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「IoT(Internet of Things)」やビッグデータ、あるいは人工知能(AI)の本格的な活用が、「デジタルシフト」という新たな潮流を生んでいます。IoTにより現実の社会やビジネスなどあらゆる事象がデータとして容易に扱えるようになり、デジタルの世界で俯瞰(ふかん)して捉えることができるようになってきたからです。ここでは、デジタルシフトがどれほどのインパクトを持ち、世の中をどう変えていくのか、それに対し企業にはどのような取り組みが求められているのか――その将来像を日立の取り組みと共にご紹介したいと思います。

日立製作所 ICT事業統括本部 Senior Technology Evangelist 渡邉友範

デジタルで大きく変わっていくビジネス
その進化が企業にもたらす意味とは?

ー もはや避けられない「デジタルシフト」

デジタル技術を積極的に取り入れることで、社会やビジネスの変革を加速するデジタルシフト――。近年広く注目されるようになったキーワードですが、インターネットの登場以降ずっとデジタル化は続いているため、「何をいまさら」と感じる方もいるかもしれません。そこで、まずは「なぜ、今、デジタルシフトなのか」というところからお話しましょう。

2000年頃を境に急速に普及したインターネットは、情報の流れを一変させました。SNSなどを利用して消費者が情報を発信するなど、世界中の人々とやりとりできる時代となり、その情報が新しいトレンドを生み出すようになったのです。

当然、ビジネスもこうした潮流と無縁ではいられません。企業では、インターネット上の情報を俯瞰的に捉えることで世の中のトレンドを把握し、自社の事業活動にスピーディーにフィードバックすることができるようになりました。たとえば、オンラインショッピングで消費者にあったおすすめ商品や最新流行の商品をレコメンドするということはデジタルシフトの一例ですが、すでに目新しいものではなくなりつつあります。

加えて、IoTの進展がさらにこうした傾向を加速させています。現在では、カメラやセンサーなどのモノから発信される大量の情報を、インターネットを介して効率的に収集・分析することが可能です。その結果、モノ自身の情報だけでなく、周囲の環境や人の動きといった現実世界の出来事を、距離や時間の制約を越えて、デジタル情報として把握できるようになりました。つまり、現実世界とデジタル世界を隔てていた「壁」が、もはやなくなりつつあるのです。

もう1つ重要なことは、こうした取り組みが「手軽かつ低コストに行えるようになった」ことです。GPSや加速度センサーなどは、一昔前であれば、ごく限られた一部の産業分野でしか扱えない高価なものでしたが、今ではスマートフォンなどさまざまなデバイスに搭載され、現実的なコストで利用できるようになっています。つまり、デジタルシフトはもはや避けられない大きな潮流となっているのです。

ー ふと気付くと、自社の企業価値が1/4に?

それでは、現実世界がデジタル化していくことで、ビジネスや企業経営にはどのようなインパクトが生じるのでしょうか。

先ほど触れた通り、デジタルには、「距離と時間の制約を越えられる」という特長があります。さらに、もう1つ忘れてはならないのが「コピーや変更・改良が、非常に簡単に行える」という点です。これをビジネスの場に置き換えれば、これまでには考えられなかったようなスピードで業務改善やビジネスの立上げができるということにつながってきます。

たとえば従来型のスタイルで、業務改善を行うケースを考えてみましょう。おそらく、業務に精通したベテラン担当者が現場を指導したり、個々の担当者がその持ち場で試行錯誤したりしながら課題点を改めていくパターンが多いはずです。これでは、一年間に行える改善の規模は、どうしても限られてしまいます。

しかし、こうした活動をデジタルの世界で行えば、すべての情報を俯瞰的に把握しながら、さまざまなアイデアを試し、効果を検証していく、「トライアンドエラー」を速いサイクルで繰り返していくことができます。これは、より大きな改善を短時間で達成できることに繋がるはずです。

もちろん、アイデアがあったとしてもイノベーションを創出することは簡単ではありません。打率1割以下とも言われる世界です。しかし、打率は上げられなくても、打席数を1000回、1万回と増やせれば、必然的にイノベーションというホームランの数は増えていきます。例えば、人の数万倍のスピードでデータを処理することができるAIを活用すればそのスピードは格段に上がります。多種多様なデータを用いて、さまざまなアイデアを検討し、それを出来るだけ早く試していく、そんなデジタルの改善サイクルが有効なのです。

例えば日立では、AIにブランコのこぎ方を学習させてみました。その時は「振れ幅を大きくして」とだけ指示し、ブランコの乗り方は一切教えません。最初は、うまく振れたり振れなかったりしますが、何度も繰り返し試す中でたまたまある条件の時に振れ幅が大きくなると、その実績を学び、人間と同じこぎ方を学びました。さらに学習を続けさせることで、膝を1周期に2回曲げるという独自のこぎ方を編み出しました。

