デジタルトランスフォーメーションに関する全3回のコラムシリーズ。第1回目の本稿では、なぜ今あらゆる企業でデジタルトランスフォーメーションが必要なのかを明らかにするため、IT市場でどのような構造変化が起きているのか、また、グローバル企業はこの変化にどのように取り組んでいるのかについて述べる。

アナリストプロフィール
廣瀬弥生 (ひろせやよい)
IDC Japan株式会社 ITスペンディンググループマネージャー

国内IT支出動向調査の責任者として、国内IT市場を製品別、企業規模別、産業分野別に分析する他、主要ベンダー製品別動向などの調査を担当。

日米の大学院修了後(経済、行政政策、ビジネス専攻)、情報通信系リサーチ、コンサルティング企業にて、行政部門を中心とした情報システムの上流工程に関するコンサルティングに従事。その後、国立大学にて、ITを始めとする先端技術研究の事業化プログラムを管理・運営。研究者として、国内各地域の産業活性化政策の提言や、IT系企業との共同研究にて、次世代ITサービスの実現に向けた研究プロジェクトなどを実施。その後、独法研究機関において、センサー技術の研究開発マネジメントを実施。総務省情報政策委員として、日本の情報通信分野の国際標準化戦略に関する提言を行う。情報リスクマネジメント及び、情報システムの組織内導入ノウハウに関する論文執筆。常にリサーチと先端技術の事業化プロジェクトマネジメントの双方に従事することにより、実務・現場視点でのリサーチを実施することに心がけている。

専門の分野/テーマ
・ITマーケット分析
・情報通信業界における競争構造、ビジネス戦略に関する分析
・情報システムの上流工程に関するリサーチ(経済、経営分野)

1. デジタルトランスフォーメーションによってもたらされる競争優位性

Uber、Airbnbなどは、タクシー業界や宿泊業界における既存ビジネスから脱却し、デジタル技術を活用して新たな仕組みを生み出すことでビジネス変革をリードしており、デジタルトランスフォーメーションの代表例として挙げられている。IDCでは、デジタルトランスフォーメーションについて、「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。第3のプラットフォームとは、IDCが定義する従来のクライアントサーバーモデルを中心とした第2のプラットフォームと対比して用いる概念であり、クラウド、ビッグデータ、モビリティ、ソーシャル技術の4つの市場で構成される。

図1 第3のプラットフォームとデジタルトランスフォーメーション

画像: ・DX:デジタルトランスフォーメーション ・AR:Augmented Reality(拡張現実) ・VR:Virtual Reality(仮想現実) Source: IDC Japan, June 2016

・DX:デジタルトランスフォーメーション
・AR:Augmented Reality(拡張現実)
・VR:Virtual Reality(仮想現実)
Source: IDC Japan, June 2016

<図1>は第3のプラットフォームの構成要素とデジタルトランスフォーメーションの関係を示している。IDCは2007年から第3のプラットフォームについて提唱しているが、近年はこの4つの市場からIoT、認知システム(AIを含む)、ロボティクス、3Dプリンティング、次世代セキュリティなど新たなイノベーションアクセラレーターが生み出されており、これらのすべての技術を総称して第3のプラットフォームと定義している。注意すべきことは、デジタルトランスフォーメーションとは、単に「第3のプラットフォーム技術を使った事業」を意味するものではないという点である。

たとえばある自動車製造企業において、「運転手に自動車を売って収益を得る」という事業から「テレマティクスなど、運転手に自動車で利用できるサービスを提供することで収益を得る」事業にビジネスの中心がシフトしているように、第3のプラットフォーム技術を活用して、従来のビジネスのやり方、もしくはビジネスモデルを変革することを意味している。

デジタルトランスフォーメーションを実現すると、企業はどのような競争優位性を持てるのだろうか。ここでは、第3のプラットフォームを活用してビジネスのやり方を変革することによる2つの優位性について述べる。

1点目は、顧客との良好な関係をさらに深められることにある。代表的な小売店舗の事例として、ビッグデータ分析などを活用することによって、ターゲット顧客のより欲しい商品を陳列し、現時点で在庫にない商品でもモバイル端末を使って形状やユニークポイントなどを詳細に説明することで、顧客がより心地良く商品を購入できるというケースが挙げられる。IDCでは、今後デジタルトランスフォーメーションを実現する企業は、店舗やマーケティング部署のみならず、保守部門や製造元のパートナー企業などすべての関係者間で、顧客の心地良い体験に関する重要な情報を迅速に共有することで、より多くの優良顧客との関係をさらに深めることが可能になるとみている。

2点目は、生産効率を大きく改善できる点にある。たとえばデジタルツイン(3Dデータで設計された製品や部品)の活用によって、製造現場で物理的な実験を経ずに最適な生産ラインを配備することや、故障を未然に防ぐことが可能となっており、大幅な効率化を実現している。デジタルツインの活用はさらに、設計/開発から製造、保守、物流に至る全工程プロセスの効率化を可能にする。IDCでは、認知システムの活用などにより今後さらにプロセスの自動化が進み、2020年までにグローバル企業の多くが現在の生産性を倍増させると予測している。

