国内企業としていち早くHRテックを導入し、着々と人事業務の高度化や社員サポートの質を高めようとしている日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部。今、その人事業務改革はどんな段階にあるのか。そして、改革をリードする日立の髙本真樹がHRテックの導入を考えるきっかけとなった、職場における異変とは。さらに、人財確保が難しくなった今、企業が取り組むべきことについて髙本の実感をもとに語ってもらった。

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経営判断の材料に「人財諸表」を

――企業の経営者は今、HRテックをどう見ているのでしょうか。

髙本
HRテックの重要性は多くの方が理解されていると思いますが、「そうは言っても、データだけで人事を判断するのは怖い」という声がまだまだ多いようです。わたしとしては、それってすごく不思議に感じるんですけど。

財務諸表って、数字じゃないですか。皆さん数字で経営を判断なさっているのに、こと人事になると数字だけじゃ判断できないという。「数字にちゃんと表れてますよ。よくわかってあげてくださいよ、社員のことを」って、わたしは思うんですけどね。

例えば、社員10人のチームで年間10億円の利益を稼いだとします。利益率は20%以上。財務的には素晴らしいチームですよね。ところがその内訳は、10人のうち1人だけが9億円稼いでいて、残りの9人で1億円しか稼げていないとしましょう。

ここで大事なのは、彼らの意識やモチベーションが高いかどうかです。わたしがその会社の人事だったら、HRテックを使ってそれを数値化します。もし、9人が1人のスーパーエースをめざして「自分もああなりたい」と思って努力しているのなら、人事的にも何の問題もありません。逆に、9人みんなすでにモチベーションを失っていて、「やってられねえよ!」と思っていたら大問題です。ある日突然、チームの半分くらい辞めてしまうかもしれない。そうなったらもう、経営としてはすでに足元がぐらついている状態にあるわけですよ。

財務諸表だけ見ても、そこまではわからないですよね。だから、経営判断を間違えるリスクがあるのです。

我々が提案したいのは、企業が「人財諸表」も作ることです。例えば、社員のモチベーションが前期に比べて上がっているか下がっているかを数値で記載する。平均勤続年数、社員構成のグローバル化比率、管理職の男女比率、総労働時間、残業時間、社員への教育投資額なども載せるべきだと思います。そうすることで、より的確な経営判断を可能にするだけでなく、投資家が企業の将来価値を判断するヒントにもなります。今、投資家の間でESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:企業統治)が重視されているように、企業が持つ情報はできるだけオープンにしていきましょうという方向に世界は動いていますから。わたしはそれがルール化される前でも、日立のような企業こそが先行してそれに取り組んでいくべきと考えています。

画像: 経営判断の材料に「人財諸表」を

向こう3~5年はデータの蓄積段階

――HRテックの活用が進む今、日立の人事業務はどんな段階にあると感じていますか。

髙本
5段階で言うと「3」くらいかなと思います。

最終段階の「5」は、社員が自分の状態を知りたいと思ったときに、例えばチャットボットで的確なアドバイスを得られるような状態。社員のさまざまなデータから予測や予兆検知のようなことができる力を持てるようになるレベルですね。「4」は、人事部門がデータをもとにして一人ひとりに刺さる具体的で効果の高い施策を打ち、なおかつその検証ができる段階。我々は今、その入り口にいます。

テクノロジーが進化したと言っても、人の内面は複雑で有機的です。社員を育成するにしても、OJTがいいのかOff-JTがいいのか、配置転換が必要か、上司との関係はどうかなどいろいろな要素が絡んできます。そういったことを総合的に考えながら、「今、この社員にはこういう順番で施策を打とう」という判断ができるところまで、まずは人事業務の質を高めていきたいと考えています。

その段階に達するにはまだもう少し時間がかかると思います。データを集めて分析するっていうサイクルを、これから何回も繰り返す必要がある。向こう3年から5年くらいは、質の良いデータを蓄積する段階だと考えています。

20年ぶりに戻った職場で感じた、社員の閉塞感

――近年、多くの企業が「働き方改革」に取り組んでいます。髙本さんが、日立における働き方改革の必要性を一番強く感じたのはいつ頃のことですか。

髙本
わたしが1986年に日立に入社して最初に配属されたのがこの大森オフィス(当時は大森ソフトウェア工場)で、その後、何度かの転勤を経て2012年に20年ぶりに戻ってきたのですが、そのときにすごく違和感を覚えたんですよね。なんとなく社員に覇気が足りないというか、疲れているというか…もっとわかりやすく言うと、「活き活きとしていないな」と感じていました。ITマーケット自体は日本でも数少ない成長分野でもあり、そう厳しい状況ではなかったのに、なぜなんだろう?と。

