットフォーム部門担当本部長を経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共に駆け抜ける "伴走者"も務めている。

「第2回:社員の『ご機嫌な状態』を見逃すな」はこちら>

関連リンク

ニュースリリース:生産性に対する社員の意識を見える化し、人事施策の高度化を支援する「日立人財データ分析ソリューション」を販売開始
日立人財データ分析ソリューションに関するウェブサイト
Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYOレポート:働き方改革の次へ(日立製作所 髙本真樹、桃木典子)

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