第四次産業革命という言葉とともに、その基盤となるテクノロジーとして、IoT(Internet of Things)がいま大きな注目を集めている。そもそもIoTとは何か。いかにして革命につながるほどのイノベーションを起こすことができるのか。今回はその謎解きとともに、これからの企業や社会の浮沈の鍵を握るともいわれるこのIoTに対して、日立はどのような強みを持ってどのように取り組んでいるのかを、IoT推進の指揮を執る株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 Senior Technology Evangelist 渡邉友範へのインタビューを通して紹介したい。
画像: 株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 Senior Technology Evangelist 渡邉 友範

株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 Senior Technology Evangelist
渡邉 友範

文=西條義典 写真=小泉賢一郎

SF世界が現実世界に

かつてサイエンス・フィクション(SF)映画で観たシーンがいま現実世界となって現れている例は枚挙にいとまがない。たとえば、映画「シックス・デイ」(2000年)に出てくる冷蔵庫は足りない食品を検知して購入までできるようにするし、映画「マイノリティ・レポート」(2002年)では主人公の帰宅を感知して照明を点灯する。また、自動運転のクルマはSF映画の定番だ。少し古いが、先見性という点では、米国のテレビドラマ「ナイトライダー」(1982年~)に登場するクルマ(ナイト2000)は自動運転のみならず、人格さえもっていた。このようなシーンはまさにIoTの世界だと、渡邉は語る。

「未来都市のクルマは空を飛んだりしていますが、不思議と渋滞もせずに整然と流れています。どうすればその世界を実現できるかを考えれば、答えは見えてきます。自動運転の時代がそこまで来ていますが、自動運転だけを見ればそれは『個』の最適化です。大切なことは渋滞や事故をなくすということです。そのためには、たとえばナビを通して他のクルマがどこへ向かおうとしているかをわかる必要があります。そうすると、前を走っているクルマは次の交差点で左に曲がるということが事前にわかりますので、交差点に近づいたところで自動減速することができます。また、高速道路で合流してくるクルマがあることがわかれば、合流地点に近づいた時点で自動減速して前を走るクルマとの距離を空けることができます。これは道路網という限られたリソースをうまく共有し、それぞれが協調しながらクルマ社会全体としての最適化を図るもので、IoTがもたらす近未来の姿の一例ではないでしょうか」

実は、こうした新しいクルマ社会と似たかたちをすでに実現している分野がある。鉄道だ。ご存知のように、電車同士は一定の間隔を保ちながら決められた線路上を走っている。しかし、このような鉄道の制御の仕組みはIoTという言葉が注目される以前からあった。では、IoT=モノのインターネットという概念・仕組みはいつ生まれ、どのような革新性によって注目されるようになったのだろうか。

天使の目

それは1999年までさかのぼる。いまでは身近になったRFID*1タグをどのように管理するかで、マサチューセッツ工科大学内に「オートIDセンター」が設立され、その議論のなかで初めてIoTという言葉は使われた。このときのインターネットは、TCP/IPでつながるという単純な意味ではなく、システム・オブ・システムあるいはインターネット・オブ・インターネット、つまり個々のネットワークをつなげた大きなネットワークという意味で使われている。そして、そのネットワーク上でRFIDタグを付けたモノの情報をリアルタイムで見る(識別)ことができたら何が起きるだろうかというのが、IoTのルーツとなっている。

以後、何が起きたか。渡邉は物流を例に次のように説明する。

「RFIDタグを付けた荷物が倉庫の出入り口を通ったり、トラックの荷台に載ったりするだけで、荷物がどこにあるかがわかるようになります。これによって、いまでは当たり前のサービスになっていますが、ネットショッピングで買った商品が現在どこまで配送されているかを消費者は知ることができます。また物流の現場では、個々の商品の配送先や配達指定日などの情報をもとに自動的に仕分けして、物流拠点間でまとめて運ぶように最適化しています。とはいえ、世界中に散らばった荷物がどこに行こうとして、いまどこにあるのかを管理することは容易ではありません。やろうと思えばできますが、その労力やコストを考えれば得策ではありません。しかし、実はそこにネットワークを経由させることで、どこからでも安いコストでリアルタイムに全体を容易に見ることができるようにしているのです。つまり、さきほどのクルマの自動運転と同様、これまで気づかなかったコトや見えなかったモノも含めすべてをデジタルの世界で容易に扱えるようにし、これまでなかった価値やサービスを生み出していくのがIoTではないかと思っています」

