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企業活動におけるITの重要性が高まる中、どのようにITを活用していくのかは、企業の競争力を左右する重要な経営課題となりつつある。しかし、どんな展開が自社の競争優位を実現し、企業価値の向上に結び付くのか。ここでは、企業のIT戦略に詳しい早稲田大学ビジネススクール ディレクター・教授、同大学IT戦略研究所所長の根来龍之氏に話を伺い、企業の経営革新、それをけん引するIT戦略にまつわるトレンドや問題点などについて考察する。

IT革新なくして、経営革新なし! 変わりゆくIT戦略立案の方法論 第1回 >

ポイント1:自社の業界のポジションを知る

画像: ポイント1:自社の業界のポジションを知る

独自のIT戦略を考えるうえで最初のポイントとなるのが、自社が属する業界でのITの重要性だ。「ITがビジネスに与える影響度によって、金融、流通、ゲームなどITがビジネス自体をけん引するIT依存度の高い層、建設や製鉄、製造などIT依存度の比較的低い層、そしてその中間層の三つに分けることができます」と根来氏。まず自社の業界がこの三つのどの層に位置するかを確認してみよう。

重要なのは自社の業界が中間層に当てはまる場合だ。「中間層に当てはまる業界は、IT化によって大きく成長できる可能性がある業界なんです」と根来氏は指摘する。

例えば、コインパーキング業界で急成長するパーク24。2003年ごろから、業界他社に大きく先駆けてIT活用を図り、パーキングをネットワーク化して管理することで成長してきた。「当初、過剰投資だといわれていましたが、ITを活用して稼働率を上げることに成功しました」(根来氏)。

ITの進化とともに中間層の範囲は広がりつつある。「自社の業務はITとは無縁といった思い込みは捨てて臨んでほしい」(根来氏)。

ポイント2:ITの最新トレンドを知る

次のポイントは、ITの最新トレンドを知ることだ。それによって、今のITの革新性がどこにあるのか、どんなベクトルで技術が進歩していくのかが見えてくるからだ。根来氏は「これからのITの役割は、顧客一人ひとりと商品やサービス一つひとつをひも付けて識別する個別対応と、ビジネスの状況をリアルタイムに捉えることに変わりつつあります」と語る。

画像: ポイント2:ITの最新トレンドを知る

例えば、ネットビジネスでは、キャンペーンを実施しながら、反応をリアルタイムに分析し、顧客ごとにキャンペーンの内容を変えて提示するマーケティングが行われている。ITによるビジネスの高度化の好例だ。「消費者の動向を把握して、広告が消費者を追いかけてくるリターゲティングという広告手法も広がっています。関心を持っている人に関連した広告を提示すれば広告効果が高いのは当然です。受け取る人も効率的に広告を取捨選択することができます」と根来氏はメリットを説く。

また小売業界では、位置情報を活用して近くにいる人にキャンペーン情報を提供するといったマーケティングや個別の顧客対応のベースとなる廉価なPOS(販売時点情報管理)システムの導入が進んでいる。「特徴的なのは、小規模な店舗でもIT化が進められる点です。小口のクレジット決済やポイントサービスなど、今まで大規模な業態でしかできなかったことが、スマートフォンやタブレットでできるようになっています」と根来氏は変化を指摘する。

さらに、自動運転という次のチャレンジが始まっている自動車業界でも、個別対応とリアルタイム性が鍵を握る。自動運転ではセンサーを通して様々なデータが収集され、瞬時に処理されて、次のアクションに結び付けられる。「課題はいくつもありますが、確実に実現に向かうでしょう」と根来氏は予測する。

個別対応とリアルタイム性へというITの役割の変化を現実のものにしているのが、クラウドやビッグデータ、モバイル、ソーシャルといったITの活用だ。その変化を見逃さないことが、IT戦略を立案するうえで重要になる。

ポイント3:異業種での活用事例から学ぶ

自社の成長につながるIT戦略を考えるヒントはどこにあるのか。根来氏は「異業種の活用事例を基に味付けをすることが重要です」と説く。「経営革新の多くは広義の模倣から始まっています。ただし、同業者をまねるのではなく、異業種の事例からいかにヒントを得るのかが問われています」(根来氏)。

例えば、トヨタ自動車の生産方式もスーパーの棚の管理から着想を得たといわれている。根来氏は「異業種でやっていることは、別の角度から見ると新しい価値を生むことが多い。自社とは関係ないと思うと損をします」と異業種に目を向けることの重要性を強調する。

また、昨今注目されるBOP(Base of the Pyramid:低所得階層)ビジネスの視点も重要だろう。これまで成り立たないと思われていた発展途上国の貧困層を対象にどんなビジネスが展開できるのか。そこにはこれまでの発想を超えた新たなビジネスモデルのヒントがある。根来氏は「ITの活用によって成立するBOPビジネスもあり得るのではないでしょうか」と指摘する。

画像: 根来 龍之(ねごろ たつゆき)氏 早稲田大学 ビジネススクール ディレクター 早稲田大学 IT戦略研究所 所長 ビジネススクール 教授 1977年京都大学文学部卒業(哲学科社会学専攻)。1983年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員などを経て、2001年から早稲田大学教授。経営情報学会会長、国際CIO学会副会長、経済産業省CIOフォーラム委員、日本オンラインショッピング大賞実行委員長、CRM協議会副理事長、会計検査院契約監視委員会委員長などを歴任。主な著書に『事業創造のロジック』(日経BP社)、『代替品の戦略:攻撃と防衛の定石』(東洋経済新報社)、『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社)など。

根来 龍之(ねごろ たつゆき)氏
早稲田大学 ビジネススクール ディレクター
早稲田大学 IT戦略研究所 所長
ビジネススクール 教授
1977年京都大学文学部卒業(哲学科社会学専攻)。1983年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼メーカー、英ハル大学客員研究員などを経て、2001年から早稲田大学教授。経営情報学会会長、国際CIO学会副会長、経済産業省CIOフォーラム委員、日本オンラインショッピング大賞実行委員長、CRM協議会副理事長、会計検査院契約監視委員会委員長などを歴任。主な著書に『事業創造のロジック』(日経BP社)、『代替品の戦略:攻撃と防衛の定石』(東洋経済新報社)、『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社)など。

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