人財や資金、設備などさまざまな基幹業務を統合的に管理するソフトウェアを中心に、世界のトップ企業をお客さまにグローバルなビジネスを展開してきたSAP(エスエイピー)。そこで培われたカルチャーの中に息づく、SAP流の働き方の考え方と施策について、SAPジャパン株式会社のバイスプレジデント 人事戦略担当のアキレス 美知子氏に話を伺った。

グローバルが育てたSAP流の働き方

――まず御社の概要とその特長についてご紹介ください。

アキレス
当社はERP(統合基幹業務システム)パッケージをはじめとするビジネス向けソフトウェアを開発・販売するグローバル企業で、本社はドイツのワルドルフ(テューリンゲン州)にあり、世界130か国に拠点を持ち、約88,000人(2017年9月末)の社員が働いています。その日本法人であるSAPジャパン株式会社は1992年に設立され、現在(2017年12月末)約1,200人の社員がいます。フォーブス・グローバル2000の87%の企業がSAPのお客さまです。また、最も価値ある世界ブランドランキング(Interbrand 2017年調査)で21位、BtoB企業においては6位に入っています。ドイツの堅実さと、シリコンバレーの革新性、そして日本のお客さま志向が一つになった会社がSAPだと思っていただければ嬉しいですね。

――人事に関するトピックを教えてください。

アキレス
最近では、2017年12月、国際的調査機関Top Employer Institute(本部:オランダ)が社員に卓越した成長の機会を提供している企業として認定する“Top Employer”の賞をいただきました。人事制度や職場環境について、多くの質問に対する回答とそれを裏付ける事実が要求される厳しい審査を受けましたが、アジアでは中国、日本、インドネシア、オーストラリア、フィリピンの5カ国が認定されました。

SAPのバリュ―となる行動指針と働き方

――働き方を支えるためにグローバルで共通した行動指針があるそうですね。

アキレス
2015年に5つの項目からなる行動指針“How We Run”を定めました。第一は“Tell it like it is”。率直に話そうよということです。日本の以心伝心や、本当は言いたいことがあるけど、周りから固めていくみたいなことではなく、率直に話し合うことが重要です。第二は“Stay curious”。常にいろいろなことに好奇心を持つことです。それがイノベーションを起こす源泉であるからです。第三に“Embrace differences”。いま日本でもダイバーシティ・インクルージョンが推進されつつありますが、相互の違いをいかに取り入れて活かしていくかという発想を持つということです。第四に“Keep the promise”。基本的なことですが、約束は必ず守る、それによって信頼を築くということです。第五は“Build bridges, not silos”。やはり組織が大きくなると縦割りの文化ができてサイロ化します。サイロを作るのではなく組織間をつなぐ橋を架けていきましょうということです。

画像: 世界共通のSAPの行動指針 “How We Run”

世界共通のSAPの行動指針 “How We Run”

――この行動指針は、具体的にはどのような働き方と結びついているのですか。

アキレス
働き方そのものというより、その土台となる企業文化の構築に結び付いています。SAPでは企業文化を大切にしており、優秀な人財をひきつける源泉と考えています。具体的には、外部からの採用の際や、社長賞など卓越した活躍をした社員を表彰する際に、本指針を基準としています。また、Appreciate Programという社員間で感謝を伝え合う制度があり、その選定基準にも使っています。例えば、自らの業務外であっても、一歩踏み出して他の部門をサポートした社員に、“Build bridges, not silos”を実践したということで、受け手が謝意を表します。このように、指針は掛け声だけでなく実際の仕組みに落とし込まれてはじめて企業文化として浸透していくと思います。

――どのような背景から、この行動指針は作られたのでしょうか。

アキレス
2010年までグローバルで9割近くに達していたERPソリューション関連のビジネスは、その後ERP以外のクラウドソリューション事業などが大きく成長し、SAPのビジネスも変化してきました。このような変化の中で、10年後、20年後を見すえSAPで働くことの価値を再考することが課題になってきました。SAPの社員にとって本当に大切なことは何なのかを今一度考えるために、約70カ国で社員が集まり、大切にしたい行動様式や価値についてデザインシンキングセッションが実施され、その結果“How We Run”という行動指針が生まれたのです。

