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スマートフォンやSNSの普及が、流通・小売業のビジネスに新たな可能性をもたらし始めています。デジタル技術の進展がリアルタイムな分析と戦略立案を可能とし、お客さまのロイヤルティを継続的に高める体験価値の提供や、バリューチェーンの全体最適化が実現しつつあります。一人ひとりのお客さまである“個客”を理解し、効果的な施策展開を加速するデジタルマーケティング。その実現に向けた取り組みの一端をご紹介します。

商品やサービスの価値は企業ではなく“個客”が決める

ー 誰もが自分専用のコンシェルジュを利用できる時代に

買いたいもの、食べたいもの、楽しめるイベント――すべての情報は、今や誰でも簡単にスマートフォンやタブレットから手に入れることができる時代になりました。忙しくてなかなかショッピングに行けなくても、欲しいものはオンラインショップからいつでも買うことができますし、実際に商品を試した人たちの感想も即座に知ることができます。

ただし、これだけさまざまな商品やサービスで溢れてしまうと、自分好みの商品やサービスがすぐ見つかるとは限りません。「口コミサイトでは評判よかったけど、買ってみるとイメージと違った」逆に「世間ではあまり知られてないけど、知人に勧められた本にはまってしまった」――こんな経験はないでしょうか。

なぜこうしたことが起こるのでしょうか。それは、人にはそれぞれが好む趣味嗜好(しこう)や行動パターン、あるいは習慣、癖、経験、ライフスタイルというものが存在するからです。その多様な要素が関連しながら、その人のパーソナリティが形作られています。そのため「自分の物差し」と「一般的な価値観」に多少の「ズレ」が生じるのです。そこには“自分でも気づかない”隠れたモノやコトが含まれていることが少なくありません。

そんなときに「自分が欲しいモノや心地よいコトを自分以上にわかってくれている」コンシェルジュがいたとしたらどうでしょうか。

膨大な商品やサービスをすべて試すことは実質的に不可能です。「生活がもっと楽しくなりそうな商品がある」「欲しかった情報を的確に提供してくれる」消費者が求めるものは、自分にとっての心地よさや感動、すなわちパーソナライズされた体験に他なりません。そうした“個客”のニーズに寄り添い、必要な時にそっと手をさしのべるコンシェルジュ。それこそが、現在そして未来のお客さまに提供すべき価値なのです。

ー 「モノ中心」から「コト中心」のマーケティングへ

こうした環境変化を背景に、小売業のマーケティングも大きく変容し始めています。かつて小売業では「何を」誰に・どのように・いつ・いくらで売ればいいのかという「商品=モノ」を中心としたマーケティングが主流でした。

いい商品を揃えておけば、消費者は企業側から発信される情報をもとに、店頭に足を運び、気に入れば商品を購入するという、受動的なスタイルが一般的だったからです。

しかし情報チャネルが多様化した今、消費者は企業側からの発信に加え、ネットやSNSの口コミ情報にもアクセスしながら、オンラインショップや店頭、同業他社の間を自由に行き来して商品を購入しています。ライフスタイルや価値観も多様化しており、単純に高品質なものや低価格なものを揃えても、それが一人ひとりの購買意欲に結びつくとは限りません。

消費者は、先述したように信頼できるブランド、自分を理解してくれる企業、パーソナライズされた心地よいコミュニケーション、自分の好みに即したオファーを期待しています。そのためマーケティングも「このお客さま」は、どんな体験を望んでいるのだろうか、そのためには何をどうやって届ければ心地よいと感じるのだろうかという「コト中心」の観点がなければ対応できなくなっていきます。だからこそ、「モノ中心」から「コト中心」のマーケティングへの転換が求められているのです。

ー バリューチェーンの起点となる顧客ニーズをとらえるために

その実現に向けては「すべての出発点はお客さま」というスタンスで、そのニーズやウォンツをきめ細かく理解し、提案すべき商品を見定め、売り方や場所、提供のタイミングを設定していく新しいマーケティング手法に取り組むことが必要です。

こうした観点から、流通・小売業やメーカーでは、消費者の趣味嗜好や多様なチャネルでの購買行動、さまざまな外部情報をデジタルで分析・把握しながら、ロイヤルティの向上に効果的な施策を展開できるデジタルマーケティングへの関心が高まっています。

デジタルマーケティングが注目されているのは、なにも売上拡大への期待ばかりではありません。すべてのバリューチェーンの起点となる顧客ニーズを的確に捉えることができれば、その情報を「小売」と「商社・卸」「メーカー」「原材料供給者」などが共有して、より確度の高い商品企画や発注・販売・生産計画、需要予測につなげることも可能です。

