グローバル化や知識社会の到来による環境変化への柔軟な対応には、従来のヒエラルキーを超え、個の創造性を発揮できる「場」としての組織のあり方が求められる。個人の能力を積み重ねるだけでなく、関係性によって知的生産性をより高める場としての組織のあり方について、経営組織論、知識創造支援ワークスタイルの研究に取り組む東京工業大学大学院の妹尾大准教授に聞いた。

画像: プロフィール 妹尾 大氏 東京工業大学大学院社会理工学研究科 准教授。 1998年一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手を経て、2002年から東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授(現在は准教授)。博士(商学)。平成19年度東工大教育賞優秀賞を受賞。専門分野は経営組織論、経営戦略論、情報・知識システムであり、個人と組織の動的プロセスを研究。 主な著書は、『知識経営実践論』(共編著・白桃書房)、『魔法のようなオフィス革命』潮田邦夫・妹尾大(共著・河出書房新社)。

プロフィール
妹尾 大氏
東京工業大学大学院社会理工学研究科 准教授。
1998年一橋大学大学院商学研究科博士課程単位取得満期退学。北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手を経て、2002年から東京工業大学大学院社会理工学研究科助教授(現在は准教授)。博士(商学)。平成19年度東工大教育賞優秀賞を受賞。専門分野は経営組織論、経営戦略論、情報・知識システムであり、個人と組織の動的プロセスを研究。
主な著書は、『知識経営実践論』(共編著・白桃書房)、『魔法のようなオフィス革命』潮田邦夫・妹尾大(共著・河出書房新社)。


見えないニーズをつかむために、求められる創造性

チームワークやチームビルディングのあり方が、スポーツだけでなくビジネスの領域でも真剣に論じられるようになっています。それらが企業の中で課題となり、取り組みが求められるようになった背景についてお聞きします。

組織、チームをどうまとめるか、どうすればリーダーシップを発揮し、メンバー各人の成長と組織力の向上を実現できるのかは、あらゆる組織に共通する永遠の課題です。ただ、企業においては、これまで主にアフターファイブなどの業務外のところで論じられ、対処されてきたものでした。それが現在、業務と直接的にかかわる課題として考えられるようになっている背景としては、市場の変化に伴い、仕事で求められる能力も変化していることが挙げられるでしょう。

かつては、組織のメンバーそれぞれが役割を分担し、互いに補完し合うことで全体としてのアウトプットを積み上げるという仕事が多かったのではないでしょうか。そのため、与えられたことをうまくこなし、予想された結果を出す、処理能力が重視されました。それが次第に、あらかじめ予想されたとおりの結果を出すだけでは足りなくなってきた。なぜなら、顧客・市場のニーズが見えなくなったからです。

高度経済成長期には、顧客の求めるものは明確で、それをつくれば売れました。しかし現在は、特に日本をはじめとする先進国では、モノが充分にあることから消費者の満足のレベルが上がり、何をつくれば売れるのかの予測が難しくなっています。ニーズを見出すためのツールや手法、集められるデータや情報の種類も量も増えていますが、それをどう活かしてアウトプットに結びつけるかが難しい。消費者側もまた多くの情報にアクセスできることが、複雑化に拍車をかけています。

経済学者の岩井克人氏は、「差異を利潤の源泉とする」という資本主義の原理は昔から変わらないけれど、差異を得る方法が移り変わっていると説いています。大航海時代の商業資本主義では地理的な差異が、20世紀の産業資本主義では労働力の価値と生産物の価値との差異が利潤の源泉となっていたのですが、均一化やグローバル化が進んだ21世紀の社会では、そうした自然発生的な差異は生まれにくい。したがって、差異を意図的につくり出さなければなりません。個人の「経験」が消費価値として位置づけられ始めたのも、商品そのものよりも経験が生み出す差異が価値の源泉となるためです。

差異をつくり出すには、創造力が求められます。かつてのように仕事を単純に分担し、マニュアルや経験則に従ってこなすだけでは、新しい価値を創造することはできません。企業の組織においては、個人の創造性、顧客自身も気づいていなかったニーズを見つけ出す力や、それを受けてこれまでにないものをつくり出す力を、いかに引き出すかが問われています。

こうした資本主義におけるパラダイムシフト、ビジネスにおける顧客との関係の大きな変化を受けて、知識経営への転換に取り組む企業が増えてきました(図1参照)。トップダウン型のマネジメントを脱し、個の創造性を活かして知的生産性を向上させるために、チームビルディングの手法が注目されているのだと思います。

画像: 図1 組織のあり方の対比

図1 組織のあり方の対比

個の力を「関係性」の力に変換する組織へ

与えられた仕事をこなすだけでなく、創造性が重視されるようになり、個人と組織との関係も変化し始めているということですね。その変化を経営の視点からどのように捉えれば、個の力を組織力の向上に活かすことができるのでしょうか。

