高校時代に記録したワースト偏差値は「28」。教師には進学はおろか進級すら危ういと言われた。しかし、有名予備校のビデオ授業との出会いが、人生を変える。学ぶことの面白さを知り、志望大学にも無事入学。さらにインターンで訪れたバングラデシュでは、ビデオ授業によって“バングラデシュの東大”への合格者輩出も成し遂げた。「最高の授業を届けることができれば、この子たちも変われる。前に進める」。税所篤快氏は、世界中の教育環境に改革をもたらそうとしている。


税所篤快 -Atsuyoshi Saisho-

1989年生まれ。19歳の時に単身バングラデシュへ渡り、貧困対策で名高いグラミン銀行のインターンとして活動。同国の教育問題を解決すべく、一流予備校講師の授業をDVDに収録して届けるe-Educationプロジェクトをスタート。貧しい農村から難関大学入学者を次々に輩出する快挙を成し遂げた。現在は同志とともに世界中で活動を展開するためのチャレンジをしている。著書に『「最高の授業」を世界の果てまで届けよう』(飛鳥新社)などがある。

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調査を通じて得た3つの大きな収穫

「村の子供たちに最高の映像授業を届ける」ことを決めた税所氏。そのためにはまず、最高の授業を行う先生を探さなければならない。

さっそく、“バングラデシュの東大”ダッカ大学の校門前で学生への聞き込み調査を始めた税所氏は、3つの大きな収穫を得る。

1つは、ダッカ大学生100人のうち、実に93人が予備校に通っていたという事実だ。バングラデシュの一般的な村民の平均年収は5000円。その10倍にあたる5万円という費用を払って予備校に通わなければ、大学進学は難しいというバングラデシュの“教育の構図”が見えてきたのだ。

2つめは、そうした予備校の中で、特に学生に人気の高い講師は誰かを知ることができたこと。そして3つめが、ダッカ大の学生であるマヒーンという青年が、税所氏に協力してくれることになったことだ。

「マヒーンは、僕のつたない英語を真剣に聞いてくれ、すぐに協力を買って出てくれました。彼は、日本人である僕に現地のリアルな事情を教えてくれる、貴重なパートナー。マヒーンがいなかったら、プロジェクトは成功していなかったはずです」(税所氏)

トラブルを乗り越え手にした「奇跡」

マヒーンとともに臨んだ予備校講師との交渉もうまく進み、無事、授業をDVDに収めることはできた。あとは村での映像授業を始めるだけ――そう思った税所氏だが、まだまだ乗り越えなければならない、様々な試練が待っていたという。

「映像授業を行おうと村を訪れると、そもそも、DVDを再生できるプレーヤーやPCが村にはありませんでした。そこで、日本で寄付を呼びかけ、中古のPCで授業を開始すると、今度はたび重なる停電で授業が停滞。それならばと、ディーゼル発電機を導入したのですが、音がうるさくて授業にならなくなってしまい……。最終的には充電池を導入することで問題は解決したのですが、こうした課題を1つ1つ乗り越えていかなければ、授業を続けることさえできない状況だったんです」(税所氏)

そして、授業開始から約6カ月。税所氏と、30人の生徒たちは、ついに合格発表の日を迎える。

「映像授業が、果たしてバングラデシュの村の子供たちにも効果があるのか、正直、不安もありました。でも、フタをあけてみれば、最難関大学であるダッカ大学への合格者が生まれるという、僕自身も驚くような結果が待っていたんです。そのほかにも、難関として知られる有名大学への合格者も3名いました。最終的には、授業を受けた30人の生徒の半数以上にあたる18人が、大学合格を果たすことができたのです」(税所氏)

この功績は地元の新聞でも大きく紹介され、「奇跡」とも称えられた。だが、税所氏はこれで満足したわけではなかった。「このプロジェクトは、世界の他の地域にも適用できる。そういう気持ちが湧いてきたんです」。こうして、e-Educationプロジェクトはバングラデシュ以外の地にも活動の場を広げることになる。

「仲間を1人にしない」ITの活用法


いま、e-Educationには税所氏に共感した同志が集まり、様々な地域に活動の場を広げている。バングラデシュに続き、ヨルダン、ルワンダ、パレスチナ、ハンガリー、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ベトナムの全9カ国で活動を実施。今後はカンボジア、トンガにも活動地域を拡大予定という。

画像: 「フィリピン(マニラ)プロジェクト」(リーダー:磯部香里氏)での映像授業の教室風景。多くの子供たちに“最高の授業”を届けることができた

「フィリピン(マニラ)プロジェクト」(リーダー:磯部香里氏)での映像授業の教室風景。多くの子供たちに“最高の授業”を届けることができた


治安が万全な国ばかりではない。そのため、メンバーの状況を常に確実に把握することは重要な課題となる。そこで役立っているのが、インターネットを使ったオンラインコミュニケーションである。

画像: 「仲間を1人にしない」ITの活用法

「週に1度メールで届くレポートと、定期的に行う電話会議で各地の状況を確認し、皆で課題を共有していく。トラブルを未然に防ぎ、成功の可能性を高めるために、ITは欠かせない道具になっています。だからメンバーには『とにかく通信できる場所を確保するように』と言っています。それに、ネットでつながることができれば、くじけそうになった時も仲間に励ましてもらえるし、励ましてもあげられる。僕らにとってITは“仲間を1人にしない道具”でもあるんです」と税所氏は言う。

今後は、これまで撮りためてきた授業の映像を1つのポータルサイトにまとめ、オンライン配信することも考えているという。「通信環境が万全ではない地域ではDVDが効果的でしたが、より多くの人に授業を活用してもらうためにも、こうしたIT化は積極的に進めたいですね」(税所氏)。さらにITの活用という点では、Webメディアを使った情報発信にも取り組んでおり、各地域の魅力や活動状況をデイリーで更新・紹介するブログマガジン「トジョウエンジン」(編集長:佐藤慶一氏)も運営。より多くの人に活動を理解してもらううえで、重要な役割を担っているという。

前へ!前へ!最高の授業を世界に届け続ける

そして、ITのほかにもう1つ、税所氏が欠かせないと考えるもの。それが協力者や同志、仲間の存在だ。

「僕はこれまで、たくさんの人たちに支えられてきました。端緒となったバングラデシュでの成功も、マヒーンという協力者の存在があったからこそ。だから、メンバーを海外に送り出す時には『マヒーンを探せ!』と言っています。現地の事情を熟知した協力者は絶対に必要ですし、プロジェクトがうまく回り始めた後、運営を託せる人材を確保するためにも、これはとても大切なことです」と税所氏は言う。

さらに税所氏には、日本国内にも力強い仲間がいる。それが2013年までJICAで高等教育案件を担当していた三輪開人氏だ。三輪氏は今、e-Educationの共同代表を務めている。「僕は常に前へ! 前へ! と突進するタイプ。常に冷静に状況を把握し、スタッフのケアにもあたってくれる三輪君には、本当に感謝しています」(税所氏)。

画像: e-Educationメンバーの集合写真。前列左から2人目がマヒーン氏、左から4人目が三輪開人氏

e-Educationメンバーの集合写真。前列左から2人目がマヒーン氏、左から4人目が三輪開人氏


こうした仲間に助けられながら、税所氏はこれからも、前へ! 前へ! と進み続ける。

「協力者、同志をさらに増やしながら、教育変革の輪をどこまで広げられるか――。20代の間はe-Educationに僕のすべてをかけ、走り続けるつもりです」(税所氏)


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