最近、こうしたIoTに関連して、ある人工知能の研究者は“天使の目”と表現している。言葉の対極としてはすぐに映画「ターミネーター」の悪魔の目・スカイネットを想像してしまうが、こちらは現実の世界としてまさに優しい天使が空の彼方から世の中全体が最適なかたちになるように見てくれているようなイメージだ。これこそ未来にむけたIoTの一番のインパクトかもしれないと思うが、渡邉はIoTには次のような大きなメリットもあると語る。

「IoTによって現実世界のさまざまなモノをデジタルの世界で扱えるようになったことで、現実世界の状況や問題点を俯瞰した目線で把握することができるようになります。その結果、現実世界ではとても試せないようなことも、リアルなシミュレーションとして試すことができます。たとえば、事故が起きたら人はどのように行動するかを事故の状況や影響などから予測して、その結果を現実世界にフィードバックし、事故が起きないように、また起きても被害が最小限になるような避難誘導の解決策を導き出すことができます。こうした方法は、乗客ニーズを考慮した交通機関の運行の最適化や、エネルギーの需要と供給のバランス調整など、個別的な施策だけでは解決できなかった問題に対して、全体最適化の視点から解決につながる施策を打てるようになります」

*1 RFID:radio frequency identification

IoTへの潮流

では、こうしたIoTの可能性を受けて、実際にはどのような動きが起きているのだろうか。少し前になるが、IoTによるイノベーションの例としてよく取り上げられているのが、タクシーの配車サービスUber(ウーバー)*2だ。もともとはタクシー会社が自社のタクシーがどこにいるかをGPSによって管理するものであったが、ウーバー・テクノロジーズ社が各タクシー会社のタクシー情報と一般人の自家用車の情報を一か所に集め、これにドライバーと利用者の相互評価の仕組みを加え、全体として最適化したマッチング・サービスとして実現したものだ。同社の公式ウェブサイトによれば、現在、世界の408都市でサービスが展開されているという。IoTかどうかについて異論も出ているが、既存のタクシー業界を巻き込んだパラダイムシフトが起きていることは事実である。

一方、産業界では、米国のGE社が推進するインダストリアル・インターネットや、ドイツ政府が推進するインダストリー4・0といった動きがある。渡邉は、これらがIoTを加速させる大きな要因となっているとし、次のように語る。

「いわゆる第四次産業革命といわれているものです。航空機エンジンや工場の製造装置など、現実世界のモノに付いているセンサー情報をデジタルの世界で扱えるようにして、モノの故障などを予兆するだけでなく、その周辺のモノ、航空機エンジンであれば機体や運行まで、製造装置であれば部品・部材、電源、デリバリーまで、IoTを使って周辺全体をデジタル化して俯瞰し、さらに高次元の効率的運用方法を探ったりしています」

日本でも同じような考えから、政府の日本再興戦略の一環として第四次産業革命にむけた新産業構造ビジョンがスタート。また昨年10月には産学官が参画・連携したIoT推進コンソーシアムが設立され、IoTに関する技術の開発・実証および標準化やプロジェクトの創出およびその実施に必要となる規制改革などへの取り組みが始まっている。

*2 日本では自家用車による営業は違法行為とされているため、対象はタクシーのみで本来のUberサービスの開始は未定

IoT構築の要件と成功の肝

実際にIoTを構築していくためにはさまざまなテクノロジーが必要となる。まず必要となるのが現実世界を見える化するセンサー。次に、センサーがデジタル化した情報をやり取りする高品質のネットワーク。そして電源の確保が難しい場所では省電力設備や太陽光発電などの工夫も必要となる。こうしたモノに関わる技術はIoTでは重要なポイントになる。

