これまでに150社以上の大手メーカーのオープン・イノベーション支援を手がけてきたナインシグマ・ジャパンの創業メンバーで、現在、同社の顧問を務める星野達也氏。2015年2月には、『オープン・イノベーションの教科書』を上梓し、複数の成功事例を引きながら、具体的かつ実践的な方法論を示して、注目を集めている。「オープン・イノベーション×経営」第三弾となる本連載では、オープン・イノベーションのエバンジェリストである星野氏に、具体的な実践のノウハウと心構えについて聞いていく。
画像: 星野達也氏 株式会社ナインシグマ・ジャパン 顧問。一般社団法人オープンイノベーション促進協議会理事。 東京大学工学部地球システム工学科卒業、同大学院地球システム工学科修了。ルレオ工科大学(スウェーデン)客員研究員、三井金属を経て、2000年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。製造業界を中心に、経営戦略策定、新規市場参入、マーケティング、コストカットなど多数のプロジェクトに従事。2006年、ナインシグマ・ジャパンの設立に参画し、100社を超える大手メーカーのオープン・イノベーション支援に携わる。著書に『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)など。

星野達也氏
株式会社ナインシグマ・ジャパン 顧問。一般社団法人オープンイノベーション促進協議会理事。
東京大学工学部地球システム工学科卒業、同大学院地球システム工学科修了。ルレオ工科大学(スウェーデン)客員研究員、三井金属を経て、2000年、マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。製造業界を中心に、経営戦略策定、新規市場参入、マーケティング、コストカットなど多数のプロジェクトに従事。2006年、ナインシグマ・ジャパンの設立に参画し、100社を超える大手メーカーのオープン・イノベーション支援に携わる。著書に『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)など。

多くの企業が一度はオープン・イノベーションを経験

ーー星野さんのご著書『オープン・イノベーションの教科書』を読ませていただきましたが、オープン・イノベーションの全体像を解説しながらも、じつに実践的な内容で、提案書の書き方まで指南されていたのには驚きました。この本が手元にあれば、すぐにでもオープン・イノベーションに取り組めそうです。反響はいかがですか?

星野
想像以上に反響がありましたね。大企業、中小企業にかかわらず、とくにメーカーからの問い合わせが多く、これまで弊社がいくら営業をかけても門戸を開いてくれなかった大企業や地方のメーカー、さらには中小企業を束ねている商工会議所などからも連絡があり、本の影響力の大きさに驚いています。その背景には、ここ数年でオープン・イノベーションが認知されてきたことがあると思います。

ーーナインシグマ・ジャパンを設立された10年前とは、状況はかなり変わってきているのでしょうか?

星野
ええ。10年前は、カタカナで「オープン・イノベーション」とGoogleで検索しても、20件くらいしかヒットしませんでしたからね。今はもう、130万件以上のサイトがヒットします。状況が変わったのは、2009年のリーマンショック後で、2011年くらいから具体的な案件が増えてきました。ただ、本格的にオープン・イノベーションを始めている企業はまだ多くはありません。

ナインシグマ・ジャパンではこれまで、150社にのぼる大手企業を中心にオープン・イノベーション活動を支援してきましたが、ターゲットとしてきたのはメーカーであり、その技術です。そして、我々はオープン・イノベーションを次のように定義しています。「メーカーが、自社のみでは解決できない研究開発上の課題に対して、既存のネットワークを超えて最適な解決策を探し出し、それを自社の技術として取り込むことによって、課題を解決する」。つまり、オープン・イノベーションというのは、メーカーが主体的に戦略として取り組む提携手段の一つなんですね。

そして今や、大手メーカーの多くがオープン・イノベーションを「一度は味見をしてみた」という段階にきました。そこで何か感じるものがあって継続する企業もあれば、自分たちには難しいと感じていったんやめて、今一度戦略を立て直している企業もある、という状況です。

画像: 多くの企業が一度はオープン・イノベーションを経験

モチベーションは強烈な危機感

ーーオープン・イノベーションに積極的に取り組む企業には、何か共通する特徴があるのでしょうか? 

星野
強烈な危機感があるかどうかですね。本の中で事例として取り上げた東レ株式会社も味の素株式会社も株式会社デンソーも大阪ガス株式会社も、オープン・イノベーションに取り組んだ背景には大きな危機感がありました。例えば、東レと味の素の2社に共通するきっかけは、赤字転落です。

東レの場合は、2002年3月期に創業以来初の赤字(単体)に転落し、このまま何の手も打たなければ、「2年9カ月後には倒産する」と財務担当役員が明らかにしたことでお尻に火がつきました。その後、経営改革に乗り出し、4月の中期経営計画では早くも、「自前主義からの脱却」を掲げました。大阪ガスの場合は、電力会社が推進するオール電化によってガス不要論が持ち上がったこと。デンソーの場合は、伝統的な自前主義に対する現場からの猛烈な危機感が発端となりました。

このように、企業が好調なときに自ら進んでオープン・イノベーションに乗り出すことは少なく、むしろ強烈な危機感がきっかけであることが多いのです。もっとも、調子のいいうちにしっかり準備を進め、オープン・イノベーションという武器があるということを知っておいて損はないでしょう。

メリットは研究開発のスピードアップ

ーーオープン・イノベーションを継続している企業は、どのようなメリットを感じているでしょうか?