さらに物流情報と連携すれば、生産工場や配送センター、さまざまな販売チャネルも含めた在庫管理の適正化も合わせ、ロジスティクスの効率化でお客さまに届けるまでのリードタイム短縮やコスト低減にもつながっていきます。こうしたバリューチェーンの全体最適化を実現する上でも、デジタルマーケティングが注目されているのです。

ー データ分析のキャパシティが人力の限界を超えてしまった

しかし、コト中心のデジタルマーケティングを展開していくためには、クリアすべきハードルもあります。

従来の商品情報、顧客情報、購買履歴(POSデータなど)といった情報などに加え、さまざまなデジタルチャネルに残された大量のネット行動データも分析に欠かせない情報となってきたからです。

このため小売や卸、メーカーのマーケター(マーケティング担当者)は、収集対象となるデータ量が膨大になり、その分析作業や分析結果から得た気づきを仮説検証するのに多大なリソース(時間・人)を費やしています。その分、本来業務であるプロモーションの立案や、新商品・サービスを検討するための時間がなくなり、他社との差別化が困難になってきています。ビッグデータと呼ばれるレベルのデータ量と、その分析にかけるキャパシティは、既に人力の限界を超えている状態なのです。

データは十分に持っていても、その活用が不十分なままでは先に進むことはできません。また、分析ナレッジの蓄積も一部のベテランに属人化しているため、分析結果の解釈を新たなマーケティング施策のシナリオに落とし込んだり、次のアクションにつなげたりすることがなかなかできないケースもあるでしょう。

勘だけに頼るキャンペーン、売れ筋の顧客属性を寄せ集めただけの販売施策では、一時的な効果はあるにせよ、継続的な売上に結びつけるのは困難です。数打てば当たる型のDMプロモーションは、味気ない一方的な押しつけとなり、せっかく信頼関係を築いてきたロイヤルカスタマーの離反を招くおそれもあります。

“個客”を知ることがデジタルマーケティングの第一歩

ー マーケティングのデータ分析負荷を日立が肩代わり

そこで日立は、デジタルマーケティングで求められる膨大なデータ分析とナレッジの蓄積を、実績ある分析手法や人工知能(AI)を活用することでサポートし、マーケターに新商品やサービス、マーケティング施策の創出に注力できる環境を提供するサービスを開発しました。

日立は既に先進的な企業との協創で、デジタルマーケティングのPDCAを支援する実証実験を始めています。それは、ロイヤルカスタマーへ導く戦略策定を行う「Plan」、戦略に沿った施策を推進する「Do」、施策の検証・学習の自動化を進める「Check」「Action」の流れを回転させることで、優良顧客の割合を高め、バリューチェーンの全体最適化にもつなげていく試みです。

この中の「Plan-Do」に相当する部分は、既に「優良顧客分析サービス」、「顧客インサイト分析サービス」、人工知能「Hitachi AI Technology/H」(以下、AT/H)で構成された「顧客ロイヤルティ向上サービス」としてリリースされています。

ー 「Plan」~優良顧客へ導く戦略策定~

これによってどのようなマーケティングが可能になるのでしょうか。まずPlan策定のフェーズでは、購買履歴や商品属性などのデータを使い、購買単価や頻度、商品の購買率などの膨大なデータを高速に分析し、現状のマーケティング課題を把握することができます。

具体的には、日立が開発した超高速データベース「Hitachi Advanced Data Binderプラットフォーム*」で大量データを高速分析しながら、グローバルに実績のあるBIツール「Pentahoソフトウェア」で分析結果をビジュアルに可視化します。

*Hitachi Advanced Data Binderプラットフォームは、内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:喜連川 東大教授/国立情報学研究所所長)の成果を利用しています。

マーケターは、分析結果から得られる「優良顧客」「準優良顧客」「一般顧客」「離反顧客」などのセグメント化情報を基に、さまざまな購買特性を理解することができます。

「ロイヤルティの高いお客さまは、こんな商品を好んで購入していたんだな」「一般顧客の購買点数を高めるには、こんな商品を推奨すればいいのか」

そんな施策のアイデアや気づきが、マーケターのスキルに依存することなく、データから自然に浮かび上がってくるのです。

大きな分類や戦略ができたら、次はそれぞれのお客さまの趣味嗜好を探っていきます。ターゲットとすべき層、好まれている商品などの深掘り・見える化を行うわけです。その上で、購買単価や商品購買率など、さまざまなKPI(Key Performance Indicator)候補の中から特に改善すべきものを見極め、施策の方向性を適切に定めていきます。

具体的には、店舗で販売している各商品に「高品質」「低価格」「健康志向」「少容量」といった、商品の特徴を表すタグ情報(商品DNA)を自動的に付与。その上で商品の購買履歴を“個客”ごとに集計・分析すれば、同じ優良顧客である30代の女性でも、「高品質で安心なものを選ぶ人」と「コストパフォーマンスにこだわった買い物をする人」など、それぞれの趣味嗜好やライフスタイルを深く読み解いていくことができます。