そして、ネットワークで取り込んだモノの情報の中から関連性のあるものを整理し、利用目的に合わせて最適な施策を見いだすビッグデータ分析が必要となる。また、現実世界のデジタル情報が膨大になるなかで最適解を見つけるには、人間による分析だけでは困難で、人工知能の技術も活用することになる。これらがIoT構築に必要な基本的要件で、あとは得られた最適解を検証して現場にフィードバックするというサイクルを回していくことになる。もちろん分析結果などが現場にフィードバックされるためセキュリティ技術は欠かせない。とくに現実のビジネスや社会の全体最適にむけて異なる組織が連携するため、このセキュリティ技術は極めて重要となる。

そして、これらの要件を押さえたうえで、IoTプロジェクトを成功に導くための肝について、渡邉は次のように語る。

「一番大事なことは、現実世界がデジタルになっていく流れはもう止まらないという認識を持っていただくことです。それには、デジタル・トランスフォーメーションという言葉で表現されていますが、自分たちの身近な仕事の経験がデジタル化されて、時間と空間を超えて活用されるということはどういうことかをシンプルに考えていただくのが一番だと思います。日立ではお客さまとの協創の際に、『Exアプローチ』という手法を使ってお客さまの経験価値の視点からビジネスの変化への対応をとらえる支援を行っていますし、将来の世界がどう変わるか、どんな課題があるのか、ディスカッションする気づきのきっかけも用意しています。これに加えて、場合によってはビッグデータの専門家やコンサルタントも入れることで、お客さまのビジョン構築や戦略検討などをお手伝いできると考えています」

そこには日立ならではの強みも生かされる。日立グループとしての世界に類を見ない多彩な実業のポートフォリオにおいて豊富な経験とノウハウを蓄積し、そのなかでITやIoTをプラクティスとして自らが使い、改善していくことをコミットしている。ここでの成果、たとえばビッグデータの分析の仕方、人工知能の活用の仕方、勘どころのつかみ方などすべてを組み合わせて提供するやり方は、お客さまのコンテンツや目的が違っても役に立つし、実際にそこに期待されているお客さまも多い。もちろん日立にできない部分もある。たとえばマーケティング分野は広告代理店などとのパートナーシップによるオープン・イノベーションとなる。

画像: 日立が考えるIoTの全体像

日立が考えるIoTの全体像

IoTへの日立の取り組み

電力、交通、ヘルスケアをはじめとするさまざまな分野の安全・安心、快適さ、便利さ、そして全体最適をめざす社会イノベーション事業に取り組む日立にとって、現実世界をデジタル化することで業種・業界を越えた課題解決につながるIoTの推進は、重要なポジションを占めている。

たとえば、前出のインダストリー4・0に対応したスマートファクトリーについては、すでにクラウド型の機器保守・設備管理サービス「Doctor Cloud」や、IoTを活用したアフターサービス強化ソリューション「Global e-Service on TWX-21」などのサービス提供を始めている。また、日立建機が製造した建設機械の遠隔監視サービスや日立メディコの超電界MRI装置の故障予兆診断サービスなどはすでに多くの機会に紹介され、類似の取り組みを検討されるお客さまの関心を集めている。さらに鉄道分野では、変電所から電車へ電流を流す「き電線」のメンテナンスシステムも昨年の4月から運用されている*3。これは「き電線」の接続箇所に太陽光発電型の無線式温度センサーを取り付け、営業運行している電車からその発熱状態を自動的に収集し、断線トラブルの予兆を把握できるようにしたものである。従来は、保守作業員がサーモカメラを手にして、一つひとつチェックしていたが、これにより、作業負荷軽減および迅速・正確なチェック体制の確立をめざしている。

最近では、いろいろなモノにコンピュータが組み込まれ、インターネットを介してさまざまな情報をやり取りし、より高度なサービスを提供する例も多くなっている。これはモノの提供から「コトの提供」へのシフトともいわれている。代表的な例が接客ロボットだ。日立ではこの4月、接客や案内サービスをするヒューマノイドロボット「EMIEW3」を発表した。これは店舗や公共施設などでサポートを必要とする人のもとへ自ら移動して人をアシストするIoTを具現化したかたちといえる。

