当コラムシリーズは全3回で構成されている。前回の第1回コラムでは、IoT(Internet of Things)が企業にどのようなインパクトをもたらすのか、なぜ企業が早急にIoTに取り組まなければならないのかについて説明した。第2回の本コラムでは、具体的にどのような産業分野の企業がIoTを活用し始めているのか、IDCが2015年8月に発表した企業調査(アンケート/個別取材)結果を基に考察する。その上で、IoTがさまざまな産業分野に広がってきている原因について明らかにする。なお、次回の第3回のコラムではIoTの中長期的な将来展望について言及する予定である。


アナリストプロフィール

画像: 鳥巣 悠太(とりす ゆうた) IDC Japan 株式会社 コミュニケーションズ マーケットアナリスト

鳥巣 悠太(とりす ゆうた)
IDC Japan 株式会社 コミュニケーションズ マーケットアナリスト

IoT(Internet of Things)を専門分野とし、5年以上にわたり調査/アドバイザリー業務に従事。また、同分野に関する数多くの講演やメディア向けプレゼンテーションなど、豊富な経験を有する。IDC Japanにおける現職では、IoT に関わるビジネス動向や技術トレンドの市場分析をベンダー側とユーザー側の双方の角度から実施し、幅広い顧客を対象として調査/アドバイザリーサービスを提供。2015年現在、IDC年間情報提供サービス「Japan Internet of Things Ecosystem and Trends」を担当している。

専門の分野/テーマ

IoT市場のエコシステム/トレンド分析
アナリティクス/セキュリティ/ウェアラブル/その他専門サービスのうちIoTビジネスに関わる分野
モバイルサービス/デジタルコンバージェンス分野、他


IoTを最も活用している、国内産業分野とは

<図1>は、IDCが実施したアンケートより明らかになったIoTの利用企業数および利用率を「製造/資源」「流通/サービス」「公共/インフラ」「金融」という4つの産業セクター(大分類)別に集計したものである。なお、図内に示したとおり、各産業セクターは細かくは18の産業分野(小分類)に分類される。

画像: IoTを最も活用している、国内産業分野とは

アンケートの結果、回答企業全体に占めるIoTの利用企業数は340社(利用率4.9%)であった。なお、IDCでは利用率の算出に当たり、アンケートの自由記述欄に記載された、IoTの具体的な利用内容がIDCの定義するIoTと合致しているかどうかを厳格にチェックしており、回答者の所属する企業が実際にはIoTを利用していたとしても、回答者自身がそれを認識していない場合には利用企業としてカウントしていない。したがって実際の利用率は4.9%よりも高い数値になる可能性がある点にご留意いただきたい。

産業セクター別に見た場合、利用率が最も高かったのは「製造/資源」セクターで、6.7%であった。同セクターの利用率を押し上げているのは組立製造やプロセス製造といった産業分野であり、FA(Factory Automation)に関わるさまざまな製造機器が、古くからIoTとして活用されてきていることが主な原因と考えられる。次に利用率が高かったのが「流通/サービス」セクターで5.0%であった。同セクターでは、運輸/運輸サービスにおける輸送機器の管理や、小売におけるPOS(Point Of Sale)などの販売機器向けのIoT活用が顕著に見られた。また「公共/インフラ」セクター(利用率:3.2%)では、公共インフラ管理や医療機器診断を中心にIoTの利用が進んでおり、「金融」セクター(利用率:1.3%)では銀行を中心としてATM(Automated Teller Machine)端末管理といったIoTの活用が見られた。このように、各産業セクターにおいてIoTを積極的に活用しているのは、製造機器、輸送機器、販売機器といった組み込み機器を、伝統的に多用する産業分野であると見受けられる。

IoTを積極的に活用し始めた、意外な国内産業

しかしながら、IDCが実施したアンケート/個別取材の結果から、IoTの活用はそうしたIoTと「親和性が高い」産業分野のみに留まらないことが明らかになった。

まず、道路建造物のインフラ点検サービスを提供するA社では、建造物の点検時にIoTを活用している。具体的には、橋梁上の舗装道路を支える橋桁などに対して振動センサーや歪みセンサーを取り付けることで常時監視を行い、老朽化の度合いなどを分析している。また、海上の橋脚監視など、人間が実施すると著しく手間のかかる作業については無人航空機ドローンを用いて自動化している。

