オープン・イノベーションには組織を超えた結びつきが欠かせないが、糸口をいかにしてつかめばいいのか。その端緒を開き、仲介役として、ときには語り部としての役割を果たすのがコンサルティングファームである。日立の協創の一翼を担う日立コンサルティングの八尋俊英代表取締役 取締役社長に、複数の組織でのイノベーションの経験を踏まえて、オープン・イノベーションに必要な組織および個人のあり方と手法、協創の事例、そして今後の課題と展望について聞く。

画像: 八尋俊英 氏 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長

八尋俊英 氏
日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長

「オープンイノベーション」協創の手法 第1回 >


企業をつなぎ、将来を見据えるコンサルティングファームの役割

第1回では、八尋社長のご経験を踏まえて、オープン・イノベーションにおける組織の柔軟さの必要性、そのための手法、またビジョナリーであることの重要性についてお聞きしました。今回は、オープン・イノベーションにおけるコンサルティングファームの役割と具体的な事例についてお聞きします。

画像: 企業をつなぎ、将来を見据えるコンサルティングファームの役割

八尋
コンサルティングファームの一つの役割はつなぐこと、すなわち、需要と需要をつないで新たな価値を見出すことにあります。つねに新たなものの見方や価値を追求し続けなければならないという意味では厳しい世界ですが、一方で、製品在庫を抱えるといったリスクは少ないため、身軽に動ける立場にあります。実験的で革新的な試みができるのも、コンサルティングファームの強みと言えます。

そういう意味では十数年くらい前までは、単に目先の研究開発をするのではなく、新しい需要を探ったり未来の市場を予測したりするような、コンサルやシンクタンクも兼ね備えたような革新的な部署を抱える企業が多く存在しました。すぐに事業には結びつかなかったとしても、未来の事業の萌芽となるような研究に取り組んでいたものです。ところが、この失われた十数年の中で、そうした部署はことごとく廃止に追い込まれてしまいました。

一方で現在、勢いのあるIT企業などでは、その必要性から未来を見据えて研究開発を行う部署や子会社などを設立し始めています。やはり、すぐに事業化には結びつかなかったとしても、そうした中長期的視点を持つ部署や研究所の存在は大きな強みになるのです。業界の垣根が急速に薄れ、再編成される今日ではますます重要なファンクションになるのでしょう。

もっとも現在のように市場がめまぐるしく変わるような時代では、自社にその機能を持たせるのはなかなか難しい側面もあります。だからこそ、我々のようなコンサルティングファームが必要とされている、ということだと思います。

M&Aがイノベーションを加速する

画像: M&Aがイノベーションを加速する

八尋
一方で、企業と企業をつなぐという意味では、最近はベンチャーキャピタルの役割が非常に大きくなっています。日本では、ベンチャーキャピタルというと投資をするだけというイメージが強いかもしれませんが、海外ではベンチャーキャピタルの人間が実務に入り込んで、投資相手とコラボレーションしながらベンチャー創設に関わるケースが多くあります。しかも、ベンチャーキャピタルの目的は、かならずしもIPO(Initial Public Offering:株式公開)による利益の取得だけではなく、大企業からのM&Aも視野に入れたさまざまな出口を見込んで動いている。買収する側の大企業にしてみれば、コア技術はさておき、周辺技術であれば、よりよいものを世界中から探して買ったほうが、自社で開発するよりも研究開発も事業化もスピードアップを図れます。両者にとってメリットがある、ということです。

前回もお話ししたように、実際に、グーグル(Google)やセールスフォース・ドットコム(Salesforce.com)などでは、社長直下のM&Aチームが世界中を回っては新技術を探しています。ロボティックスや金融の新サービスであるフィンテック分野でそうした動きが加速していて、新技術の入手にさまざまなグローバル企業が乗り出しています。ベンチャーの若い技術者や大学などの若手研究者にしても、売却によって得た利益で新たな開発を始めたり、グローバル企業へ技術を携えてそのまま就職したりと、さまざまなキャリアパスが開かれているのです。

