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SAPジャパン株式会社 バイスプレジデント 人事戦略担当 アキレス美知子氏
働き方による生産性の向上や豊かな生活の実現だけでなく、働き方の施策によって企業のエンゲージメント・スコアが変わり、企業の利益に影響することを数値によって実証したSAP。100年ライフを見据え、社員一人ひとりの自主性を重視した働き方につながるスキルとその能力開発の一端を紹介する。

「前編:“SAP流働き方”その行動指針と施策」はこちら >

最も革新的なクラウドカンパニーへ

――前編でSAP流の働き方の行動指針や施策を見てきましたが、何が一番重要だとお考えですか。

アキレス
働き方改革は社員自らが自主的に積極的に取り組むことが重要だと思います。自分でキャリアとライフを計画し、どういう仕事のやり方、どういう進め方をしたらいいのかを自ら発想して、実行していくことが大切です。会社が用意する働き方改革の施策やツールは、社員の成長と豊かな生活のために、背中を押してあげるサポートツールという感じではないでしょうか。そのためにも社員のエンゲージメントが非常に大事であると考えています。

――SAPではエンゲージメント調査を毎年行われていますね。

アキレス
2010年に「最も革新的なクラウドカンパニーになる」という目標をたてましたが、社員に対するエンゲージメント調査はそれ以前から毎年1回実施しています。50超の項目にわたり、いまの経営はどうなのか、ワークライフバランスはどうなのか、ダイバーシティはどうなのか、カルチャーはどうなのか…をつぶさに聞いています。経営陣もこれを非常に重視していて、経営指標の一つになっています。SAP本社の調査によると、エンゲージメント・スコアが1ポイント上がると約100億円の利益増につながるという試算があります。

画像: エンゲージメントフレームワーク

エンゲージメントフレームワーク

――エンゲージメント調査の結果は人事ではどのように生かされるのですか。

アキレス
SAP経営会議のメンバーと人事、それに自ら手を挙げた社員アドバイザリー(Employee Advisory Committee:EAC)のメンバーが、調査結果をすべて確認、分析します。特定の部門のみの課題、全社で共通する課題など、複数の角度から前年のデータと比較します。分析結果をベースに、今後のアクションプランを作成し、特に改善すべき分野を中心にさまざまな取り組みを実施していきます。

――何年くらいやられているのですか。

アキレス
調査と分析は以前から実施していましたが、特にここ3年は結果を受けてのアクションプラン策定と実行に軸足をおいています。具体的な成果例として、自ら学ぶという企業文化を強化するためのプロジェクトをたちあげ、社員主導で「寺子屋」というプログラムがスタートしました。寺子屋のコンセプトは“Everybody is a teacher. Everybody is a learner.”。わからないことや今更聞けないようなことを寺子屋のサイトに上げると、社員の中には知っている人がいて「それだったら知っているよ。じゃ今度セッションをやろう」と、社員による自由参加型セッションが行われるのです。過去のセッションの履歴もオンラインの社員ポータルサイトに残っていますので、必要な人はそこに資料を取りにいきます。この取り組みはあくまで社員が自主的に運営しています。学びを通して部門を超えた交流の場にもなっています。

――寺子屋のほかには、これまでどのような成果が生まれていますか。

アキレス
先ほど紹介したAppreciate Programや、各種ボランティアの施策、いろいろなタイプのネットワーキングの取り組みなどがあります。SAPでは本社をはじめ他国からの幹部の来訪も多くあります。海外からの幹部来日にあわせて、全社員と交流するCoffee Cornerセッション、女性社員や若手社員を対象にしたキャリア形成に関するラウンドテーブルなどを実施しています。また、社員アドバイザリーのメンバーがSAPのお客さま企業にうかがい、オフィスデザインの考え方を学習し、オフィスのリノベーション計画に参画するなど、社員起点の活動が広がっています。SAPの社員はみな好奇心を持ち、学習し、自分たちの業務に活かしている人が多いと感じます。

――ちなみに、評価はどのようにされているのですか。

アキレス
従来は、5段階での業績評価制度を実施していましたが、昨年から「SAPトーク」という評価システムを導入しています。これは、社員とその上司が日常的に継続的に対話することを通して、社員がプロとしてそして個人として成長していくことをサポートする仕組みです。

社員のパフォーマンスやモチベーションをあげるためには、年に1-2回ではなく、日常的かつ継続的なフィードバックが重要です。3つの対話項目があり、一つ目は年初に立てるゴール設定とその進捗。二つ目は自分の能力開発計画とその進捗。三つ目は職場環境。何か困っていることがあればということです。この三つを対話しながらお互いに仕事を進めていきます。直接会って話すこともあれば、モバイル経由でやりとりすることもあり、一年を通して行います。特に重要なポイントは、社員の能力開発で、これを最優先するよう管理職にコミュニケーションしています。先にも申しましたが、社員一人ひとりがタレントですよということです。

21世紀のこれからに求められるスキルとは

――デザインシンキングというのはSAPが得意としていると思いますが、これからはどんなスキルが求められるとお考えですか。

アキレス
ダボス会議で知られる世界経済フォーラムが21世紀に求められるスキルを発表しているのですが、2016年版では複雑な問題解決力、クリティカルシンキング、創造力、情緒的知性、交渉力、認識の柔軟性などをトップ10として挙げています。私たちもこれらを参考にしながら、各種のプログラム、カリキュラム、eラーニング、クラスルーム研修などの取り組みを進めています。個人的には、エンパシー(共感力)というスキルに注目しています。相手の立場に立ってモノを見て、発想して、行動に移す。自分がこうだからじゃなくて、相手にとってどうか、同僚もそうだし、お客さまの目から見てどうなのだと。これはデザインシンキングの考え方にも共通しています。さらには、好奇心、持続性、変化に対応する適応力、リーダーシップなど。取り上げればきりがないほど時代が複雑だということかもしれません。