次に、教育法人や書籍量販店向けに教科書などの書籍の出版を行っているB社では、遠隔地にある自社の書籍倉庫において、印刷会社から入荷した書籍や、顧客に対して出荷する書籍などの在庫推移について、専用のICタグを用いてリアルタイムに管理している。

また、地方自治体であるC市では、市内の管理対象の河川脇の道路に水量検知センサーを設置し、大雨などで水が溢れた際に通知するシステムを活用している。これにより畜産業の土壌が河川に流れ込むことによる水質汚濁の被害を未然に防いでいる。このように従来、組み込み機器を多用していなかった専門サービス、メディア、官公庁といった産業分野においてもIoTが採用され始めているとIDCではみている。

国内IoT市場における企業の投資トレンドからみる、今後の多様化傾向

今回のアンケート/個別取材で明らかになったIoT利用企業の産業分野の多様化の傾向は、IDCが2015年3月に発表している「国内IoT市場における産業分野別の企業の投資動向<図2>」のトレンドにも合致している。

画像: 国内IoT市場における企業の投資トレンドからみる、今後の多様化傾向

<図2>によると、2014年時点で投資額が大きいのは組立製造、プロセス製造、運輸/運輸サービス、公共/インフラといった産業分野で、これら4つの産業分野におけるIoTへの投資額規模はいずれも1兆円を超えるとみられる。ただし、投資額が2014年時点で相対的に小さいその他の産業分野においても、投資額の成長率という側面から見た場合、上記4つの産業分野同等のCAGR(年間平均成長率)が見込まれる業種は多数存在することが分かる。したがって、IoTは今後特定の産業分野に偏ることなく多様化していくとIDCではみており、今回のアンケート/個別取材の結果はその見解を裏付ける形となった。

IoTを導入する産業分野は、なぜ多様化するのか。その2つの理由

では改めて、IoT利用企業の産業分野を多様化させている根本的な理由とは一体何だろうか。IDCではその答えとして大きく2つの要因が関係しているとみている。

1番目の要因は、企業がIoTソリューションを導入する上でのコスト面/技術面における障壁が急速に下がってきている点である。昨今では大手のICTベンダーが中心となり、IoTサービスの安価なトライアルやスモールスタートを可能にするためのプラットフォームサービスが次々と提供され始めている。これにより企業は、IoTを試しに使ってみることで現場からのフィードバックを本格導入以前に得ることが可能となり、費用対効果のシミュレーションを行うこともできるようになってきている。また、IoT向けアプリケーションなどをGUIで簡単に構築できる環境も整ってきており、ICT分野を苦手としている企業であっても、IoT導入における技術的なハードルを大きく下げることに成功しているとIDCではみている。

2番目の要因は、企業と事業者の間において、IoTソリューションの導入に向けたコミュニケーションが最適化されつつある点である。一般的にICTソリューションとIoTソリューションを比較した場合、ICTソリューションの窓口になるのは企業の情報システム部門であるケースが多いが、IoTソリューションの窓口は企業の事業部門であるケースが多い。したがって、IoTのエコシステムに関わるさまざまな事業者は、企業の事業部門に適切にアプローチすべく、各産業分野に強みを持つパートナーとの提携などを進めている。加えて昨今では、IoTのソリューション導入に向けたセミナーや展示会なども急速に増加しており、企業と事業者がIoTソリューションに関して意見交換を行うような機会が飛躍的に増えてきていることも、IoTの産業分野の拡大に大きく寄与していると考えられる。

製造業を中心としたあらゆる産業分野では、自社の競争力を確保し熾烈な競争を勝ち抜く上でIoTの活用は必須の流れとなりつつある。今後、さらに上記2つの要因が追い風となり、IoTを導入する産業分野の多様化の流れは今後も加速するとIDCではみている。


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