「人口減少にどう構えるか-その1 トレンドとサイクル。」はこちら>
「人口減少にどう構えるか-その2 ヨーロッパと日本の婚外子比率。」はこちら>

人口減少に対して多くの人が思っているのは、たぶん「国力が減る」ということでしょう。いまのままずっと人口が減っていくと日本が絶滅するみたいなことを言う人がいますが、これはちょっと悲観的過ぎます。

人口の問題に詳しい藻谷浩介さん※が言っているのは、「日本は世界に先駆けて高齢者の絶対数の増大が止まる」ということです。高齢化で先を行っている日本は、高齢化の絶対数が止まるのも一番早いわけです。あるところで人口減が止まり、定常状態になる。「このままいくと日本の人口はゼロになり、日本人は絶滅する」というヘンなことをいう人もいますが、そういうことはあり得ません。

※藻谷浩介:日本総合研究所調査部主席研究員、日本政策投資銀行地域企画部特別顧問(非常勤)、地域エコノミスト。著書に、「里山資本主義」「デフレの正体」「観光立国の正体」など。

多くの人が、人口減少について直感的に大変だと言っているのは、「定常状態になるまでのプロセス」が大変だと言っているだけです。社会保障費の増大に伴う財政の赤字で、それを将来に先送りしている。そのとおりだと思いますし、大変だと思いますが、そんなことは前からわかっていたことです。これからいよいよ問題が顕在化していくでしょう。

ただ、「東京大空襲」とか「敗戦」よりはましなのではないでしょうか。ちょっと突き放した言い方ですが、戦後復興ができた日本の経験を考えると、何とかなるのではと思っているんです。

いざとなったときに、他の国にない日本の本質的な国力は、レジリエンス(復元力)です。「明治維新」と「戦後復興」という実績をみると、いざとなったときの日本と日本人の復元力は世界に冠たるものがあると思います。

人口が減ると国力がなくなるというのであれば、ドイツはどうですか。もっと小さくてスウェーデンはどうですか。新興国でも、シンガポールはどうでしょうか。東京23区と同じような面積で人口は561万人でも、国として繁栄することは可能です。1人当たりの豊かさが国力の指標である場合、分母の数が小さくなること自体は悪いことでもいいことでもない、まったくニュートラルなものだと思うんです。

考えるべき問題は、人口減の先にどのような日本をイメージするのか、定常状態になった時の日本はどのような国であるべきなのかということです。人口減の先にあるビジョンが大切だと思います。

たとえば7,000万人規模で定常状態を迎えたとします。7,000万人規模というのは、昭和21年の日本の人口です。日本は、人口が増えていくときにいろいろな制度とか、企業の経営のコンセプトができ上がってしまいました。『頭』では「そうだよね。もう人口減少社会だよね。成熟してるよね」と理解していても、『体』がまだ人口増を前提とした高度成長期のままである人が少なくない。7,000万人の定常状態になったときの日本のビジョンを考えるというのは、新機軸をつくる絶好のチャンスだとすら思うんです。

どっちにしろ量的にはここから先は後退戦です。でも、質的には、かなりポジティブなビジョンが開ける面がある。人口減は諸悪の根源のように言われていますが、全面的に良いこととか全面的に悪いことってないですよね。良いことにはそれと同じくらい悪いことが裏側にあって、逆もまた真なりだと思うんです。悪いと言われてることの裏には、それと同じぐらいいいことがあるんです。昔から「ピンチはチャンス」というのは、そういうことを言っているんですね。

人口が増えていた高度成長期は、交通渋滞、受験戦争、住宅難、物価が上がるといった悪い話が横溢していました。「こんな小さな国にそんなに人が増えてどうするんだ、大変だ、問題だ」とみんなが言っていた。でも、人口が減りだしたら、またこれはこれで「大変だ、大変だ」となる。「じゃあどうすりゃいいんだよ!」いう話なのですが、人間の認識ってそういうものです。そのときどきの不満や問題に目が向くんですね。

単純に、こんなに狭くて国土の7割は山で住めない、天然資源も少ない国で、成熟した穏やかな暮らしをしていくときの人口規模としては、1億2千万は多すぎる。7,000万人や8,000万人の日本のもつアドバンテージはかならずある。人口減少を前提にポジティブな未来を描く、そこにリーダーの役割があると思います。

画像: 人口減少にどう構えるか-その3
人口減少の先にある社会。

楠木 建
一橋大学ビジネススクール教授
1964年東京生まれ。幼少期を南アフリカで過ごす。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了(1992)。一橋大学商学部専任講師、一橋大学商学部助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授、2010年より現職。
著書に『「好き嫌い」と才能』(2016、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください:たった一つの「仕事」の原則』(2016、ダイヤモンド社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『経営センスの論理』(2013、新潮新書)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)などがある。

「人口減少にどう構えるか-その4 人口減少の構えと移民のリスク。」はこちら>

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