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株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長 髙本真樹
社員の生産性を測ることを可能にした、日立のHRテック。第2回では、そのもうひとつの特色である社員の「ご機嫌な状態」の定量化について、第1回に続きシステム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部担当本部長の髙本真樹が紹介する。こうした技術を用いた日立の人事業務改革は社外からも高く評価され、今年「第3回 HRテクノロジー大賞」を受賞。HRテックが急速に注目されるようになった背景についても語ってもらった。

「第1回:HRテックが可能にした、狙いどおりの採用活動」はこちら>

社員が「ご機嫌」に働けているかどうかを、定量化する

髙本
さきほど(第1回)お話しした生産性の可視化のほかに、我々は社員が「ご機嫌な状態」で働けているかどうかも計測しています。

――「ご機嫌な状態」とは?

髙本
社員一人ひとりが組織や仕事にフィット感を覚え、活き活きと働けている状態のことです。

――例えば、髙本さんの「ご機嫌な状態」はどんなときですか?

髙本
新しいことにチャレンジしているときや、社内・社外を問わず新しい人に出会ったりしたときですね。新しい世界に触れることで自分の視野が広がるのが、楽しいんです。そして一番は、おそらくだれでもそうだと思うんですけど、自分の成長を実感できる瞬間。すごくワクワクしますよね。

――そういった「ご機嫌な状態」の計測結果を、どう人事に活かすのでしょう。

髙本
こんな例があります。

弊社システム&サービスビジネス統括本部では、若手社員を一人で新興国のNPOに数カ月派遣して、現地の課題解決に挑戦させる「留職」という人財育成プログラムを2013年から実施しています。この留職に参加した社員(留職者)の意識変化を、HRテックを使えば、より定量的に把握することができるのです。

留職者は、人生を賭けて国の未来の繁栄のために取り組んでいるNPOの代表に3カ月余り触れ、刺激を受けることで感化され、非常に高い意識とモチベーションを持って帰国します。その結果、もともと月に1回くらいしか出張していなかったある社員が、留職から帰ってきてからは週3回も出張することになった…なんてことになると、これは明らかに彼の意識や仕事のやり方が変わったというサインだと読み取れるわけです。そういった変化が見られたら、人事からマネージャーにリアルタイムで、例えばこんなアドバイスを送れるようになったら素敵だなと思っています。

「あなたの部下は今、高いモチベーションを持ち、挑戦意欲に燃えています。それが実際の行動にもすでに表れています。だから仕事のアサインを間違えないよう気をつけてくださいね」と。

そうすると、マネージャーも助かりますよね。いろいろな部下に目配りしなければいけない、でも忙しくてなかなかそこまで部下をサポートできていないのがマネージャーの実情です。そこへ、データに基づいたアドバイスが我々からタイミングよく送られてくることで、一人ひとりに寄り添える質の高いマネジメントができる。結果、組織の力も高まる。新しく入ってくる有為な人財も手厚くケアされる。どんどん良い方向へ組織全体がスパイラルアップしていくわけです。

画像: 社員が「ご機嫌」に働けているかどうかを、定量化する

データに基づき、社員一人ひとりに寄り添う人事

――これまでの人事業務は、どちらかというと定性的・管理的なイメージが強いですよね。

髙本
もともと人事担当者は、なんとかして社員の状態を数値化できたらといいと昔から思ってはいたのです。でも、それを容易に実現できるテクノロジーが残念ながらこれまではなかった。それが、昨今のAIなどテクノロジーの目覚ましい進化で、HRテックを駆使して社員の内面のかなりの部分が定量化できるようになってきたのです。弊社はメーカーで社員のほとんどが技術系ですから、なおさら、データに基づくHRテックが社員や経営陣の納得感を高められることを実感しています。

仮に、上司とうまくいっていない社員がいたとします。でも、「人事はわたしのことをよくわかっているな」「社員の成長に寄り添ってくれてるな」と思えれば、職場に多少の不満があっても「もうちょっとこの会社で頑張ってみよう」ってなるじゃないですか。

ですから我々は、マネージャーだけでなく社員一人ひとりにもサーベイ結果をフィードバックします。「あなたは今こういう状態です。素晴らしいのはここ、もう少し工夫や努力をされた方がいいのはここ、だからもっとこういう分野に関心を持たれたり、行動や習慣を変える意識を持たれたらいかがですか?」。こんなフィードバックを弊社システム&サービスビジネス統括本部では年に1回実施し始めましたが、事業運営スピードの速い会社であれば四半期単位でやってもいいくらいかもしれません。

