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世界中でIoTを駆使した新たな産業革命が始まろうとしています。Industrie4.0で工場のスマート化を推進するドイツをはじめ、アメリカや中国、インドでもこの動きが加速しています。この新たな潮流を日本の製造業のチャンスとするために――。日立は新しい挑戦を始めています。

日本の製造業に押し寄せる産業革命の潮流

— このままでは日本の製造業は競争力を喪失しかねない

IoTを活用した産業革命が世界中で萌芽し、この潮流が日本の製造業にもこれまでにない影響をもたらしつつあります。経済産業省が公表した「2015年版ものづくり白書」においても、「このままでは日本の製造業は競争力を喪失しかねない」と指摘。国内における「モノづくりの再構築」とIoTを利用した「ビジネスモデルの変革」という大きく2つの領域において、思い切った方向転換が求められると強調しています。

なぜ、ここまで強い危機感が生まれているのでしょうか。それは従来のモノづくりの延長では、通用しにくくなってきているからです。

例えばその1つが品質です。これまで日本の製造業はカイゼンを積み重ね、精度を極限まで高めることにより、高い優位性を保ってきました。「使ってくれればうちの製品の良さはわかるはず」。こうした職人気質な考えは、多くの製造業に根づいているはずです。

しかしIoTを核とした新しい産業革命が進展すれば、この状況は一変します。すべての製造プロセスがデジタル化され、トレーサビリティが確立された世界では、「使ってから」ではなく「使う前から」品質を保証する必要も出てくるからです。「規定された管理体制」のもと「この部品」を使い、「こうした製造プロセス」でつくられた装置だから安心ですというデータを納品時点で求められるかもしれません。

あるいは製造業のサービス化が進めば、品質に求められる基準が変わってくる可能性もあります。例えば、日本製品が選ばれる大きな理由の1つは「壊れないこと」。しかし、センサーをつけて「壊れる前に直すこと」がサービスとして提供されていく世界では、製品自体の品質は、これまでほどの価値を持たなくなり、サービスを含むトータルの品質こそが重要になってくるわけです。

品質だけではありません。製品の多様性やカスタマイズ性、開発サイクルの短期化、市場需要や顧客要件にすばやく対応できる開発・生産体制などが求められつつあります。

— 日本の強みをチャンスに変える方法とは

そうした危機感が高まる一方で、他国にはマネのできない日本ならではの強みを生かした未来への展望も見えてきます。例えば「おもてなしの心」です。

日本の製造業は従来から、かゆいところに手が届くものを作ることで世界から賞賛を浴びてきました。「いつでもお客さまに喜んでもらえるものを作りたい」という職人気質やプライドの現れがそこにあります。また、独自設計の部品を微妙に相互調整しながら製造していく擦り合わせ、個々のユーザーの用途に合わせたカスタマイズや作り込みについても、日本の製造業の特徴となっています。

常にお客さまの起点で考えるおもてなしの心。この強みを生かした、日本ならではの「モノづくりの再構築」や「ビジネスモデルの変革」を果たすことができれば、未来を切り拓く大きなチャンスがあると考えています。

「モノづくりの再構築」を具現化する

— すでにはじまっている「自律的に考える工場」

こうした考えのもと、日立では世界で進展する新たな潮流を先取りするため、「モノづくりの再構築」と「ビジネスモデルの変革」の両面から新たな取り組みを始めています。

まず「モノづくりの再構築」を具現化したのがスマートファクトリーです。

IT関連製品の製造拠点となっている神奈川事業所では既に取り組みが始まっています。 具体的には、まずサーバやストレージなどの多種多様な部品ひとつひとつにRFIDが貼付され、コンピュータ制御により自動的に自動倉庫に格納されます。次に、生産ラインの稼働状況に連動した無人搬送車が、自動倉庫から必要な部品を必要なだけ取り出し、組立工程へと運びます。このように部品供給の自動化を図ることでヒューマンエラーを低減するととともに、生産性向上を実現しています。また明確な入出庫情報が得られるため、在庫管理が精緻化され、在庫の状況に応じた部品の自動発注が可能となります。

