話題性があって収益にもつながるキャンペーンや、綿密に組み立てられたコミュニケーション戦略によって、過去最高の収益を達成している日本マクドナルド。2021年に控える創業50周年を見据え、勢いを増している。そのマーケティングを統括する足立光氏は「これから我々が進むのは当社史上の未知なる領域。とても楽しみにしている」と、エネルギーに満ちた表情を浮かべる。「人は感情でしか動かない」という足立氏の、さまざまな新商品やキャンペーンのアイデアの源は何だろうか?

「前編:心を動かすコミュニケーション戦略」はこちら >

話題になっても、必ず購買が伸びるわけではない

――前編では、話題化のための4つのポイントやその成功事例、レギュラー品への注力が収益増に貢献していることなどを紹介いただきました。逆に、うまくいかなかった事例を伺ってもいいですか?

足立
読みが外れたものも、たくさんありますよ。いろいろ試して学んでいます。たとえば2016年2月に実施したキャンペーン「名前募集バーガー」は、パブリシティでもインターネット上でも相当の話題になって、2週間で200万件もの応募を獲得しました。

でもネットで応募できてしまうだけに、実は売上につながらなかった。この件から、どんなに話題になっても、御来店いただくためにはもう一山越えないといけないのだと学びましたね。ですので「マクドナルド総選挙」では、買って応募する仕組みにしましたし、以降もすべて購買に結びつく企画にしています。

画像: 話題になっても、必ず購買が伸びるわけではない

差別化できない路線をすっぱり止め、独自の路線へ

――差別化という点では、レギュラー品への注力以外に、マーケティング戦略を変えたところはありますか?

足立
例えば僕が来る前は、国産原料を売りにしたりもしていました。それ自体は成功していましたが、国産系のファストフードだともっと以前から力を入れている競合がある。後追いでは勝てないので、すっぱり止めて、アメリカンデラックスシリーズのようなマクドナルドらしい商品路線に戻しました。

それから、少し開拓していたヘルシー路線も止めました。そもそもカロリーを気にする人はマクドナルドにそれほど来ませんよね。でも、背徳感…というか、夜中のラーメンみたいに「あぁ〜食べちゃった、けどおいしかったからいいか!」という開き直り感があるのではないかな、と。それなら、もう“ガッツリ”路線でおいしいものを出そう、と振り切りました。

他社とのアライアンスを強化している理由

――他社とのキャンペーンという点では、「ポケモンGO」とのコラボがインパクトがありました。

足立
実は他社とのアライアンス促進も、マーケティング上でがらっと変えた戦略のひとつなんです。ポケモンGO以外にも、dポイントや楽天ポイントとの連携を始めたり、商品だとカルピス味や森永ミルクキャラメル味のマックシェイクを限定発売したりしました。

――アライアンスを促進している理由は何ですか?

足立
アライアンスの妙は、相手企業がたくさんプロモーションをしてくれることで、我々が発信する以外にも世の中にマクドナルドの情報が増え、結果的に生活者がマクドナルドの情報に触れる確率が高まることにあります。

要は、生活動線やネット上のいろいろな場所でマクドナルドの情報を見聞きするということですね。これは、我々のビジネスにはとても有効です。2カ月前から予約するようなフランス料理や割烹はあらかじめ目的の定まった「ディスティネーションビジネス」ですが、お昼どうしようかと思いながらオフィスのエレベーターを降りて、目に留まったから入るマクドナルドは、衝動型の「インパルスビジネス」です。だから、メディアやネット上で常にマクドナルドについて何らかの「おいしそう」「おいしかった」という情報が溢れている状況をつくりたい。そのために、アライアンスに力を入れているわけです。

画像: 他社とのアライアンスを強化している理由

足立流、インスピレーションを得る三つの方法

――お話を伺っていると、アイデアと決断の振り切り方、そしてスピード感に驚くばかりです。

足立
大きな声ではいえませんが、実は、かなり勝手にやっているんです。職権の範囲なら、上にもグローバルにも事前に話を通さない。これを僕は「職務権限の最大活用」と言っています。大きな企業ほど、誰か勝手にやらないと、変革は起きません。本来、職権の範疇なら許可を得る必要はないし、成功すれば皆がハッピー、失敗したら僕が責任を取り、そっとなかったことにすればいい。失敗例はそもそもネットで話題にならないから、幕引きも難しくないんです。それより、小さく素早く進めてラーニングを得るほうがいいですね。

――ご自身が普段、インスピレーションを得るのに心がけていることは?