星野
一番は研究開発のスピードアップが図れることでしょう。自分たちだけで実施すると3年かかるところが、社外の技術を使えば1年半とか2年とか大幅な短縮が可能になります。これは結果的にROI(Return on Investment:投資対効果、投資効率)の最適化につながる。例えば、早くからオープン・イノベーションを実践してきたP&Gでは、2000年を1とした場合、2008年の時点で見ると売り上げは倍増していますが、研究開発費は17%しか増えていません。その成果の多くが、オープン・イノベーションによるものです。

また、人材育成にもつながります。オープン・イノベーションを実現するためには、外部のパートナーを探し、ときには海外までネゴシエーションに出向かなければなりません。デンソーの場合、ボトムアップ型で活動が広がった数少ないケースですが、研究者が自発的・能動的にプロジェクトを進めてきたことにより、若手研究者の成長につながりました。実際に現地に赴いて交渉をしたり、見聞を広める活動を持続的に続けてきた結果、オープン・イノベーションを推進する社内カルチャーも醸成されています。

画像: メリットは研究開発のスピードアップ

グローバルスタンダードに基づく
スピード感、コミュニケーション、予算

ーー方で、一度味見はしたけれどオープン・イノベーションをやめてしまった企業では、何が問題だったのでしょうか?

星野
一言で言えば、結果が出せなかったということでしょう。世界中探しても、しかるべきパートナーが見つけられなかったケースもあれば、パートナーは見つけたけれど自分たちのスキル不足やスピード不足で、相手側に断られてしまったケース、結果が出るまで待てなかったケースなどさまざまです。やはり、ある程度のスキルがないと難しい活動だとは思います。

スキルというのは?

星野
重要なのはグローバルスタンダードに立ったコミュニケーション能力を持てるかどうかで、それは単純に英語ができればよいといったことではありません。とくに日本の企業は意思決定が遅い。経験上、グローバルビジネスでは相手を4週間以上待たせるのはマナー違反です。

また、オープン・イノベーションではお互いにWin-Winにならない限り話は進みません。その際にとくに問題となるのが価格交渉、いわゆる「ネゴ」です。日本のメーカーは、下請けや共同研究の相手先などの外部に対してネゴるケースがいまだに後を断ちません。あるいは、サンプルテストにかかる費用を無料で依頼して、「うまくいったら上乗せします」などと言う。こうした交渉はグローバルスタンダードではありえません。

予算感のズレも問題です。実際に海外の相手と組む際には、専属の研究者を1名、1年間任命した場合、10万ドル(1,000万円以上)からスタートするのが常識です。その金額に驚いて、思考停止してしまうケースも多く見られます。

コンソーシアムやアウトソーシングとの違い

ーーお話を伺っていて、活動を継続するためには、オープン・イノベーションの本質を理解して、作法に通じる必要がありそうですね。混同されがちなコンソーシアムや共同研究とはどう違うのでしょうか?

星野
自由参加のコンソーシアムというのは、複数の組織が異なる分野の知見を持ち寄って新しい技術を創造し、そこで得られた成果は皆で享受するというもの。ただし、参加企業がいざ事業化しようとすると、知財の取り扱いや利益の分配方法などで難しい面が出てきてしまいます。

これに対して、ここで扱うオープン・イノベーションは、主体者(事業をやりたい企業、特にメーカー)が明確な目的を持ち、その目的達成のために必要な資産や技術を持つ組織を見つけ出して協業することです。先述の通り、戦略的提携なんですね。

また、従来からお付き合いのある大学やグループ内の共同研究とも大きく異なります。最大の違いは、「想定内の範囲でよしとする」か、「可能な限り最高の技術を求める」か。日頃からお付き合いのある組織との連携では、想定できる技術力の中でしか発想は膨らみません。そういう意味で、オープン・イノベーションにおいては「2番目の技術をつかむことはリスク」と言っていい。フィリップスも、自社のオープン・イノベーションを定義する際に、あえて「これまで付き合ったことのない組織の技術を取り込む」と表現しているように、未知の組織と組むことこそがオープン・イノベーションの価値と言えます。

画像: コンソーシアムやアウトソーシングとの違い

ーーアウトソーシングとの違いは?

星野
アウトソーシングというのは、メーカーの場合、「研究」「開発」「生産」の、最後の「生産」について、コスト削減などを目的として社外組織や第三国に委託することを意味します。その際、技術やノウハウの流出のリスクを伴うことになります。一方、オープン・イノベーションでは、「研究」に力点を置き、社外のすぐれた技術を自社内に取り込むことを目的としています。つまり、アウトソーシングとは真逆なんですね。技術の漏洩を気にするのは、むしろ技術を提供する側にある。そうしたことから我々はインバウンド型のオープン・イノベーションを「インソーシング」と呼んでいます。

もちろんオープン・イノベーションにおいても、自分たちの技術を提供するケース(アウトバウンド型)もありますが、最初に取り組みやすいのは、外の技術を取り込むインバウンド型なので、ここではおもにインバウンド型についてお話ししています。

画像: オープン・イノベーションの全体像

オープン・イノベーションの全体像

いずれにしても、やはり最初の成功体験が重要になります。一例でも成功事例があれば、一気に加速するケースが多い。この数年でようやくオープン・イノベーションが認知されてきて、今後はさらに門戸を開く企業が増えてくることを考えると、今はまさに本格的に取り組む好機と言えるのではないでしょうか。

(取材・文=田井中麻都佳/写真=秋山由樹)
(第2回につづく)

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