2. デジタルトランスフォーメーションの実現を支える第3のプラットフォーム市場の成長

企業がデジタルトランスフォーメーションを実施するようになった最大の要因は、第3のプラットフォーム市場の成長である。<図2>は、世界市場における第2のプラットフォーム市場と第3のプラットフォーム市場規模を比較したものである。

図2 世界市場における第2のプラットフォーム市場と第3のプラットフォーム市場規模の予測 2015年~2020年

画像: ※ 2015年は実績値、2016年~2020年は予測値に基づく Source: IDC Japan, June 2016

※ 2015年は実績値、2016年~2020年は予測値に基づく
Source: IDC Japan, June 2016

第3のプラットフォーム市場は年間平均成長率 12.7%で拡大を続けており、今年ついに、縮小を続ける第2のプラットフォーム市場規模を追い抜く。第3のプラットフォームが普及し、多くの企業にとって身近な存在になるにつれ、ITの企業内での主な立ち位置が従来の基幹システムを支える役割から、事業成長や収益を生み出す役割に変化していった。さらに、常に新たな事業やビジネスモデルを創出することが求められるグローバル企業では、第3のプラットフォームにより従来のビジネスを大きく変えるデジタルトランスフォーメーションを実現することで成長を志向するようになった。

産業機器メーカー、自動車メーカー、製薬メーカー、家電メーカー、衣料メーカー、金融機関など、すでに非常に多くのグローバル企業CEOが、自社の競争優位性を確立するためにデジタルトランスフォーメーションを戦略の中心に位置付けることを公表している。IDCでは、今後数年以内にデジタルトランスフォーメーションを実施しないグローバル企業は、競争に生き残ることが難しくなるとみている。

3. デジタルトランスフォーメーションによる競争優位性を持続させるために

しかし、競合他社も同様のビジネスを志向している現在、デジタルトランスフォーメーションを実施するだけでは、競争優位性を持続させることはもはや困難である。デジタルトランスフォーメーションによる優位性を持続するためには、次々に新たな関連アプリケーションやサービスを創出し、他社との差別化を続けていく必要がある。多くのグローバル企業はそのために、ソフトウェア開発能力を増強させ、産業特化型クラウドプラットフォームを構築している。

IDCでは、2018年までに世界の大企業の約50%が、産業特化型クラウドプラットフォームを開発もしくは導入すると予測しているが、同プラットフォームを構築している企業は、自動車メーカー、産業機器メーカー、金融機関、小売企業、エンターテイメント企業、製薬メーカーなど、枚挙にいとまがない。これらの企業は、自社のプラットフォーム上で、より競争優位性のあるアプリケーションやサービスを生み出すべく、社内イノベーションラボやベンチャー支援プログラムを通じて、社内外問わず競争力のあるイノベーションを自社に引き寄せる取り組みを実施している。たとえば、アプリケーションのインターフェース(API:Application Programming Interface)を積極的に開放し、自社のプラットフォーム上でより多くのアプリケーションを集めることで、利用者の増加を図っている。さらに、プラットフォームそのもののオープンソース化を進め、社内外の優秀な技術者が協力して迅速にプラットフォームを作り上げ、広くエコシステムを作り上げる方向に動き始めている。

図3 世界IT市場 製品別構成比の予測 2006年~2020年

画像: ※ 2006年~2015年は実績値、2016年~2020年は予測値に基づく ※ 周辺機器などを除き、主要な製品の構成比を比較している Source: IDC Japan, June 2016

※ 2006年~2015年は実績値、2016年~2020年は予測値に基づく
※ 周辺機器などを除き、主要な製品の構成比を比較している
Source: IDC Japan, June 2016

この動きは、米国を中心とした世界IT市場のソフトウェア化の進展という観点からも見て取れる。<図3>は、世界IT市場における主要なIT製品の構成比(周辺機器などを除く)についての変遷を示している。2006年から急速に構成比を拡大したモバイルデバイス(スマートフォン、タブレット)は2015年には落ち着く。代わりにソフトウェア(Packaged software)市場が構成比を伸ばし、2020年にはIT市場の4分の1を占めると予測している。この傾向は特に米国で強く、2020年には米国のIT市場では、ソフトウェア市場がITサービス市場を抜いて35%以上の上位構成比を占めると予測している。IDCではソフトウェア市場の成長を支える最大の要因が、デジタルトランスフォーメーションを目的としたアプリケーションおよびサービスにあるとみている。

本稿では、グローバル競争における優位性を獲得するために、多くのグローバル企業が第3のプラットフォームを活用してデジタルトランスフォーメーションを実現し、さらにその競争優位性を持続させるために、絶え間ないイノベーションを自社から生み出す仕組みを構築している状況について概観した。次回は、デジタルトランスフォーメーションの実現に向けて、経営者が取り組むべき5つの変革について述べる。

This article is a sponsored article by
''.