足立
三つくらい方法があります。一つ目は寝ない、もとい、寝る時間を惜しんで人と会うことです。一晩で3組と会食をすることも普通ですね。二つ目は、新しいもの、流行りのものは全部試してみること。話題の場所には行ってみます。何でも、やってみないとわかりませんから。

最後に、書籍からスマホまで、常にメディアに接触すること。夜の予定がない日でも、深夜2時3時までいろいろな情報のインプットに費やしています。3つとも、すべてインプットですね。この生活を続けるには健康が重要なので、「不健康な生活は健康から」をモットーに、健康にも気を配っています(笑)。

マーケティング自体、そもそも“経営ごと”

――足立さんは業績不調のさなかにマクドナルドに参画されましたが、組織を動かすにはどんな工夫をされたのでしょうか?

足立
実はあまり困った覚えはないのですが、日本マクドナルドでは当時、10年間で僕が9人目のCMOなので、周りはやはり「この人はいつまでいるのか」といった懐疑的な目で見ていたと思います。そこでのポイントは、3つほど。

一つ目は、人は感情でしか動かないということです。仕事中でもなるべく笑いを多く、同時に仕事以外では食事などによく行って「あいつが言うなら、やってやろうか」と思ってもらえるような雰囲気づくりを意識していましたね。主に飲み会でしたが、ゴルフでも登山でも麻雀でも、何でもいいと思います。

次に、アーリーリザルト。結果が出ないと人はついてきませんから、小さくても早い段階で成功事例をつくりました。これをスピーディーにやるためにも、前述の“勝手に”は重要です(笑)。

三つ目は、KPIの設定です。人は感情でしか動きませんが、仕事で全員を感情で動かすのは難しいので、最終的にはやらなくてはいけない状況をつくる。我々の場合、売上と客数に加えて、リリースしてから発売までにソーシャル上にあがる話題の量をKPIとして新たに設定しました。毎週、毎月とそれを追うようになったら、皆の意識がどんどん変わり、成果もついてきました。

――では、マーケティングを“経営ごと”に近づけるには、どんな努力が必要だと思われますか?

足立
そもそも、「ビジネス=マーケティング」というのが僕の考えなので、マーケティングという言葉もあまり使わないほうがいいと思っています。経営者の方には「マーケティングは経営そのものだ」と捉えていただくほうがいいと思いますね。

実際、例えば生命保険やスーパーなどの小売業、アパレルなど、マーケティング部門がなくてもビジネスがしっかり回っている業種は少なくない。営業を主体とする経営基盤があり、継続的にビジネスを推進できる仕組みがあれば、それはもうマーケティングができているんです。

そして、マーケティングは人の心を動かして行動を促すことなので、前述した僕ほどのインプットでなくても、会議室にから出ずに物事を決めるのは絶対にやめたほうがいい。ぜひ世の中で流行っているものや場所を体験して、何が人の心をつかんでいるのか、何が自分の心に響くのかを感じてもらえたらいいと思います。

画像: 足立光氏 一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン(株)マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。 ブーズ・アレン・ハミルトン、及び(株)ローランドベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル(株)に転身。2005年には同社社長に就任。 赤字続きだった業績を急速に回復した実績が評価され、2007年よりヘンケルジャパン(株)取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。(株)ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。

足立光氏
一橋大学商学部卒業。P&Gジャパン(株)マーケティング部に入社し、日本人初の韓国赴任を経験。 ブーズ・アレン・ハミルトン、及び(株)ローランドベルガーを経て、ドイツのヘンケルグループに属するシュワルツコフヘンケル(株)に転身。2005年には同社社長に就任。 赤字続きだった業績を急速に回復した実績が評価され、2007年よりヘンケルジャパン(株)取締役 シュワルツコフプロフェッショナル事業本部長を兼務し、2011年からはヘンケルのコスメティック事業の北東・東南アジア全体を統括。(株)ワールド 執行役員 国際本部長を経て、2015年より現職。

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