今回は、「リーダーシップ」について川淵氏と阿部が語り合う。サッカー関係者だけでなく、地域社会も巻き込むための川淵氏の説得術について、阿部が迫る。また、選手の個性をうまく機能させるにはどうすればよいか。現日本代表の森保監督、そして川淵氏が印象に残っているというオシム監督、それぞれの特徴についても語っていただいた。

「第1回:サッカーのプロ化に取り組んだ原点は『挫折経験』」はこちら>
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リーダーシップを発揮して地域社会との連携を進める

阿部 
リーダーは、高い目標を掲げるとともに、それに従う人たちのモチベーションを高めて、目標の実現に向かって引っ張っていくことも重要な仕事です。Jリーグでは、サッカー関係者だけでなく、地域社会の皆さんにも理解していただき、同じ方向をめざしていく必要があったのではありませんか。

川淵
そうですね。ぼくがこうしようと言っても、すぐにみんながついて来てくれたわけではありません。人口100万人のある都市で、サッカー施設をつくる必要を説いた時、その自治体の人は、施設をつくっても年間1万5千人の観客などはとても集められないと言っていました。そこで、人口が800万人のロンドンには14くらいのプロのクラブがあるという話をしました。単純計算でも、だいたい60万人で1つのクラブを支えているわけです。中には隣のクラブと100mくらいしか離れていないケースだってある。そういう具体的な事例を上げながら説明しました。これは、自治体の説得だけでなく、選手に対する説得にも言えますが、つねに具体的な事例など挙げながら、理論的に説得していくことが大切です。

阿部 
Jリーグが成功した結果、いまでは各地で積極的にサッカーチームの運営やスタジアムの建設に取り組まれていますね。

川淵 
いま、政令指定都市が20くらいありますが、そこには全部Jリーグのチームがあります。ギラヴァンツ北九州がJFL(日本フットボールリーグ)からJリーグに昇格した時に、市長が空港までチームを迎えに出てくれたという話を聞きました。その時、「ヨーロッパのようになってきたなあ」と、ほんとうに嬉しくなりました。その北九州市ではサッカー競技場も建設しました。北九州市で、スタジアムづくりや、どうやったら地元が活性化するかという講演をしたこともあります。市長にサッカーに関心を持ってもらえるのは、喜ばしいことです。

画像: リーダーシップを発揮して地域社会との連携を進める

阿部 
Jリーグで活躍すれば、地域の名前も全国に知れ渡りますね。

川淵
鹿島アントラーズがJリーグの10チームに入った時、鹿島町(当時)という地名が全国に知れ渡るとともに、大人も子どもも一緒になってアントラーズを応援するようになり、共通の話題も増え、町に活気が生まれたと、町の人たちが喜んでくれました。Jリーグは、そういう価値を地域社会に生むことができるんです。

選手の個性をうまく機能させるのが監督の役割

阿部 リーダーシップという点では、個性豊かな選手たちを指導する監督にも、いろいろなタイプがありそうですね。

画像: 選手の個性をうまく機能させるのが監督の役割

川淵
いまの日本代表の森保監督は、ユニークと言えばユニークです。海外から2チームを呼んで強化試合を行った時、ふつうは中心選手を軸にしながら、その他の選手を入れ替えるのですが、2試合とも完全にメンバーを入れ替えました。そういう点で、森保監督の選手の起用はうまいと思います。選手からすれば、自分を勝負どころで使ってくれれば、監督はそういう役割を自分に求めているんだな、と理解できますね。選手の監督に対する信頼は、そういうところから生まれます。

阿部 
川淵さんの中で、印象に残っている監督はどなたですか。

川淵 
オシム監督ですね。“ボールも人も動くサッカー”というのを提唱し、それを通じてオシム流のサッカーを構築していきました。そのサッカーの実現に向けて特徴ある選手を試合に起用していきました。ぼくから見るとオシム監督のサッカーは理解し易かったですね。また、オシム監督は選手に迎合することなく、かなり厳しく接していて、カリスマ性がありました。代表チームは優秀な選手を集めて編成されるわけですが、優秀な選手はそれぞれ個性があるので、その個性をうまく束ねて機能させる必要があります。それをできるのが良い監督です。一概にどういう指導スタイルが良いとは言えませんが、そのチームに合った監督というのはあると思います。いまあるチームを見て、それぞれの選手を生かすチームづくりをするにはどうしたら良いかということに対してきちんとやれる監督かどうかなんです。有名な監督が就任したから良いチームができると思うのは大間違いです。