一方生産ラインでは、双腕ロボットなど自動で組立を行うロボットを活用しています。このロボットは作業内容に基づき、アーム先端のパーツを自動で切り替えられるようにプログラミングできます。このことにより、高い品質を維持しながら組立工程の一部を自動化・省力化し、多品種少量生産のニーズに対応しています。

在庫の管理を含めたERP、MES、部品の発注システムといった工場内の仕組みはすでにシームレスにつながっていますが、さらに将来的には工場外のシステムもつなげていく予定です。具体的には、配送状況などの「物流情報」や、販売状況などの「営業関連情報」、顧客納品後の「保守情報」などが挙げられます。これらを工場内の仕組みと連携させ、ビッグデータ分析することで顧客ニーズに即応したきめ細やかな需要予測を実現していく予定です。

需要予測は工場側にフィードバックされ生産計画の変更に反映。その変更内容は自動的に必要な部品の情報としてサプライヤーに共有されます。

このように工場内外の情報を活用しながら全体最適を図ることができれば、仕込在庫品や部品発注のキャンセルといった生産のムダを排除でき、顧客ニーズにあったものをタイムリーに提供できるようになります。サプライチェーンの上で、さまざまなモノやコトが連動して最適化されていく。そうしたことから、スマートファクトリーは、「自律的に考える工場」とも呼ばれています。

また、サプライチェーン全体からさまざまなデータを集めてデータベース化し、ノウハウや技術、顧客ニーズなどの情報をかけあわせれば、サービスの向上や新規サービスの創出に生かすことも可能です。

もちろんスマートファクトリーの実現は国内だけにととまりません。今後、日本の工場を「マザー工場」としてこのような構想のコアと位置づけ強化していきながら海外の生産拠点とも連携させ、グローバルにサプライチェーン全体を最適化していく予定です。

このようなスマートファクトリーの実現に向けて、既に日立は、設計開発からサプライチェーン、生産実行管理、更には収集した実績データを解析し経営意思決定に繋げるトータルSCM業務を支援するクラウドサービスを提供開始しています。

— 匠の技の継承が可能に

日立が推進するこの取り組みは、各企業が持つ匠の技や業務ノウハウといった強みを、デジタル化されたコンテンツとして広く継承できることが大きな特徴となっています。これまでも製造業の悩みの1つに、「技術や社内の業務ノウハウの伝承や教育が難しい」という課題がありました。

そこで日立では匠の技を伝える手段の1つとして、AR(拡張現実)技術を活用したハンズフリー型の作業支援システムを活用しています。これは現場作業員がカメラ付ヘッドマウントディスプレイを装着して機器や設備に貼付したマーカーをカメラで読み込むと、AR技術による作業ナビゲーションがヘッドマウントディスプレイ上に表示されるというもの。目線を変えずに必要な情報を確認でき、両手を使って安全に作業が行えます。カメラを通して作業者が見ている画像をリアルタイムで送信できる上、4箇所同時に同一画像を閲覧できるため、これまでなら専門家や熟練技術者を現場に派遣せざるを得なかった特殊な作業や問題が発生した時でも、その場で本社や専門家の指示を仰ぎながら対策を行うことが可能です。

技術のスキル継承も含め、スマートファクトリーのグローバル展開に欠かせないツールになると考えています。

日立は、このAR技術を擁するクラウド型機器保守・設備管理サービス「Doctor Cloud」や、IoTを活用したアフターサービス強化ソリューション「Global e-Service on TWX-21」を始めとした、深い業務知識に基づくさまざまな保守業務改革支援サービスの提供を始めています。

「ビジネスモデルの変革」はなぜ必要なのか

— お客さまは製品だけを求めているわけではない。付加価値を求めている

一方、製造業がサービス業へとシフトする「ビジネスモデルの変革」を支援するための取り組みも始めています。その1つが「Global e-service on TWX-21/故障予兆診断サービス」です。

