スマートデバイスの普及をきっかけに、大きく活用範囲を拡げているVR(Virtual Reality:仮想現実)技術。2016年は「VR元年」と呼ばれ、その進化は次のフェーズへと突入している。そんなVR技術のフロンティアを切り拓くベンチャー企業が、「Psychic VR Lab」(サイキックVRラボ)である。「誰でも日常的に超能力を使える時代が来る」――。同社代表の山口征浩氏がVR技術でめざす、社会の未来像とは。
画像: 山口征浩 -Masahiro Yamaguchi- 1977年生まれ。2000年、同志社大学工学部中退。同年、情報セキュリティ対策製品などを開発するイーディーコントライブ株式会社にアルバイトとして入社。2003年、上場にともない社長に就任。退任後、31歳のときにMIT(マサチューセッツ工科大学)へ留学。 帰国後の2014年、VR技術の研究開発を行うため「Psychic VR Lab」を立ち上げ、 2016年に法人化する。これまでファッションVRショッピングサービス「STYLY」、ファッションVRプラットフォーム「STYLY Suite」などを発表し、VR領域のフロントランナーとして注目されている。

山口征浩 -Masahiro Yamaguchi-
1977年生まれ。2000年、同志社大学工学部中退。同年、情報セキュリティ対策製品などを開発するイーディーコントライブ株式会社にアルバイトとして入社。2003年、上場にともない社長に就任。退任後、31歳のときにMIT(マサチューセッツ工科大学)へ留学。
帰国後の2014年、VR技術の研究開発を行うため「Psychic VR Lab」を立ち上げ、 2016年に法人化する。これまでファッションVRショッピングサービス「STYLY」、ファッションVRプラットフォーム「STYLY Suite」などを発表し、VR領域のフロントランナーとして注目されている。

現実世界では不可能なショッピング体験を実現

今、話題のVRの実験場といわれる場所がある。山口氏が代表を務めるPsychic VR Labだ。同社は、VR技術を活用したショッピングサービス「STYLY」によって、ファッション業界のショッピングのあり方を大きく変えつつある。

最近よく耳にするVRだが、VRを使うことでどんなショッピングが可能になるのか。その説明をする前に、まずは私たちが普段、洋服を買うときの流れをおさらいしてみよう。

私たちが、店舗で商品を購入する場合、売り場内の衣類を見て回りながら、気に入った服があれば手に取って見るだろう。柄や色のバリエーションがある場合はいくつかを並べてみたり、より詳しいフィット感を知りたい場合は試着もするはずだ。その後、購入を決めたらレジへ進み、会計を済ませて店を出る。これらはすべて実際の店舗で、店員とのコミュニケーションを通じて行う。

ECサイトで買う場合はどうだろうか。その際は、スマートフォンやPCを使ってWebサイトにアクセスし、モデルが試着した写真や商品詳細ページに書かれたサイズ情報などを確認。場合によっては、色や柄をWeb画面上で変更して試してみるときもある。商品を決めたらカートに入れ、会計ボタンをクリックする。

これに対し、STYLYのユーザーはヘッドマウントディスプレー(以下、HMD)を装着してVR空間上につくられた店舗に「入り込む」かたちになる。そうすることで、デジタルで創り上げられた店舗内で、3D表示される衣服を360°様々な角度から見たり、色を変えたり、着てみたりすることが自由自在に行える。

画像: 現実世界では不可能なショッピング体験を実現
画像: ファッションVRショッピングサービス「STYLY」。専用の高精細3Dスキャナーでスキャニングされた洋服は、生地の質感やシワなども細かく確認できる

ファッションVRショッピングサービス「STYLY」。専用の高精細3Dスキャナーでスキャニングされた洋服は、生地の質感やシワなども細かく確認できる

「現実では不可能なことも、VRなら可能です。例えば、目の前にある服は、空間に浮かぶボタンに手を触れると瞬時に取り換えられます。また、そもそも"売り場"も、ビーチリゾートやパーティー会場などにすることが可能なので、買う人は、あるシチュエーションに完全に入り込んだ状態で、その服が自分に似合うかどうかを判断できます。STYLYを利用すれば、このような、まったく新しいショッピング体験が実現できます」と山口氏は説明する。

またVRは、店舗や服のデザイナーにも新たな可能性を与える。仮想空間上では「重力」「距離」「コスト」といった現実世界の制約から自由でいられるため、これまで無意識のうちに諦めてしまっていたアイデアも、かたちにすることができるからだ。例えば、デザイナーがある服を考案したときに頭の中で描いた世界をVR空間上の売り場のデザインに反映すれば、ブランドイメージをよりダイレクトに消費者に伝えることもできるだろう。宇宙空間や、光の柱が交差する幻想の世界など、創り出せる世界に制限はない。

「VRは、すでに現実に存在するものを再現するより、未知のものを描くことを得意とします。その意味では、人に超能力を与える技術ということができる。それこそがVRのオリジナリティであり、私にとっての魅力です」