その2年後に日立は、国内の課長職以上の社員を対象に、かつての年功序列制を廃止して成果主義の人事制度を導入しました。でも、成果主義制度に変わったからといって新しいポストがどんどん増えていくような状況でもなかった。(結局、上のポストが空かなかったら自分たちいつまで経っても上がれないよね…)という虚無感が、ミドル以下の社員の間に漂っていました。それに加えて、日本経済の低成長化、グローバル化も簡単にはいかない状況から来る閉塞感も、彼らから強く感じましたね。

それに、海外企業と比べて日本はHRテックの導入がかなり遅れていましたから、メーカーでありテクノロジーがある弊社こそが、むしろ率先して導入すべきという思いもありました。

社員を大事にしない会社に、人財は集まらない

――日立が考える、働き方改革の本質とは何でしょうか。

髙本
幸せを感じ、充実感に溢れ、活き活きとした社員が増えることです。

もちろん、人それぞれ価値観は異なりますし、苦労への耐性だって違うでしょう。でも、日立の社員のベースにあるのは、「自分たちが世の中の、社会の、世界の未来を変えるつもりで仕事をしている」という意識です。解決すべき社会の課題が大きいほど、そこに貢献するために多少自分の時間を割いても苦にならないという社員が多くいます。反対に彼らにとって辛いのは、「どうしてこんな仕事しなきゃいけないの?」「この仕事意味あるの?」と感じてしまう時間に拘束されることです。

――つまり、企業が社員一人ひとりの働きがいに向き合わなければいけない時代だ、と。

髙本
今や、社員としっかり向き合わない、つまり、人を大事にしないような会社に人財が集まるはずがないですよね。もはや、人財確保における企業の優位性は、給料や企業規模などの単純な問題で決まるものではありません。今の若い人たちが会社選びで大事にしているのは、自分が活き活きと働ける会社かどうか。若い自分にもやりがいのある仕事ができるチャンスがどんどん来るかどうかなのです。

画像: 社員を大事にしない会社に、人財は集まらない

ITの知識に限って言えば、デジタルネイティブ世代の社員に我々が教えなければいけないことなんてほとんどないですよね。それより、むしろ彼らを解き放って自由にチャレンジさせた方が能力を発揮させることができるはずです。イノベーションだって当然にして起こりやすくなる。もはや昔のように「入社して1、2年は丁稚奉公だと思って頑張りなさい」なんて言っている時代ではない。「この会社では自分のやりたいことができない、させてもらえそうにない」と判断した時点で、彼らはすぐに会社を辞めてしまいますから。だからこそ社員の一人ひとりに深く寄り添っていける会社になること、また、HRテックを活用して一刻も早くそれを実現できる高度な人事部門になることが非常に重要だと考えています。

――若手の退職を避けるために、企業は何を重視すべきでしょうか。

髙本
働きがいや生きがいを大事にする上でベースになるのが、やはり社員に時間の余裕を作ってあげることです。長い時間働いて消耗して家に帰って寝るだけの生活ではお金は稼げるかもしれませんが、心のゆとりが無かったら、質の良い高付加価値な仕事なんかできるはずがないと思います。時間の余裕を生むことが、ゆくゆくは例えば兼業解禁に向かっていくかもしれないし、ワークライフバランスの“ライフ”の充実につながるかもしれない。仕事以外にも、とにかくいろんな経験をしてこそ人は大きく成長するし、発想も豊かになるし斬新にもなる。やがてはそれが“高付加価値なワーク”にも返ってくる。わたしはそう信じていますし、それこそがワークライフバランスの意味するところの本質だと思っています。

その上で会社は、社員に常に「ワクワクするようなチャレンジングな新たな価値創造ができる仕事」をたくさん用意して提供することに尽きると考えています。そんな会社の実現をめざしてこれからも頑張っていきたいですね。

お知らせ

株式会社日立製作所は、10月18日(木)、19日(金)の両日、東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて、「Hitachi Social Innovation Forum 2018 TOKYO」を開催します。「社会イノベーションで、ともに豊かな社会を」をテーマとした、講演、対談、ビジネスセッション、セミナー、展示などの多彩なプログラムをご覧いただくことができます。無料で参加できます(事前登録制)ので、ぜひご来場ください。
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画像: 「幸せな社員」の増やし方
【第3回】「社員との向き合い方」で、企業側が選ばれる時代

髙本真樹
小樽市生まれ。1986年に株式会社日立製作所に入社し、大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長、情報・通信システム社人事総務本部プラットフォーム部門担当本部長を経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共に駆け抜ける "伴走者"も務めている。

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