このサービスは既に、国内外の医療機関にCTやMRIなどの画像診断装置を提供している株式会社 日立メディコが、自社のリモートメンテナンスサービス「Sentinelカスタマーサポート」に組み込んで活用しています。

具体的な仕組みとしては、リモートメンテナンスの既存ネットワークを活用し、医療施設などにあるMRI装置の稼働状態をIoTでリアルタイムに監視。世界中の装置から集積されたビッグデータの分析情報をもとに、装置の「正常・警戒・異常」の状態を自動的に診断します。

従来の稼働監視の多くは、個々のセンサーの“しきい値”で判断していたため、誤報がたびたび起こったり、その逆に警報が発報していないのに故障が発生したりなど、保守作業の効率やコストに課題がありました。しかし、温度、圧力など数百にもおよぶセンサーから収集したビッグデータを総合的に分析することにより、今まで感覚的にしか分からなかった装置ごとの正常状態の違いも見えるようになってきました。新サービスでは、一台一台の装置ごとにその装置の正常状態とのズレの度合いを判断。予測精度の向上と誤報発生率の低減、さらには機器の稼働率アップに成功しました。例えばフルメンテナンス契約しているお客さまの超電導MRI装置のダウンタイムを16.3%削減しています。つまりMRIという医療に不可欠な機器を安心して使える仕組みを提供することで、顧客満足度の向上と製品の高付加価値化を実現しているわけです。

お客さまは製品を購入するだけで満足することはほとんどありません。むしろその製品からうみだされるコト(付加価値)を求めています。この例で言えば、「稼働率が上がる」すなわちそれがコト(付加価値)であり、それこそがお客さまが真に欲していたことなのです。

さらに重要なのは、お客さまが求めるものが多様化している上、時々刻々と変化していくこと。その要求に柔軟に対応していくためにはモノを売るのではなく、サービスという形態を取るのが必然となってきているのです。製造業がサービス業となっていく。そんな時代が着々と近づいてきています。

このサービス化にIoTは重要な役割を果たします。これまでお客さまの元にモノが届いた後は、製造元にはヒト(お客さまや販売店)というフィルタを通した少ないモノの情報しか入ってきませんでした。よく壊れるけど我慢して使っているのか、それとも全然壊れていないのか、本当のところが伝わってくるかどうかはヒト次第だったのです。しかしIoTを活用すれば、ヒトを介さずともモノ(製品)から直接情報が取れるため、そのデータに基づいてお客さまのニーズを汲み取ることができるようになります。お客さまの本心に寄り添うことができるのです。

— 今こそ変革の時。日立と一緒に新しいモノづくりの未来へ。

IoTを駆使したモノづくり革命が本格化する中で、日本でもようやく企業間の垣根を越えたIoT標準化の動きが始まろうとしています。その1つが2015年6月に設立されたコンソーシアム「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」です。日立を含む国内約40社の製造業が参画するIVIでは、IoTを適用したスマートファクトリーにおいて、日本の強みを生かせる独自のリファレンスモデルを構築することを目標としています。製造業やモノづくりの現場が連携し、問題意識を共有し合う場として今後も積極的に活動を展開していく予定です。

世界中で動き出した新たな潮流を、静観するかそれとも変革のチャンスととらえるか――。これにより、5年後、10年後の未来は大きく変わってきます。ポジティブな発想と実践の積み重ねこそがモノづくりのパラダイムを変え、イノベーションを巻き起こしていくのです。

グローバルで製造業のパラダイムシフトが進む中、今こそ変革の時です。日本の製造業が持つ独自のおもてなしの心を武器に、日立と一緒に未来の扉を開く変革を成し遂げていきましょう。

CT:Computed Tomography/コンピュータ断層撮影法
MRI:Magnetic Resonance Imaging/磁気共鳴画像
MES:Manufacturing Execution System/製造実行システム
ERP:Enterprise Resource Planning/統合基幹業務システム
SCM:Supply Chain Management
AR:Augmented Reality/拡張現実

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