対談:
星野佳路(星野リゾート 代表) × 矢野和男(日立製作所 研究開発グループ 技師長)

社員が生き生きと働き、活気に満ちあふれた職場。そんな組織をつくるために、必要なこととは何か。多くの経営者が頭を悩ませるこの難題に、経営と科学という異なるアプローチで挑む、星野リゾート・星野佳路氏と株式会社日立製作所・矢野和男。第2回では科学の側からのアプローチとして、矢野が研究を進める「ハピネス」の定量化について、自ら星野氏にプレゼンテーションを行った。

「第1回:仕事を楽しくする組織の形」はこちら >

星野 佳路(ほしのよしはる)
星野リゾート 代表
1960年、長野県軽井沢町生まれ。1983年、慶應義塾大学経済学部卒業。米国コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1991年、星野温泉(現在の星野リゾート)社長に就任。所有と運営を一体とする日本の観光産業でいち早く運営特化戦略をとり、運営サービスを提供するビジネスモデルへ転換。
2001〜2004年にかけて、山梨県のリゾナーレ、福島県のアルツ磐梯、北海道のトマムとリゾートの再建に取り組む一方、星野温泉旅館を改築し、2005年「星のや軽井沢」を開業。
現在、運営拠点は、ラグジュアリーラインの「星のや」、小規模高級温泉旅館の「界」、西洋型リゾートの「リゾナーレ」の3ブランドを中心に国内外35カ所に及ぶ。2013年には、日本で初めて観光に特化した不動産投資信託(リート)を立ち上げ、星野リゾート・リートとして東京証券取引所に上場させた。
2015年10月に「星のや富士」を開業。創業102周年を迎えた2016年、「星のや東京」、「星のやバリ」の開業を予定。

矢野 和男(やのかずお)
株式会社日立製作所 研究開発グループ 技師長
1959年、山形県酒田市生まれ。1984年、早稲田大学大学院理工学研究科物理学専攻修士課程を修了し、日立製作所に入社。同社の中央研究所にて半導体研究に携わり、1993年、単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功する。同年、博士号(工学)を取得。2004年から、世界に先駆けてウェアラブル技術とビッグデータ収集・活用の研究に着手。2014年、自著「データの見えざる手 ウェアラブルセンサが明かす人間・組織・社会」が、BookVinegar社の2014年ビジネス書ベスト10に選ばれる。論文被引用件数は2500件にのぼり、特許出願は350件。東京工業大学大学院連携教授。

人の動きから見えてくるもの

矢野
わたしがやっている「ハピネス」の研究について紹介させてください。もともと20年くらい半導体の研究をしていたんですが、日立がその分野から撤退することになって、何か新しいことを始めなきゃいけないことになったんです。そこで2004年から、今で言うビッグデータを使って人間の幸福度「ハピネス」を測るっていう研究を始めたんです。

画像: 日立製作所 矢野和男

日立製作所 矢野和男

実は学生時代から、幸せって何だろう? どうやったら本当に幸せになれるんだろう? っていうことにすごく興味があったんですよ。それで、身体運動を計測する加速度センサの開発を進め、2006年にそれを搭載したリストバンド型のウェアラブルセンサをつくりました。以来24時間365日、入浴中以外はずっと着けて、自分自身の体の動きを測っているんです。

画像: 矢野氏が開発したウェアラブルセンサ「ライフ顕微鏡」

矢野氏が開発したウェアラブルセンサ「ライフ顕微鏡」

星野
ということは10年? すごいですね。

矢野
ええ。まだまだ、開発途上ですけど。

画像: 身体運動の計測結果(矢野氏の過去7年分)

身体運動の計測結果(矢野氏の過去7年分)

矢野
これは、ウェアラブルセンサで計測した、わたし自身の動きの活発さを色で示した図です。例えば2009年。赤いところが活発に動いている時間帯で、青いところが止まっている時間帯。つまり、睡眠ですね。よく見ると、いつもと違う時間帯が青くなっている日も。

星野
ああ、海外に行っている時か。そういうこともわかるんですね。

画像: 身体運動の計測結果(4人分)

身体運動の計測結果(4人分)

矢野
これは4人の方にウェアラブルセンサを着けて計測した結果なんですけど、生活のリズムの差がはっきり出ています。いつも早起きだったり、逆に不規則だったり。週末に寝だめをしていたり。取っているデータ自体は、人の動きっていう非常に小さな情報なんですけど、集めてみると、こういった人それぞれのパターンが見えてくるんですよ。

星野
なるほど。面白いですね。

ハッピーな組織に必要なこと、必要な人

矢野
それで本題に戻るんですが、こういったデータを使って、もしかしたらハピネスっていうのも測れるんじゃないかと考えたんです。そこで、大量のデータをいろいろな職場で取ってみたんです。

画像: ハピネスのアンケート調査結果と、ウェアラブルセンサで計測した「動きの多様性」を数値化したものの相関図。7社10組織、468人を対象に調査が行われ、5000人日分、50億点のデータが計測された。

ハピネスのアンケート調査結果と、ウェアラブルセンサで計測した「動きの多様性」を数値化したものの相関図。7社10組織、468人を対象に調査が行われ、5000人日分、50億点のデータが計測された。

矢野
これは、10の組織に属している468人に、過去の1週間におけるハピネスについて質問して点数化したアンケート調査の結果です。縦軸は各組織の平均点。「幸せだったか」「楽しかったか」「孤独だったか」「悲しかったか」などの20項目について質問し、各項目とも4段階で回答してもらいました。一番ハッピーだった人は、20問全部3点なので60点満点になります。これを見ると、どの組織がどのくらい幸せだと感じているかがわかります。