――まさにスキル磨き、能力開発がますます重要になっていくわけですね。

アキレス
ラーニングは本当に継続が大事です。例えば、新卒・若手を対象にした3年間の育成プログラムがあります。以前は9カ月のプログラムで、日米で研修を受けながら、メンターとインストラクターが寄り添って全体をサポートしていくものでした。2017年からは9カ月で終わるのではなく、3年間のプログラムになりました。非常に手厚い育成プログラムで、若手社員のキャリアを個別にサポートしていきます。

――どのような形でトレーニングしていくのですか。

アキレス
全体的には、社員が必要な知識やスキルを習得するための研修は、eラーニングやクラスルーム形式、またはWEBを活用したものなどさまざまな選択肢があります。さらに、キャリアプランに沿って、関連業務やリーダーシップに関するトレーニングを受けることができます。また、ピア・ツー・ピア・ラーニングといって、ラーニングパートナーを決めてペアで取り組むものや、社内で本業をやっていながらコーチに興味のある人がコーチ・プログラムを受けて認定されると、就業時間内でもコーチの役割で他の社員のコーチングすることができるコーチング・ネットワークなどもあります。本社で全世界向けの研修プログラムを統括している部署が提供するリーダー層向けのフラッグシップ・プログラムでは、今まさにSAPビジネスが直面しているような課題にグループで取り組む実践的なトレーニングもあり、社員から高い評価を受けています。

「100年ライフ」を意識した働き方改革を。

――これからの働き方改革についてお考えをお聞かせください。

アキレス
まず、働き方は手段であって目的ではないということ、会社が強制するものでもないということをしっかりと認識しておくことが大切だと思います。基本は、社員一人ひとりが自分のキャリアとライフについて、何をめざしていきたいのかをしっかり自覚することです。会社はキャリアワークショップやSAPトークでの上司との対話の機会、メンタリングプログラムなどさまざまな支援を提供します。

どんなキャリアを築きたいのか、どんなライフを送りたいのかは人それぞれです。しかし、達成したい目的が明確にないと日常に流されてしまいます。したがって、常に目的意識を持って、ライフステージにあわせ仕事や私生活へのウエイトの置き方を見直していく、その積み重ねでキャリアもライフも自らリードしていく。誰もが100歳以上を生きうる「100年ライフ」の時代が訪れ、従来とは違う新たなライフステージが生まれると説く書籍『LIFE SHIFT』が話題になっています。日本政府も取り上げ、その著者で未来学者でもあるリンダ・グラットンさんが招かれて「人生100年時代構想会議」に参加されています。同氏は、一人ひとりが人生のなかでやりたいことを設計していく時代になるとして、従来の教育、仕事、引退というライフコースにとらわれない、エクスプローラー、インディペンデント・プロデューサー、ポートフォリオワーカーという新たな働き方が生まれると語っています。まさに、働き方をその都度シフトしながら長い間にわたって働いていくということです。100年ライフを意識して、SAPの社員一人ひとりが、自らキャリアとライフを思い描き、その実現のために今何をするのか考え、実行し、学び続けてほしいと願っています。

画像: 「100年ライフ」を意識した働き方改革を。

※記載の社名、ロゴは、それぞれの会社の商標または登録商標です。

画像: アキレス美知子 上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国 Fielding 大学院にて組織マネジメント修士課程修了。富士ゼロックス総合教育研究所で異文化コミュニケーションのコンサルタントとしてキャリアを開始し、日本およびアジアで、シティバンク銀行などで人事・人材開発の要職を歴任。 あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員広報・CSR・環境企画・お客様センター・風土改革担当、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与として活躍後、2015 年 1 月に SAP ジャパン人事本部⻑に就任。 SAP 社外においても、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、日本生産性本部女性パワーアップ会議推進委員、NPO 法人GEWELアドバイザリーボード・チェアなど幅広く活動。また、2010年から3年連続で「APEC 女性と経済フォーラム」に日本代表メンバーとして参加。2017年世界女性サミット東京大会では、日本実行委員会コアメンバーおよびスピーカーを務める。 米国ダイバーシティ・グローバル誌より「2017年度グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある女性10人」にもアジアから唯一選出されている。共著に『メンタリングハンドブック』(日本生産性本部)、『人事よ、ススメ︕』(中央経済社)、『世界最強人事』(幻冬舎)。

アキレス美知子
上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国 Fielding 大学院にて組織マネジメント修士課程修了。富士ゼロックス総合教育研究所で異文化コミュニケーションのコンサルタントとしてキャリアを開始し、日本およびアジアで、シティバンク銀行などで人事・人材開発の要職を歴任。 あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員広報・CSR・環境企画・お客様センター・風土改革担当、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与として活躍後、2015 年 1 月に SAP ジャパン人事本部⻑に就任。
SAP 社外においても、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、日本生産性本部女性パワーアップ会議推進委員、NPO 法人GEWELアドバイザリーボード・チェアなど幅広く活動。また、2010年から3年連続で「APEC 女性と経済フォーラム」に日本代表メンバーとして参加。2017年世界女性サミット東京大会では、日本実行委員会コアメンバーおよびスピーカーを務める。 米国ダイバーシティ・グローバル誌より「2017年度グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある女性10人」にもアジアから唯一選出されている。共著に『メンタリングハンドブック』(日本生産性本部)、『人事よ、ススメ︕』(中央経済社)、『世界最強人事』(幻冬舎)。

シリーズ紹介

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一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

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山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

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パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

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マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

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