日立は神奈川県秦野市千村の里山にITエコ実験村を2011年に開村し、ITが生態系保全にどのような貢献ができるのかについてさまざまな実証実験を進めている。例えば温湿度センサーやGPS、カメラなどで収集したデータを分析し、農業支援や鳥獣害対策などに生かしている。そして、このITエコ実験村のもうひとつの特長はこうした保全活動を、秦野市や東海大学、地域の人々との協創で進めている点だ。

事例の詳細は動画もしくは記事でご覧ください。

地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。

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生態系保全に向けた地域との協創

神奈川県秦野市千村の里山。ここには湧水があり、ニホンカモシカやアナグマ、タヌキなど生息する動物たちの水飲み場となっている。自然のミネラルを豊富に含んだ湧水は里地の水田も潤し、さらに水路や溜池には神奈川県の絶滅危惧種に指定されているホトケドジョウやアカハライモリが生息するなど、多様な生態系が存在している。

ITエコ実験村があるこの場所は長い間、休耕田で荒れ地だったが、日立は地域の人々とともに水田や水路の整備など田畑の再生を進め、生き物たちにとって住みやすい環境を維持している。

そしてITエコ実験村は地域とともに生態系の保全に向けたさまざまな取り組みを進めている。例えば、東海大学とともにこの里地里山にどんな生き物が生息しているのか継続的に調査を行い、自然共生研究に役立てている。

また地域のこども園や小学校、日立の従業員とその家族に向けて、自然体験学習の場として、田植えや稲刈り、生き物観察会など自然と楽しく触れ合える機会を数多く提供している。

さらに神奈川県の高校生の環境学習支援や環境を学ぶ大学のインターンシップ生の受け入れを通じて環境人材の育成にも貢献している。

画像: 地域の人々と日立の協創

地域の人々と日立の協創

生態系保全へのIoT活用

「里山は、人が適正な手入れをすることによって自然の資源を持続的に受け取ることができるシステムです。また、里山の保全には、人と自然とのコミュニケーションが重要になります。そこでこの村ではセンサーやカメラなどを使って収集したデータを分析し、里山の保全状況を見える化しています。つまり『IoT』の技術を生かして、自然とのコミュニケーションを活性化しているのです」と、ITエコ実験村 村長(日立製作所 環境推進本部 本部長)の出居昭男は語る。

例えば、「農業IoTソリューション e-kakashi」を活用した実証実験では、センサーで水田の温度や湿度、水温、日射量、土壌水分量などのデータを収集し、里山でのコメ作りのノウハウを蓄積し、それを共有する取り組みを進めている。

また、全国に広がる鳥獣被害の対策にも取り組んでいる。「鳥獣害対策支援サービス」や「新鳥獣害対策ソリューション」を活用した実証実験では、里地里山に設置した鳥獣忌避用のセンサーが田畑への動物の侵入を検知すると音と光で威嚇し、離れるように仕向ける。さらに動物の出没を検知すると自動撮影した写真と位置情報をクラウド上に収集。各種センサーで取得した検知状況をまとめ、出没頻度の高い場所を地図上で見える化し罠の設置場所の判断を支援する。そして鳥獣が罠に掛ったことをセンサーが検知するとメールで通報するなど、捕獲員の負担を大く軽減している。

画像: ①農業IoTソリューション e-kakashi *1 *1 e-kakashiはPSソリューションズ株式会社の日本における登録商標です。 ②鳥獣害対策支援サービスのイメージ

①農業IoTソリューション e-kakashi *1
*1 e-kakashiはPSソリューションズ株式会社の日本における登録商標です。

②鳥獣害対策支援サービスのイメージ

生き物の里(千村)管理運営協議会会長で、有害鳥獣捕獲員でもある伊丹憲一氏は、「鳥獣害対策支援サービス」の効果を次のように語る。

「鳥獣被害は農家の死活問題です。罠を仕掛ける時にこの仕組みがあれば、どこにどんな動物が何頭くらい来ているのかが見えますし、写真を見て罠の位置を調整することもできます。おかげで予想を大きく上回る捕獲数を上げることができ、鳥獣被害が減少しています」。

ITエコ実験村の活動への地域の期待

日立とともに活動を進める秦野市は、その豊かな生態系を財産と考えている。秦野市 環境産業部 環境保全課 課長の谷芳生氏は、協創による保全活動に手ごたえを感じている。

「秦野市の原風景である貴重な谷戸*2のいくつかを、市では“生き物の里”と指定して保全に努めていますが、ITエコ実験村もそのひとつです。特にITエコ実験村では、日立さんがリーダーシップをとって地元の人たちを巻き込みながら管理をしていて、とてもいい取り組みを進めています。またITを使った新しい取り組みも、“生き物の里”の保全だけでなく、秦野市の農業にも貢献してくれるものと期待しています」。

秦野市立しぶさわこども園 園長 府川宏子先生は、子どもたちの成長にITエコ実験村での体験がよい影響を与えているという。

「生き物観察会で虫に触れたり、自分たちで収穫したお米を食べたり、どれも感性の発達にとって貴重な経験です。この身近な自然をこれからも子どもたちが活用できるように守っていただきたいと思います」。

東海大学 教養学部 人間環境学科 自然環境課程の北野忠教授もITの活用により保全活動の輪がさらに拡大する可能性に大きな期待を寄せている。

「生物多様性が豊かであることは、人間が生きていくうえで重要だと言われています。そして里山というのは、人が手を加えることで、結果的に生物多様性が進む場所だといえます。里山の管理は、もともとは管理している方の経験や勘によるところが多かったわけですが、ITを使ってそうした知恵を数値化することで、より一般的な方でも里山を管理することができるようになると期待しています」。

*2 谷戸:丘陵地が浸食されてできた谷状の地形。水が集まるため古くから集落があり、田畑が営まれている場合が多い。

里山保全は地域の活性化にもつながる

里山の保全は、地域の活性化にもつながるとも言われている。「里山資本主義」の著者で、地域振興を研究している株式会社 日本総合研究所 主席研究員の藻谷浩介氏に話を聞いた。

「里山というのは、人にとってビタミンのような場所です。地域の活性化とは、究極的には人が減らなくなることですが、そのために里山地域が都市部よりも優れている点を理屈でもわかり、体でも経験した人を増やしてほしい。その結果、地域の人口が減らなくなる。これはものすごく地域活性化に意味があります。

ぜひここから世界の里山保全が始まったと言えるような取り組みを創り出して欲しいですね」。

2015年、国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs*3 )でも、生態系の保護を見据えた森林の管理や気候変動対策としての温室効果ガスの排出量抑制などが求められている。

いま「里山」は自然資源の持続可能な利用形態のひとつとして、グローバルなキーワードになっている。日立はこれからも、里山の恵みを次の世代に引き継ぐための新しい取り組みを、ITエコ実験村で地域の人々とともに協創していく。

*3 SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS

画像: 里山保全は地域の活性化にもつながる
画像1: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

出居昭男
日立製作所 環境推進本部 本部長
ITエコ実験村 村長

画像2: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

伊丹憲一氏
生き物の里(千村)管理運営協議会会長
(有害鳥獣捕獲員)

画像3: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

谷芳生氏
秦野市 環境産業部 環境保全課 課長

画像4: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

府川宏子先生
秦野市立しぶさわこども園園長

画像5: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

北野忠教授
東海大学 教養学部 人間環境学科 自然環境課程

画像6: 地域と日立の協創で、里山の恵みを次の世代へ。
【日立ITエコ実験村の取り組み】

藻谷浩介氏
日本総合研究所 主席研究員

※所属・役職等はすべて取材日時点のものです。

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