阿部 
日本の代表チームも、どんどん伸びていますから、自ずと求められる監督の資質も変わってきているのでしょうか。

川淵 
おそらく多くのサッカーファンの方は、少し前まで、なぜ日本の選手はボールを持ってもシュートを打たないのだと思っていたのではないでしょうか。ところがいまの日本代表の選手は、果敢にシュートしています。我こそが点を取るという意識をみんな持つようになった。これは大きな変化です。監督が、もっとボールを回せなどと指示したら、そういうプレイは出てきませんから、森保監督はそれを認めているということですね。

阿部 
森保監督のように、スターティングメンバーを全員入れ替えることで、より多くの選手に試合を経験させることもできますね。仕事でもそうですが、経験を積む機会を多く与えていかなければ、一人ひとりのスキルも上がっていきません。いまやインターネットやスマホを使うのが当たり前という時代になっていますから、過去の経験をそのまま伝えるだけではなく、実際に仕事の経験を数多く積んでいくことで、若い人たちも育っていきます。

川淵 
おっしゃる通りです。経験を積むということは、たいへん重要です。日本人選手が海外の一流選手、一流チームと試合をする時に何が問題になるかというと、Jリーグではこのスピードなら必ず通ると思ったパスが通らなかったり、ドリブルで抜けると思ったら相手の足が長くて抜けなかったり、あるいは、相手選手と対峙した時に、これくらい強く当たれば絶対に勝てると思っていたのが、飛ばされるといったことです。そういう経験をして、もっと強いパスを出さなければ通らないということが分かってくるわけです。いまの日本代表のほとんどがヨーロッパのリーグでプレイしていますので当たり負けすることはほとんどなくなりましたが、ぼくが初めて国際試合で相手選手と当たった時、まるで岩のように感じました。その時はたいへんショックでしたね。そういうことは、実際に試合をしてみて初めて分かることです。

画像1: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第3回】同じ方向をめざしていくためのリーダーシップと信頼感

川淵 三郎(かわぶち・さぶろう)
1936年、大阪府出身。早稲田大学サッカー部在学中にサッカー日本代表に選出。1961年古河電気工業に入社。1970年、現役引退。日本代表監督などを経て、1991年Jリーグ初代チェアマンに就任。2002年日本サッカー協会会長。2014年から日本バスケットボール界の改革に関わる。2015年、日本トップリーグ連携機構会長。2016年、日本バスケットボール協会エグゼクティブアドバイザーに就任。2018年より日本サッカー協会相談役。『虹を掴む』、『「J」の履歴書』、『51歳の左遷からすべては始まった』、『采配力』、『独裁力』、『黙ってられるか』など著書多数。

画像2: 挫折も衝撃も、成長発展の「きっかけ」に変えられる
【第3回】同じ方向をめざしていくためのリーダーシップと信頼感

阿部 淳(あべ・じゅん)
1984年 株式会社日立製作所入社、2001年 ソフトウェア事業部DB設計部長、2007年 日立データシステムズ社 シニアバイスプレジデント、2011年 ソフトウエア事業部長、2013年 社会イノベーション・プロジェクト本部・ソリューション推進本部長、2016年 理事 サービス&プラットフォームビジネスユニット 制御プラットフォーム統括本部長(大みか事業所長) 兼 ICT事業統括本部 サービスプラットフォーム事業本部長、2018年 執行役常務 産業・流通ビジネスユニットCEO

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一橋大学ビジネススクールの楠木教授の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

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新たな企業経営のかたち

SDGs、人工知能(AI)、デザイン思考、ブロックチェーンなど、経営戦略に関わるホットイシューについて、斯界の第一人者に聞く。

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各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

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