――人事としてはどのようなコンセプトで人財を活かされようとしていますか。

アキレス
SAPでは、多様な属性を持つ20代から60代まで5世代の人たちが一緒に仕事をしています。若い社員から年配の社員まで皆さんに活躍してもらいたいという思いから、私たちは“Everybody is Talent”をコンセプトとして人財マネジメントに取り組んでいます。タレントマネジメントというと、一部の社員のみに注力して育成するという考え方が多いと思いますが、社員一人ひとりがタレントであるという、シンプルな考え方で社員の育成を進めています。また、若い人たちの採用と育成が重要という観点から、日本の新卒採用という考え方も、世界各地のSAPに理解されています。

ライフステージに合わせた柔軟な働き方

――働き方に対してはどのような考え方で取り組まれていますか。

アキレス
横と縦の2つの軸で見ています。まず横の軸はライフとキャリアです。縦の軸はウエルネスとグロースです。ウエルネスというのは心身ともに健全な働き方、グロースというのは、成長するために少しリスクを取ってでも新しいことにチャレンジする働き方です。働くということは、この相反する要素の両方が必要です。バランスということで、その真ん中にいれば良いという話でもない。働き方というのは人それぞれのライフステージによって、ライフに傾いたり、キャリアに傾いたりするもので、それを上司と話し合いながら、個人が主体的に決めていくものではないでしょうか。そのための施策や環境は会社が提供します。

画像: SAPジャパンの働き方基本コンセプト

SAPジャパンの働き方基本コンセプト

――何か具体的な例で紹介していただけますか。

アキレス
グロースとキャリアに関しては、グローバルな社内公募制を例にご説明したいと思います。SAPでは1,600から1,800くらいのオープンポジションが常時掲示されていますが、社員はそれを見て、いつでも応募することができます。各業務の概要が明確に定義されており、自分のキャリアを成長させていくために活用できるとても良い制度だと思います。しかし、単に漠然と海外で働きたいということでは採用されません。キャリアとライフのプランが明確に描けていないと、自分にとってベストな選択を見つけることはできません。そのために、キャリア開発の研修も実施しています。

――どのようなキャリアワークショップが開催されているのですか。

アキレス
最近実施したのは、20代のアーリータレント(若手社員)をターゲットに実施したセッションです。まず、中堅社員が自らの経験をもとにキャリアをどのように構築していくのかについて語り、さらにSAPで活用できるさまざまなツールやリソースを共有しました。

画像: ライフステージに合わせた柔軟な働き方

働き方を支えるさまざまな施策

――グロースとキャリアに関連する働き方への施策で、他にどのような特徴的な施策がありますか。

アキレス
グロースとキャリアにとって不可欠なのは学び続けることです。例えば、シャドゥイングというプログラムでは、経営幹部に2週間くらい影のように付き添って、その仕事や意思決定の仕方をつぶさに学ぶことができます。PCやモバイルでいつでも学べるeラーニングも含めて100万以上のトレーニングコースがあります。各自の役割によってカリキュラムはありますが、興味があるプログラムは何でも受講できます。外部の研修などで自己負担が発生する場合は補助金が支給されます。また、自己啓発休暇をとって集中的に学ぶこともできます。

――自己啓発休暇とはどのようなプログラムですか。

アキレス
2016年から始めたグロースとライフに関連する施策で、自己啓発を目的に年に5日間の休暇を取得できるプログラムです。上司の承認が必要になりますが、管理職の社員には直接目の前の仕事に関係なくても、社員にプラスになると思えば、ぜひ承認してほしいとお願いしています。社員は国内だけでなく海外で参加したいセミナーや会議がある場合にも、このプログラムを活用しています。また、ソーシャル・サバティカルというプログラムもあります。社会貢献活動に取り組むために、休暇を取得できるものです。日本では小学生のためのプログラミング講座実施や東北の被災者支援などの活動に参加するなどの例があり、社会貢献を通して社員の人としての成長をサポートしています。