「第3回 HRテクノロジー大賞」受賞

――日立は今年、経済産業省が後援する「第3回 HRテクノロジー大賞」において、最高位に当たる「大賞」を受賞しました。これはどういった賞なのですか。

髙本
日本の先駆的なHRテックや人事ビッグデータ分析の優れた取り組みを表彰するもので、今年は60社以上が応募したと聞いています。

――日立の取り組みのどんな点が評価されたのでしょう?

髙本
これまでお話ししてきました「生産性に関する意識を計測するサーベイ」と「個人の配置・配属のフィット感を計測するサーベイ」の2つを、我々は筑波大学による学術的な指導を受けて開発しました。このサーベイの結果を踏まえて社員一人ひとりにフィードバックするとともに、人事業務のプロセス自体を高度化していく。この一連の人事業務改革を評価していただきました。人間の“意識”にフォーカスしたサーベイって、今までありそうでなかったので、その点も大きいと思います。

――社内の人事部門では、受賞による変化はありましたか。

髙本
中堅や若手の社員の意識は相当変わりましたね。彼らはデジタル世代なので、データで事象を語ることの大切さをもともと深く理解しています。今回「大賞」という評価をいただけたことをすごく喜んでいますし、モチベーションがさらに上がりました。

進化するHRテック、激化する人財獲得競争

――そもそも、HRテックがここ数年で急に着目されるようになったのはなぜでしょうか?

髙本
わたしは主に3つの背景があると考えています。

1つめは、世の中のITが加速度的に進化してきたことで、FinTechやRobo Techなど、ほんの数年前までは難しいと思われていたことが実現しつつあることです。人間の内面は「最後のブラックボックス」と言われるくらい定量化や可視化が非常に難しく、これまでは感覚的にしか捉えることのできなかった領域でしたが、センサーをはじめとするいろいろな技術で意識や状態をデータ化できるようになってきたことです。

画像: 進化するHRテック、激化する人財獲得競争

2つめは、人財獲得競争の激化です。少子高齢化が進んだことで、日本企業の終身雇用制そのものが大きな転換点を迎えています。前編でもお話ししたように、少子化に伴い日立もすでに新卒採用の母数確保に苦労しています。まさに企業が学生を選ぶのではなく、学生が企業を選ぶ時代になったことを実感しています。

以前の大企業ですと、社内運動会や社員旅行を催し、社員同士の絆を深め、ずっと定年まで長く働いてもらうという運命共同体のような感覚がありましたが、今は違います。ジョブ型の雇用形態を採っている欧米のように、日本も人財が徐々に流動化しつつあります。特に優秀な人財の流動化は顕著で、社外から簡単にヘッドハンティングされてしまうリスクを常にはらんでいます。

それを避けるために、社員が今どんな意識やモチベーションで仕事に取り組めているのか、適切なポジションに就けていると感じているのか、能力を十二分に発揮できているのか、などを経営者もリアルに把握する必要性が生じてきたわけです。母数の減少と相まって、企業にとって最大のリソースである人財の活用に関して、今、経営陣の関心が改めて非常に高まっていることを感じています。

3つめは、弊社中央研究所の矢野和男(*)が提唱している「データの見えざる手」に象徴されるように、AIの発達によって、いろいろなデータを掛け合わせると人間には思いもつかない事実が短時間でわかるようになってきたことです。部署によりますが、例えばさきほどお話ししたように「金曜日に残業しているチームは総じて生産性が低い」などがそうですね。

* 株式会社日立製作所 フェロー。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。業務中の身体の動きと本人が感じる「ハピネス度」との相関を見出した。2014年、『データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会』を上梓。

画像: 「幸せな社員」の増やし方
【第2回】社員の「ご機嫌な状態」を見逃すな

髙本真樹
小樽市生まれ。1986年に株式会社日立製作所に入社し、大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長、情報・通信システム社人事総務本部プラットフォーム部門担当本部長を経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共に駆け抜ける "伴走者"も務めている。

「第3回:『社員との向き合い方』で、企業側が選ばれる時代」はこちら>

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