そういえば、昨年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の中に登場するくるぐるぐる回るドロイド「BB-8」は、スフィーロ(Sphero)という米国のベンチャーが開発を手がけたロボットなんですね。これは、スター・ウォーズを配給するディズニーが、優れた技術やアイデアを持つベンチャー企業を発掘して事業を応援するプログラム「ディズニー・アクセラレータ」から生まれたものです。しかも、CEOが自らスフィーロに打診して実現したのだという。

なるほど、こういうやり方があるのかと感心してしまいますが、ではどのようにして、それを日本の企業で実現すればいいのか。一番手っ取り早いのは、やはり実際にディズニー・アクセラレータを仕掛けたベンチャー・キャピタリストを引き抜いたり、Spheroのようなベンチャー企業を買収したりすることですよね。もっとも、ここでM&Aばかりが注目されるのは本末転倒です。重要なことは従来の企業にはない視点や発想で動く事業部や人を抱え、既存事業の強みとシナジーを持たせることです。M&Aはわかりやすい例ではありますが、手に入れた事業や技術なりを本来価値以上に成長させる仕掛けが、買収サイドにもないと意味がありません。

その際、前回もお話ししたように、たとえば日立の社会イノベーションが実現すればこんなすばらしい世界が広がりますよといった具合に、ビジョンを明確に語る必要があります。しかも、長期的なスタンスに立って、人々の想像の上をいく、未来のビジョンを提示するセンスが必要でしょう。たとえば、人類の平均寿命が伸びる中、昨年、Googleの投資部門が人類は500歳まで生きられるようになると発表して話題になりましたが、「人類500歳計画」などという大胆なキャッチを掲げるセンスが求められているわけです。まぁ、それは半分冗談にしても、メッセージには記憶に残るインパクトが必要だということです。

日立の「協創」の実例と現状

――日立では、オープン・イノベーションとほぼ同義の言葉として、顧客やパートナーの知見を取り込む「協創」(Collaborative Creation)という概念を掲げて、社会イノベーションの実現を目指しています。実際に、日立の協創にはどのような実例があるのでしょうか?

八尋
我々が関わったプロジェクトで、協創の一つのかたちと言えるものとしては、たとえばテレビ朝日と共同で行ったデータ放送を活用した「総合生活支援サービス」の実証実験があります。これは、2014年と2015年の2回に分けて、独立行政法人都市再生機構(UR)の神奈川地域支社の協力を受けて、ある団地の高齢者世帯50世帯を対象に実施したもので、データ放送を活用して地域情報の提供や見守り支援を行うというプロジェクトでした。一定期間サービスを利用していない利用者に対して、電話などでコンタクトを取ることで「見守り」を可能にするのです。

この事業自体は、実証実験だけで終了しましたが、その際の当社の担当者は地方公務員の経験者であり、URへの働きかけを積極的に行いました。というのも、社会イノベーションの実現には、まずは公の機関を動かす必要があるだろうという思いが強くあったためです。確かに、官を巻き込み、制度から変えていくきっかけをつくることは変革の動きを早めることにつながります。

もう一つ、数年前から日立では、乃村工藝社の空間デザインに日立のビッグデータ利活用のノウハウを組み合わせたプロジェクトを進めているのですが、これもオープン・イノベーションの一つです。その一環として、東京都港湾局が実施した東京都臨海副都心おもてなし促進事業の公募に乃村工藝社が事業者を支援して応募する際にも、事業企画策定を一緒にやらせていただきました。その際、我々のオフィスに乃村工藝社のスタッフの方も自由に出入りできるようにして、日常的にディスカッションを重ねたという経緯があります。いつもとは違う雰囲気の中で密に議論を重ねたことにより、よりよい協創ができたように思います。

そのほかにも現在、全国に物流の拠点を持つある企業の地域ネットワークを、サービスの基盤として活用することで、地方創生に結びつけられないか、構想を進めているところです。これは、地域を巻き込んだ大規模な動きなので、関わるステークホルダーが多く、時間をかけて取り組んでいかなければならない案件です。