――キャリアとウエルネスに関連する施策にはどのようなものがありますか。

アキレス
フレックスとテレワーク制度を実施しています。テレワークは週2日まで利用できます。社員へのアンケート結果や社内でイノベーションを起こしていくための企業文化醸成を考慮して、テレワークを全面解禁にはしませんでした。社内でさまざまなイノベーションを起こしていくには、実際に社員同士が顔をあわせて交流していく時間も重要であると考えたのです。また、コミュニケーションはもちろん各種社内申請やその承認、eラーニングなど、モバイル環境で大半の業務に対応できるようになっています。

――なかでも好評な施策があれば紹介していただけますか。

アキレス
週末メール原則禁止ルールは好評ですね。金曜日の午後、全社一斉通知をしています。その際に、いろいろな社員の「楽しい週末の過ごし方」をあわせて紹介しています。また、マッサージルームも多くの社員が利用しています。社内に3人のマッサージ師さんが常駐しており、1回40分、やさしい音楽とアロマの香りの空間でマッサージを施してくれます。

――モチベーションを高めるライフとウエルネスの施策はどんなものがありますか。

アキレス
歩いた歩数で報奨がもらえるFit SAP、フィットネスの資格を持った社員がボランティアで開催するフィットネス教室、お父さんのための育休プログラム、そして、自分にも家族のためにも活用できる私傷病休暇などがあります。Fit SAPはウェアラブルデバイスをつけて、毎日の歩数が平均8,000歩以上になると、四半期ごとに8,000円をゲットできる施策です。同じプログラムを導入されたSAPのお客さまもいらっしゃいます。私傷病休暇については、年間10日間、社員本人だけではなく、高齢の家族や小さい子どもを病院に連れていきたい時などにも、柔軟に取得できるようになっています。

画像: 働き方の施策例

働き方の施策例

画像: アキレス美知子 上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国 Fielding 大学院にて組織マネジメント修士課程修了。富士ゼロックス総合教育研究所で異文化コミュニケーションのコンサルタントとしてキャリアを開始し、日本およびアジアで、シティバンク銀行などで人事・人材開発の要職を歴任。 あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員広報・CSR・環境企画・お客様センター・風土改革担当、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与として活躍後、2015 年 1 月に SAP ジャパン人事本部⻑に就任。 SAP 社外においても、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、日本生産性本部女性パワーアップ会議推進委員、NPO 法人GEWELアドバイザリーボード・チェアなど幅広く活動。また、2010年から3年連続で「APEC 女性と経済フォーラム」に日本代表メンバーとして参加。2017年世界女性サミット東京大会では、日本実行委員会コアメンバーおよびスピーカーを務める。 米国ダイバーシティ・グローバル誌より「2017年度グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある女性10人」にもアジアから唯一選出されている。共著に『メンタリングハンドブック』(日本生産性本部)、『人事よ、ススメ︕』(中央経済社)、『世界最強人事』(幻冬舎)。

アキレス美知子
上智大学比較文化学部経営学科卒業。米国 Fielding 大学院にて組織マネジメント修士課程修了。富士ゼロックス総合教育研究所で異文化コミュニケーションのコンサルタントとしてキャリアを開始し、日本およびアジアで、シティバンク銀行などで人事・人材開発の要職を歴任。 あおぞら銀行常務執行役員人事担当、資生堂執行役員広報・CSR・環境企画・お客様センター・風土改革担当、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与として活躍後、2015 年 1 月に SAP ジャパン人事本部⻑に就任。
SAP 社外においても、横浜市政策局男女共同参画推進担当参与、日本生産性本部女性パワーアップ会議推進委員、NPO 法人GEWELアドバイザリーボード・チェアなど幅広く活動。また、2010年から3年連続で「APEC 女性と経済フォーラム」に日本代表メンバーとして参加。2017年世界女性サミット東京大会では、日本実行委員会コアメンバーおよびスピーカーを務める。 米国ダイバーシティ・グローバル誌より「2017年度グローバルダイバーシティにおいて最も影響力のある女性10人」にもアジアから唯一選出されている。共著に『メンタリングハンドブック』(日本生産性本部)、『人事よ、ススメ︕』(中央経済社)、『世界最強人事』(幻冬舎)。

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