画像: Psychic VR Lab 山口征浩氏

Psychic VR Lab 山口征浩氏

コラボで広がる「ファッション×VR」の可能性

同社がSTYLYをリリースしたのは2015年。すぐさま大きな注目を集め、現在まで数々のアパレルブランドや企業、研究機関とのコラボレーションを行ってきた。

例えば、2016年7月には三越伊勢丹、デジタルハリウッド大学大学院との産学連携企画や、同年8月には、伊勢丹新宿店が開催した「2016 IRODORISAI 彩り祭」で、「HATRA(ハトラ)」「BALMUNG(バルムング)」「chloma(クロマ)」という3つのブランドの世界をVRで表現。先に紹介したようなVR空間上でのショッピング体験を来場者に提供した。

また、2017年3月には、パルコとともに、テキサス州オースティンで開催される世界最大規模のテクノロジーの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」に参加。未来の売り場を提案するブースを出展し、大きな反響を呼んだ。

「VR空間上では、アパレルショップはアイテムに様々な情報を関連付けながら消費者に提案できるようになります。また消費者側は、『どんな思いでつくられたか』『どんなところでつくられた素材なのか』といった、アイテムの隠れたストーリーを知ることで、買い物の楽しさや、ものを所有することの幸せをより大きく感じられるようになるでしょう。いずれも現実の店舗では提供することが難しい体験です」

画像: 2016 IRODORISAIにおける展示の模様。テイストの異なる3つのデザイナーズブランドの世界をVR空間上に創造し、「ファッション×VR」の可能性を広く知らしめた

2016 IRODORISAIにおける展示の模様。テイストの異なる3つのデザイナーズブランドの世界をVR空間上に創造し、「ファッション×VR」の可能性を広く知らしめた

画像: SXSW 2017に出展した際の様子。VRで未来の売り場を表現した「デザイナーズモール・オブ・トーキョー in the FUTURE」

SXSW 2017に出展した際の様子。VRで未来の売り場を表現した「デザイナーズモール・オブ・トーキョー in the FUTURE」

そのほか、展示会やショップ店頭での販売促進から、デザイナーの新作発表会、プロモーションまで、まさしく引く手あまたの状況となっているSTYLY。山口氏自身も、開発業務やクライアントとの打ち合わせ、新企画の提案、メディアの取材対応まで、体がいくつあっても足りないほど多忙な日々を送っている。

異なる分野のクリエイターも巻き込みたい

ただし、いかに独創的なアイデアや技術を持っていても、Psychic VR Labが1社でVRの世界を拡張していくのには限界がある。「文化は多様性、カオスから生まれる」と山口氏も言うとおり、VRにおいても、大勢の人がノウハウやアイデアを持ち寄って、新しいものを生み出せる場をつくりたいというのが同社の考えだ。

そんな狙いで立ち上げたのが、STYLY同様、VR技術をベースとしたプラットフォームサービス「STYLY Suite(スタイリー スイート)」である。一般消費者・ショップ向けのサービスであるSTYLYに対し、STYLY Suiteは、VR空間をつくるクリエイターに向けたもの。現在は招待制ベータ版の公開中で、正式リリースに向け最終調整を進めている。

STYLY Suiteでは、「海」「岩」「光源」など、あらかじめ用意された多種多様な素材のほか、クリエイターが自ら制作した3D素材や映像、画像などをアップロードすることで、オリジナルのVR空間をSTYLY内に創り出すことができる。Webブラウザ経由で使えるうえ、素材を配置したのちパブリッシュボタンを押すだけでVR空間をつくれる手軽さが売りだ。

画像: ファッションVRプラットフォーム「STYLY Suite」。クリエイター自らがつくった3D素材や写真、動画などを自在に配置して、オリジナルのVR空間をつくり出すことが可能だ

ファッションVRプラットフォーム「STYLY Suite」。クリエイター自らがつくった3D素材や写真、動画などを自在に配置して、オリジナルのVR空間をつくり出すことが可能だ

「VR技術を扱うには高度なプログラミングスキルが必要なため、その難しさが、VR活用が広がらない要因の1つといわれてきました。そこで、VRの知識や技術がなくても、誰もが簡単にVR空間をつくれる環境を用意しようと私たちは考えたのです。ファッションデザイナーはもちろん、CGクリエイターやカメラマン、映像作家など、多様な領域のクリエイターが集う中から、まったく新しいものが生まれることに期待しています」

例えば映像作家なら、VR空間に理想の映画館を建てて作品を上映することができる。CGクリエイターなら、CGキャラクターの隣に座って話ができるコンテンツをつくることもできるだろう。カメラマンなら個展会場を自らつくったり、写真の中に入り込むような作品の展示方法を実現することも可能だ。アイデア次第で、活用の幅は無限に広がる。

「VRは現実に仮想的なレイヤーを重ねるものであり、文字どおり、生活をより多層的でおもしろくするものです。このまま技術が進化していけば、遅くとも20年以内には『世界中の10億人以上の人が日常的にVRデバイスを使い、現実と仮想現実が境目なく存在する時代』が来るでしょう。これは言い換えれば、仮想空間を、まさに衣服のように"身にまとって"暮らす時代。そこには、間違いなく大きなビジネスチャンスが生まれます。来るべきその時代に向け、様々なクリエイターと一緒に、見たことのない世界を切り拓く会社であり続けたいですね」

「 後編:大学中退、突然の社長就任、MIT留学。常識に縛られず未来を探る」に続く >

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