たとえば、地域に足りない託児所としてその拠点を活用しようとするなら、実現に向けて、行政をはじめ、関係各所との連携が不可欠になります。さらには、規制緩和や経済特区の設置など、規制当局にも働きかけなければなりません。これこそが、本来コンサルティングがやるべき仕事であり、今後ますますこういった仕事が増えていくことになるでしょう。だからこそ、コンサルティングファームではキャリアの複線化、特に官やNGO、NPOとの人材交流が必要なんですね。

それから、プラットフォームの提供というのも、協創の一つのかたちと言えます。現在、日立では、長年にわたり日立建機が機器の情報を収集・蓄積して、機器のライフサイクル管理に役立ててきた「Global e-Service」のシステムをプラットフォームとして標準化し、他業種に展開するSaaS型※1のクラウドサービス「Global e-Service TWX21」を展開しています。

ただこの際、「我々のプラットフォームをご自由に使ってください」と言っても、誰も乗ってきてはくれません。そこで我々もプロジェクトに参加し、ある企業に、単に製品をバラバラに売るのではなく、売った後まで機器の状態を把握することにより、メンテナンスまで含めた一つのサービスとして提供できることを提示して、初めて協創へつながったという事例があります。やはりここでも、ビジョナリーであること、将来像を示してメッセージを強く打ち出していくことが、重要なカギを握っていたということです。

※1 SasS(Software as a Service)
ソフトウェアを通信ネットワークを通じて提供し、利用者が必要な機能を必要な分だけ呼び出して使う利用形態。

リーダーがいないことが協創の利点であり課題

――いくつか協創の事例を示していただきましたが、協創を進める中での課題や展望をお聞かせください。

八尋
現状は試行錯誤の段階と言えます。むしろ今は、他社との協創を実践する中で、さまざまな課題が見えつつある。特に難しいのが、協創には明確なリーダーがいない、という点です。そこが協創の利点であり、課題でもある。誰かが主導するのであれば、オープン・イノベーションではなく、従来型のビジネスの手法で進めればいいわけですからね。複数のステークホルダーが関わり、明確なリーダーがいない中で合意形成をして、プロジェクトを進めていくには、どうしてもリードタイムがかかります。

しかし、社会イノベーションのように社会課題を解決しようとなると、さまざまなステークホルダーが関わるのは当然であり、いやが応にもオープンにならざるを得ません。たとえば、急激な産業の発展に伴う中国の環境問題なども、地球規模で被害が拡大しているだけに、海外企業も含めて皆で協力し合いながらグローバルに解決していかなければならないでしょう。

そうした中、協創における日立のビジネスの核となるのはやはりITです。実際に、IoTを導入して、経営の可視化をしたらどうビジネスが変わるのか見てみたい、というお客様はたくさんいらっしゃいます。しかしどこから手をつけたらいいのかわからない、まずはお試し版でやってみたい、というお客様も多いのが現状です。そこで日立コンサルティングでは現在、日立システムズのクラウドサービスと組み合わせた簡便なパックサービスを用意して、経営を可視化するとPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルがどのように回り始めるかを実感していただくような、コンサルティングビジネスを始めたところです。

人流解析や物流解析、ハピネスセンサ※2など、IoTやシミュレーションのITツールを活用しながら、新たな価値をお客様やパートナーとともに創造していく。まさにそれこそが日立の協創のかたちであり、その影の立役者として企業や組織をつなぎ、未来を描いていくお手伝いをすることが我々日立コンサルティングの役割だと思っています。

※2 ハピネスセンサ
集団の幸福感を身体運動の特徴パターンから読み取り、組織活性度を計測できる日立が開発したウェアラブルセンサー。

画像: リーダーがいないことが協創の利点であり課題

(取材・文=田井中麻都佳 写真=© Aterui 2015)


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