「ワークスタイル改革」という言葉から連想するイメージは、勤めている会社や、携わっている仕事や業種によってさまざまである。経営に大きく関わるこのテーマに関連して語られている多種多様な論点を改めて整理しながら、全体像を提示し、具体的なアプローチへつなげるためのストーリーを、ITアナリストとして数多くの企業の組織・人・文化を知る内山悟志氏に聞いた。

画像: 株式会社アイ・ティ・アール 代表取締役 内山 悟志氏

株式会社アイ・ティ・アール
代表取締役
内山 悟志氏

ワークスタイル改革が求められる理由

現在、企業における「ワークスタイル改革」への関心が高まりを見せている。内山氏が代表取締役社長を務めるITRが毎年行う「IT投資動向調査」においても、企業の重要なIT戦略として、「従業員のワークスタイル革新」が2013年の15位から2014年の10位に浮上した。この結果は、ワークスタイル改革を、単なる福利厚生やコスト削減といった「内向き」の改革ではなく、ビジネスや業務の変革といった「外向き」の経営戦略として企業が捉え始めたことを示していると言える。なぜ今、ワークスタイル改革が必要なのか。

一番の要因は、少子高齢化による労働人口減少に対する危惧にあります。団塊の世代が定年退職を迎え、労働人口構成が大きく変化する中で、労働力の確保が重要課題となっているのです。従来のように新卒採用に頼るだけでは企業は維持できず、今後は新しい働き手として、一度退職したシニアや結婚・出産後復職できないでいた女性の力の活用、ビジネスのグローバル化を背景にした外国人の登用に期待が寄せられています。

画像: 就労者と就労形能の多様化は避けられない

就労者と就労形能の多様化は避けられない

このように今後さらにダイバーシティが進行してくる中、多様な人材に力を発揮してもらう、働き続けてもらうためには、企業側の柔軟な受け入れ体制の整備が必須です。フルタイムで働く社員だけでなく、在宅勤務やフレックス制で働く従業員を含めた社内環境の整備──就労制度、評価制度、人材育成、チームワークを発揮するためのワークプレイスやIT環境の構築など、多岐にわたる整備が不可欠です。そうした中、端末やデバイスの多様化、ネットワークの高速化、クラウドサービスなどITの進展により、いつどこにいても仕事ができる柔軟な環境が整いつつあり、一面ではワークスタイル改革の機は熟したと言えます。

しかしながら、働き方そのものを変えるためには、ITシステムの導入だけでは不十分であり、企業風土や組織形態、就労規則、働く人の意識など広範囲に踏み込んだ改革が不可欠です。このように、さまざまな要素を含んだこのテーマに取り組むには、企業としての強い意志と将来を見据えたビジョンが必要です。つまり、ワークスタイル改革というのは、経営課題のレベルにまで押し上げなければ実現できない高いハードルなのです。

画像: ワークスタイル変革が求められる背景とは

ワークスタイル変革が求められる背景とは

ワークスタイル改革の鍵となる「組織のトライブ化」

労働人口減少に伴う人材確保、グローバル競争の中で勝ち抜いていくための人材確保、いずれにおいても企業にとっては重要な課題であり、その実現のためにはダイバーシティの実現は欠かせない。従来のように、高度経済成長期の枠組みを維持し、同質な従業員を中心に採用してきた企業にとっては、確かにハードルが高いと言える。その変化に対応するために、どのようなステップを踏めばよいのだろうか。

まだ正解はありませんが、一つ言えるのは、過渡期にある現在の日本企業では、会社とはこうあるべきという全体像と、これからの経営で必要なもののミスマッチを起こしているということ。その解消のために、企業の中にダブルスタンダードを取り入れていかなければならないように思います。例えば、従来のような上意下達による固定的なピラミッド型組織のラインからは外れた独立した組織の中で、新しい働き方や新しい組織運営を模索するというのも一つの手です。いうなれば、「デュアルOSマネジメント」という考え方です。

そのデュアルOSマネジメントの一翼を担うのが、「組織のトライブ化」です。トライブ(tribe)とは、もともとは部族を意味し、何らかの共通の興味や目的を持ち、互いにコミュニケーション手段があることでつながっている集団を指します。つまり、社内外を問わず、それぞれの得意領域を持ったタスクフォースのメンバーがプロジェクト型で行う知的業務のこと。この組織のトライブ化が進むと、意思決定の手法やプロセスにも、従来のピラミッド型の組織階層や指揮命令系統とは異なった高度化が要求されます。これにより、トップダウン型ではない、メンバーそれぞれの意見を反映したオープンかつ迅速な意思決定が可能になるのです。

画像: 組織と人材がトライブ化する

組織と人材がトライブ化する

ただし課題もあります。日本では多くの場合、タスクフォースを組んだとしても、プロフェッショナルとして集まるのではなく、既存組織のチームの代表としてジェネラリストばかりが集まってくることが多い。そこが、スペシャリストが重用される海外企業とは大きく異なるところです。グローバル競争を勝ち抜いていくためには、今後の組織のあり方、人材採用・育成についても同時に考えていく必要があるでしょう。

画像: ワークスタイル改革の鍵となる「組織のトライブ化」

発想を転換し、現場力を活かす

発想の転換も必要です。これまではタブレット端末や無線LANなどIT導入はある一部 狭義のワークスタイル改革を実現する手段でしかなかったわけですが、視点を変えると、コンシューマーの世界ではクラウドやSNS(Social Networking System)など、草の根的に浸透してきたサービスやテクノロジーが社会を大きく変えています。つまり技術から社会が変わるという逆現象が起こっているケースもあるのです。これに倣い、まずは試しにITシステムを導入してみて、現場から編み出された新しい使い方を採用するという方法もあるでしょう。

しかし、単にシステムを導入すればいいというわけではありません。iPadやフリーアドレス化の導入で失敗するのは、将来のあるべき働き方のビジョンを描かないまま導入してしまったことで使い方を限定して定着しなかったり、かえって生産性が落ちたりといったところに原因があります。そこに新しいアイデアが生まれる余地はない。例えば、あるアパレルメーカーでは、スマートフォンを在庫確認や顧客への商品説明、従業員のコミュニケーション支援として活用して成功していますが、これらは現場からの意見を採用したものだという。導入するツールに関して現場の自由な発想を許し、応用の権限を付与することが肝要なのです。

上記のようなBtoC企業の好例を見るにつけ、デジタルイノベーションは、お客さまとの関係性において変革を起こしつつあるように見えます。これは、すでにスマートフォンやSNSを活用している顧客の視点に立つことで、企業側が組織文化自体を変化させ、日本企業の強みが強化されつつあるからと言っていいでしょう。

顧客と直接接点があるBtoC企業では、今まさに、対応力を高めるためにITの活用が急激に進んでいます。ワークスタイル改革はホワイトカラーだけでなく、外食産業やホテル、小売、医療、介護、教育など、さまざまな現場ワークでこそ活きる。「Field and Mobile Work style」といったかたちで、日本が世界に先駆けて変革を起こすことができるのではないでしょうか。


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