実はこれ、体の動きのあるパターンをウェアラブルセンサで計測すると、ピタリと予測できるんです。人の体の動きには、長いものと短いものがあります。例えば、1分動いたらすぐ止まるものもあるし、20分ほど続く動きもある。平均的には10分くらいの動きが多いんです。それでわかってきたのは、先ほどの縦軸で言う「ハッピーな組織」ほど、動きの長短にものすごく多様性がある。つまり、1分程度の動きが多い人もいれば、20分程度の動きが多い人もいる、ということがわかったんです。

星野
つまり、みんなが同じパターンではないほうが、組織が活性化するんですね。

矢野
そうなんです。さらに、このアンケート調査とウェアラブルセンサによる計測結果がどのくらい相関しあっているのかを調べてみると、94%というものすごく高い値が出ました。つまり、「動きに多様性がある組織は、必ず幸せだと感じている」ってことが言えるんです。

こうやって計測を進めていくと、法則性が見えてくるんですよ。例えば、職場の一例としてコールセンターをモデルに説明します。「ハピネス」って言うと安楽っていうイメージを持たれることが多いんですが、実はハッピーな組織ほど生産性が高いということが見えてきたんです。コールセンターで働く方にも、日によって動きの多様性が高い日と低い日がありますが、高い日は受注率が34%も上がったんです。

星野
そんなはっきりした違いが出るんですね。すごいな。

矢野
昨年、プロ野球で福岡ソフトバンクホークスが日本一になりましたよね。その時の工藤監督のインタビューで、「ベンチの雰囲気づくりがよかった」というコメントがありました。川島慶三選手や福田秀平選手といった控えの選手が、特にピンチの時に声を出してくれて、とてもいい雰囲気をつくってくれた、と。

一見、控えの選手をねぎらったように聞こえますけど、データサイエンスを研究している我々から見ると、おそらく科学的に立証できることだと思うんです。というのは、コールセンターの調査で、体の動きが活発な人が出勤する日ほど組織全体の受注率が高いという結果が出たんです。その人自身は、個人業績は必ずしもよくない。ところが、いいムードづくりをすることで他のスタッフの活性度を上げて、その人たちに高い個人業績を出させているんです。

星野
体の動きっていうのはどんなものですか。例えば、歩いているとか?

画像: 星野リゾート 星野佳路氏(右)

星野リゾート 星野佳路氏(右)

矢野
いや、非常に微妙な動きを計測しています。完全に止まっている状態なのか、止まっていない状態かという判断を加速度センサがしているんです。

星野
つまり、動きの多様性というのは、止まっていない状態が多様化してるってことですね?

矢野
そうです。止まっていない状態が、どれだけ続いているかですね。逆に言うと、停滞している組織はメンバーの動きがみんな10分ぐらいで止まるんです。

画像: 「動きの多様性」の概念図

「動きの多様性」の概念図

星野
なるほど。活動していないわけではなくて、みんな同じ動きのパターンをとるんですね。

組織を劇的に変える人工知能の威力

矢野
オフィスに入ると、ここって活性化してるなとか、雰囲気よくないなとか、感じますよね。ウェアラブルセンサを使った研究によって、それを数値化できるようになった。次に我々は、人工知能がデータから判断できるようになれば、ハピネスの計測の精度をもっと高められるだろうって考えました。ちょっとこのデモ動画をご覧ください。

矢野
人工知能を持ったロボットに、ブランコをさせるという実験です。この人工知能は、ブランコに関する知識をまったく持っていません。だから最初はやみくもに動いてみるしかない。ところが、データを蓄積することでどんどん学習するんです。たまたまあるタイミングでひざを曲げたら、ブランコの振れがちょっと大きくなった、と。そうやって乗り方のコツをつかんでいくんです。

星野
本当だ。すごいですね、めちゃめちゃ揺れてますね。

矢野
もうほとんど人間と同じ乗り方ですよね。事前知識なしでここまでできるんです。そこで今度は、人間のいろいろなハピネスを高めるためにはどんなコミュニケーションが必要なのかを、人工知能に解かせるシステムを開発しました。

具体的にどんなコミュニケーションが導き出されたかというと、先ほどのコールセンターの場合は、スーパーバイザーに対して「今日はこのスタッフに優先して声掛けしなさい」と。また、休み時間の雑談も、実は活性化に効果があることがわかりました。実際に人工知能を導入いただいたところ、組織全体のハピネスも上がったうえ、まるまる一年間にわたって受注率が20%以上増えたという結果が得られました。この反響がけっこう大きくて、今は銀行や航空会社、物流業界にも採用いただいています。

21世紀に求められるのは、毎日の変化の中で働く人の生産性をどうやって上げていくかだと思うんです。データ計測と人工知能を組み合わせることで、人間の活動を支援できたらと考えています。

画像: 組織を劇的に変える人工知能の威力

星野
目的としては、活性化されている組織をつくるってことですか?

矢野
そうです。そのために、どんな条件が整っている時に活性度が上がっているかを、人工知能を使って判断していくんです。

星野
その条件というのは組織によって違うものですか?

矢野
みんな違います。先ほどお話しした動きの多様性というのは、どの組織でも必要なんです。ただ、それをどうやって高められるか、どうすれば活動パターンを多様化できるかは、組織によるんです。コミュニケーションを増やす場合もあるし、むしろ無駄なやり取りを減らした方がいい場合もある。オフィスを移転することですごく多様性が上がる場合もあるし、かえって裏目に出ることもある。あくまでリアルタイムなものなんです。

星野
面白い。今の時代に合ったテクノロジーだと思いますね、これは。


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