新たにカテゴライズされる趣味嗜好セグメントは、「贅沢・こだわり派」「健康志向派」「トレンド追求派」「価格重視派」などに分けることができ、どのお客さまにどの商品を提案すれば売上効果が上がるかを、見える化できるようになります。

もちろん一人の女性でも、就職、結婚、出産、子育てといったライフイベントごとに、その趣味嗜好やライフスタイルは変化していきます。しかしこのサービスを利用すれば、その人が購入する商品DNAと趣味嗜好セグメントを定期的に分析・更新することで、常に最新のニーズや行動パターンを想定した精度の高いパーソナル・マーケティングを立案できるのです。

ー 「Do」~戦略に沿った施策推進を実行~

こうして導き出された分析結果は、組み合わせが膨大なため、そのままではマーケターだけでは処理しきれない可能性があります。そこで日立の人工知能AT/Hが、あらかじめ設定したKPIが最大となる条件を抽出し、マーケティング施策の候補案をご提案。マーケターがそれを参考に効果的な施策を立案・実行していくまでの環境を日立はトータルに支援していきます。

これらのサービスを実際に導入した企業では、従来の性別・年代を組み合わせた手法に対し、来店・購買率で約2倍のレスポンス向上という成果を生み出しました。また、この分析結果を活用して品揃えの最適化に取り組んだ店舗では、改善の取り組みを行ったカテゴリーの売上を最大10数%アップさせた実績もあります。

皆に笑顔を届けるデジタルマーケティングの実現へ

ー AIが、思いも寄らない仮説を導きだす

日立のデジタルマーケティングで最も特長的なのが、積極的なAI活用です。その日の天候や近郊のイベント、商圏や競合相手の動き、SNSでのつぶやきなど、さまざまな外部データも含めた膨大な情報の相関関係を、人力では不可能なスピードで総当たりさせることで、一見すると売上とは何も関係ないような「仮説」や「新たな気づき」を導き出します。これがAT/Hならではの特長です。

年々人手不足が進む流通・小売業ですが、ここで紹介したように効果的な分析手法とノウハウ、データ分析を超高速に展開できるITも急速に進化しています。企業の規模に関わらず、デジタルマーケティングはこれまで以上に身近なものになっているのです。

さらに日立ではPlan-Doに続くCheck-Actionとして施策の検証・学習の自動化をシステム化するサービス開発にも取り組んでいます。顧客ロイヤルティ向上サービスで導き出された仮説や施策が、実際の購買につながったかどうか、つながらなかった場合は、その改善点をAT/Hが自動学習し、より最適な仮説と施策の立案・展開にフィードバックしていくことをめざしています。

既に実証実験も始めています。あるECサイト運営会社では、自社が保有する会員情報とネット行動データ、商品情報と注文データなど2年分のビッグデータを日立のAT/Hを活用して顧客セグメント分析し、個々のペルソナ像(“個客”の人物像)を抽出。細かなライフスタイルや購買履歴と、過去の商品別の売上げやリピート率といった反響データを掛け合わせた相関分析を行うことで、「“個客”の購入率」や「客単価の向上」、「注文回数」など予め設定したKPIを最大化する組み合わせを見つけ出そうとしています。

また、パーソナルレコメンドのメルマガやWebへのバナー掲載による施策の効果検証をPDCAサイクルで繰り返し実証する取り組みも推進中です。“個客”に適した施策を推進し、そのヒット率が上がれば需要予測の精度も上がり、チャンスロスや在庫過多などのリスク回避にもつなげることが可能になります。

ー バリューチェーン全体の最適化に向けて

さらに将来に向けた取り組みも進めています。お客さまのペルソナ像を推定・検証した上で、売上に貢献する商品開発やデザイン、販売におけるリスク回避につなげていく手法の開発についてもECサイト運営会社と共同で進めています。

小売と卸、メーカーがこうした情報を共有するようになれば、お客さまのライフスタイルやニーズに応える商品開発や、より精度の高いアプローチ施策が実現します。バリューチェーンを構成するすべてのプレイヤーが、より多くの“個客”に寄り添ったコミュニケーションをとれるようになるわけです。

もちろん、デジタルマーケティングによる“個客”の理解や継続的な売上拡大施策は、一朝一夕にできるものではありません。それぞれの企業の強みや商圏特性などを勘案しながら、最適な手法やアプローチの仮説・検証を繰り返していくことが重要です。

しかし、人力だけでは叶わない膨大なデータ分析をシステムに肩代わりさせることで、今まで思いも寄らなかった仮説の量産と検証が可能になれば、業績に大きなインパクトを与える施策を最短で導き出せるはずです。

日立は、お客さまの業務効率化だけでなくバリューチェーン全体の最適化につながる改革をデジタルマーケティングの分野でも支えていきます。

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