画像: 個の力を「関係性」の力に変換する組織へ

個の創造性を引き出すためには、メンバーが互いを補完し合うというよりも、さまざまな知がぶつかり合い、化学変化を起こし、気づきや創造につながる「場」としての組織のあり方が求められます。20世紀のビジネスにおけるチームワークのモデルが1+1=2となるもの、つまり個の力をダイレクトに足し合わせて組織の力にするものであったとすれば、1+1=3、4、5…と個の力を「関係性」の力に変換して相乗効果を生み出し、組織の力にするのが21世紀モデルです。

最近、注目されているダイバーシティは、そうした意味で重要です。1+1=2の世界では、多様性は不要でしたが、関係性という観点から見れば、同じものばかり混ぜても化学変化は起きません。異なるものが混ざり合い、ぶつかり合うことに意味があります。

ダイバーシティについては、社会的なフェアネスの実現やグローバル化の観点から、ジェンダー、民族、宗教などの多様性が必要であるという文脈で語られることが多いようです。もちろんそれも大切なことですが、チームビルディングの観点から言えば、認知的な多様性、それまでの組織の常識を外れた見方ができる人を関係性の中に迎え入れ、異分子として機能させることが必要です。それが自然に実現できれば理想的ですが、やはり意図的にやらなければ難しいでしょう。

私の研究室では毎月1回、インターナショナルセミナーと称して、留学生の出身国をテーマとしたセミナーを行っています。例えば、今月はアルジェリアがテーマだとすると、日本人学生はアルジェリアのことを調べてプレゼンテーションを行い、それをアルジェリアから来た留学生が批評します。そのあとは、アルジェリア料理をみんなでつくって食べるか、アルジェリア料理店に食事に行く、というものです。研究室では留学生を積極的に受け入れていることもあり、毎月違う国をテーマにしています。

こうしたセミナーを行う意図は、相互理解の深化だけでなく、日本人が中心になりがちな組織の常識を見直す、あるいは覆し、新たな関係性を構築することにあります。ダイバーシティを推進していくには、ただ多様な人を受け入れるだけでなく、ファシリテーションや相互作用のための場づくりが必要です。それにはまず、マネジメント層が、関係性への投資はペイするのだ、という認識を持つことが重要です。

体験の共有を通じて共通の言語をつくる

組織を関係性と相互作用による化学変化の場としていくためには、これまでとは異なるチーム活性化の手法、リーダーシップが求められます。組織のあり方を変え、新たなリーダーシップ能力を育成していくには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。

高度経済成長期には当たり前のように行われ、その後次第に廃止されていった、社内運動会、社員旅行といった社内イベントを、今また復活させようという動きがあります。それらはチームビルディングにおいて非常に有効で、どんどん取り入れるべきだと思います。ただし、やっていることは同じでも、その目的は以前とは違うものでなければなりません。

かつての社内イベントは、「いざというときに、上司が多少無理を言っても従ってくれる」といった職場の人間関係を強化するために行われる側面が強いものだったのではないでしょうか。これとは違って、チームビルディングのための社内イベントの真の目的は、体験の共有を通じて「共通の言語をつくる」ことにあります。異なる価値観、思想、経験、知識をもった人々が一緒に仕事をすることは重要ですが、言語が通じなければ知識創造やイノベーションにつながるような化学変化は起こらないからです。

ここで言う言語とは、日本語や英語といった言語学的な意味だけでなく、その組織に特有の専門用語、価値観、さらには運動会で一緒にがんばったというような思い出や物語をも含めた広い概念を指します。そうした共通項があるからこそ、異なる者どうしがぶつかり合って化学変化を起こすことができるのです。

チームビルディングのための社内イベントは、組織をそのような化学変化の場とするための下地づくりに役立ちます。日々の業務とは異なるシチュエーションを人為的につくることで、一人ひとりの価値観や思いを表出させ、共感や共有を醸成するというわけです。さらには、イベントを通じて共通言語を形成するだけでなく、それをきっかけとして、知的創造性を発揮することがポイントになります。
なお、知的創造性を発揮できる組織において必要となるリーダーシップは、直接的にすべてを主導し、管理するというものよりも、「機会をつくる」といった、間接的なリーダーシップと言えます。そのようなリーダーシップを育むためにも、業務外の社内イベントは有効に活用できるはずです。

ちなみに、イベントは運動会でも、旅行でも、飲み会でも「小さな驚き」がありさえすれば何でもいいのです。私の研究室では毎週、幹事とテーマを変えて飲み会を開いています。幹事が決めたテーマと料理のコンセプトに沿って、みんなで料理をつくって食べ、飲む。これは、単なる飲んで騒いでのコンパではなく、チームビルディング、ファシリテーション、リーダーシップの発揮、知的創造性の醸成といった裏の意図を持っています。企業の運動会や社内旅行も、そうした明確な意図や目的を持って行えば、20世紀のそれとは違う意味で、組織の活性化や強化につながるのではないでしょうか。


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