これは、今後のビジネスに関わる重大な事実を示唆しています。従来の手法で毎日仮に0.1%ずつの改善を積み上げていけば、年間で1.5倍くらいの改善効果を生み出せます。しかし、デジタル化によって、この改善をもし1日0.5%スピードUPできたとしたら――。その改善効果は年間なんと約6倍にも達します。つまり、これまでと同じように改善に努めているにも関わらず、ふと気が付くと、デジタル化を進めた企業の1/4に価値が落ち込む事態すら想定されるのです。

こうした観点から、もはやデジタル化する/しないではなく、少しでも早くデジタル化することが重要だということが見えてきます。企業経営のデジタル化こそが、自社の価値や競争力をもう1つ上のレベルに引き上げる上で非常に大事なポイントなのです。

デジタルシフトがもたらすインパクトは、これだけではありません。企業が経営危機に陥る際のよくある要因として、現場の情報がトップに届いていないという点がしばしば指摘されます。しかし、すべての情報がデジタル化され、リアルタイムに風通しよく共有できていたら、こうした事態を避けられる可能性が高まります。ビジネスのオペレーションを担う現場と、意思決定を行うトップとの距離を縮められるということは、デジタルシフトの大きなメリットの1つなのです。

リアルタイム性やアジリティ(俊敏性)の高い経営を実現する取り組みは、これまでもさまざまな形で繰り返されてきました。毎日朝会を開いたり、現場の状況をエクセルで集約・共有して議論したり、日々の改善に取り組んでいる企業も多いことでしょう。そうした取り組みをさらに加速させるのが、デジタルシフトなのです。

画像: AI × Swing Robot - Hitachi www.youtube.com

AI × Swing Robot - Hitachi

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ー デジタルシフトのかけ算が数十倍のビジネス価値を生む

ビジネスのデジタルシフトは、社内だけでなく企業間の関係にも大きな変化を生み出します。パートナー企業と連携し、共に新たな価値を生み出していくサイクルもまた、これまでとは比較にならないほどスピードアップしていくからです。

デジタルはコピーや変更・改良が簡単に行えるという話をしましたが、これは同時に「転用が容易である」ということを意味します。つまり、ある企業で成果を上げたやり方を、異なる目的を持つ別の企業や業種に適用し、元々の取り組みとは違った改善を加えて、成果を上げていくことも可能になるのです。

しかもデジタルの世界では、この効果が「足し算」ではなく「かけ算」となって現れます。効率的な改善サイクルを、パートナー企業同士が異なる視点でまわすことにより、その効果はイノベーションと呼ぶべきインパクトをもたらします。

最近ではオープン・イノベーションという言葉も広く用いられていますが、これからの企業経営においては、自らの得意領域を徹底的にデジタルで鍛え上げ、その成果をまた別の視点で改善できる組織や企業と組んで、さらに磨き上げていく取り組みが求められます。

ー 経営のデジタルシフトの具体的なステップとは

それでは、企業は経営のデジタルシフトをどのように進めていけばよいのでしょうか。

まず一番基本的なステップは、自社の業務情報のデジタル化、データ化を進めていくことです。いくら外の世界がデジタルになり、IoTが広がっていったとしても、その情報を会議資料にまとめるのに一週間掛かるといった状態では、その意味やインパクトが半減します。まずは社内の経営や仕事のやり方をデジタル化し、データに基づいた意思決定や業務遂行が行えるようにすることが重要です。

次のステップでは、それぞれの職務や役割に応じて、蓄積されるデータを自在に分析・活用できるような環境が必要になります。BI(ビジネス・インテリジェンス)やCRM(カスタマーリレーション・マネジメント)などの分野に既に取り組んでいる企業も多いと思いますが、収集したビッグデータを自らの捉えたい側面に合わせて切り取り、分析して俯瞰することが必要になるわけです。この際、仮説や先入観を排した恣意性の全くない状態で、新たな気付きを見出したいという場合には、AIの活用も有効なアプローチとなります。

さらにこうして得た知見を、ビジネスのオペレーションの現場に生かすステップでも、デジタルは大きな威力を発揮します。現場で必要な作業情報をスマートフォンやタブレットで表示したり、作業全体の進捗状況などをデジタルサイネージに表示したり、現場にさまざまなデータを提供して全体最適につながる創意工夫を促したりと、さまざまなパターンが考えられます。現場で発生した新たな課題や情報も、デジタル情報となって上流の業務プロセスにフィードバックされていきますから、改善のサイクルは今までよりも格段に速くなるでしょう。このようなデジタルシフトを進めておくことで、先ほど触れたような他企業やグループ内でのデジタルなコラボレーションが初めて現実のものとなります。

ただ、こうしたステップを具現化していくには、さまざまな技術や組織体制の構築、業務プロセスの変革が求められます。そこで日立では、長年にわたって、デジタルシフトをめざす企業や組織を強力にサポートできるさまざまな取り組みを進めてきました。こうした取り組みがデジタルシフトを加速し、さまざまなアイデアを具体化させることで、世の中や社会をより良い方向へと向かわせる社会イノベーションにつながると確信しているのです。

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