画像: 接客や案内サービスをするヒューマノイドロボット「EMIEW3」

接客や案内サービスをするヒューマノイドロボット「EMIEW3」

*3 東日本旅客鉄道株式会社との共同プロジェクト

IoT推進にむけた組織/体制

昨今、社会における課題がますます複雑化するなかで、何が起きるかがまったく予想できないほど、その不確実さの度合いは深まっている。一方で、未来への希望につながる新しいアイデアや仕組みも日々生まれ、その成熟度はますます高まっている。企業にとっては、お客さまの価値、あるいは市場の価値を起点に、スピード感をもって、失敗を恐れることなくいろいろなチャレンジを繰り返していかなければ、本当に価値のあるものを生み出すことは難しくなっている。

そうした観点から、日立は昨年来、研究開発体制の再編(2015年4月)、IoTに関する情報セキュリティ専門組織の立ち上げ(2016年1月)、フロント機能を強化したマーケット別組織への変革(同年4月)など矢継ぎ早に組織/体制の改革に取り組んできた。その意図について、渡邉に聞いた。

「私個人としては、日立は技術の会社であり、世界は技術で変えられる、技術で良くできると信じています。そういった意味で、研究開発体制の再編というのは、研究者がお客さまや市場に近いところ、つまりフロントに直接出ていって一緒に汗をかく、ちょっとドロ臭いかもしれませんが、それが一番ではないかと思います。もちろんピュアな基礎研究というのも非常に大事です。そういう部分はしっかり残していますので、うまくミックスしていけるのではないでしょうか。IoTにおける情報セキュリティは、その対象が業種・業界を越えて拡大し、現場への情報のフィードバックも頻繁に行われますので、ますます重要な課題となってきます。これまで、サイバー空間および物理空間のセキュアな環境づくりについてはいろいろな施策を行ってきましたが、これらを含めてもう一度さらに強固なものへ体系化し直そうということです。フロント機能を強化した12のビジネスユニット*4への変革の意図は、基本的に研究開発体制の再編と同じですが、新たにサービス&プラットフォームビジネスユニットという組織が用意されています。これは、IoTの世界で企業がデジタル化され、企業と企業もデジタルでつながっていく時代にあって、その高度で複雑な問題を解決するための不可欠な技術を共通プラットフォームとして各ビジネスユニットなどに提供する機能などを持っています」

*4 原子力、電力、エネルギーソリューション、産業・流通、水、ビルシステム、鉄道、アーバンソリューション、ディフェンス、金融、公共、ヘルスケアの12ビジネスユニット

画像: IoT推進にむけた組織/体制

協創による共生へ

日立はいま、IoTによる価値創出を最大化するため、共生自律分散というコンセプトによってそれを実現しようとしている。それぞれの企業や社会インフラがデジタル化をベースに自律的な最適化を進めると同時に、相互に連携しながら新たな課題解決策を協創しようというねらいだ。その抱負を、渡邉は次のように語る。

「インターネットの世界では、検索やSNSなどでさまざまな情報を共有し、相互に活用しあうことが当たり前になっています。IoTで現実世界の森羅万象がデジタル化されてくると、相互に連携できることがさらに増えて、オープン・イノベーションも活発になると思います。しかし、そこで共生するためには1プラス1が2とか、3になる必要があります。日立が持っている組織の能力や経験値はデジタルの世界でも変わらないし、お客さまも同じです。ただ仕事のやり方、安全・安心が第一、品質が第一といった日立の文化がデジタル化と結びついていくと、モノ、コンテンツ、考え方、価値などは加速度的に高まっていきます。お互いがそれぞれの文化を大事にし、それぞれの領域で高めたものを組み合わせると指数関数的に伸びていくでしょう。これくらいの気概がなければ、IoTと社会イノベーション事業を結び付けて新しい時代を創造していくことはできないと覚悟しています」

SFの開祖として親しまれているフランスの小説家ジュール・ガブリエル・ヴェルヌは、「人がイメージできるものは、人が必ず実現できる」という言葉を遺したといわれている。日立が想い描くIoTの世界が未来に多くの花を咲かせていることを願って……。

Realitas Vol.16 掲載記事より

This article is a sponsored article by
''.