IoT(Internet of Things)への期待が、全世界で急速に高まってきている。たとえば製造業では、製造機器に取り付けたセンサーが収集した情報をクラウド側で常時分析して故障の予兆を検知し、故障する前にメンテナンスを行うような事例が出てきている。また小売業では、店舗内の監視カメラが収集した画像を人工知能などの高度な技術を駆使して分析し、顧客の動線の最適化や嗜好の詳細な把握に役立てることが可能になってきている。IDCでは、こうしたパラダイムシフトが加速することで全世界のIoT市場売上規模は2020年までに1.7兆米ドルにまで増大し、IoTとしてネットワークにつながる端末は300億台に達すると算出している。

IoTの高いポテンシャルは、国内市場においても同様に見られる。<図1>に示した通り、IDCでは2014年時点で国内にもすでに9兆円のIoT市場が存在していると考えており、2019年には16兆円にまで拡大すると予測している。それに伴いIoT端末の普及台数についても2014年から2019年にかけ、5億台から9億台へ増加するとみている。

画像: IoTが引き起こすパラダイムシフト ―あらゆる産業はビジネスの変革を迫られる― (鳥巣 悠太 氏)
第1回:「M2Mの世界」と「ICTの世界」の融合により、大きく飛躍する国内IoT市場

全3回のコラムシリーズのうち第1回の本コラムでは、IoTを構成するさまざまな技術要素に対する知識を深め、IoTが各産業分野にどのようなインパクトをもたらすのかを理解した上で、企業が早急にIoTに取り組まなければならない理由について明らかにしていく。なお、第2回ではIoTの活用が具体的にどのような産業分野に広がりつつあるのかについてIDCが実施したサーベイ結果も含めて分析し、第3回ではIoTの中長期的な将来展望について考察していく。


アナリストプロフィール

画像: 鳥巣 悠太(とりす ゆうた) IDC Japan 株式会社 コミュニケーションズ マーケットアナリスト

鳥巣 悠太(とりす ゆうた)
IDC Japan 株式会社 コミュニケーションズ マーケットアナリスト

IoT(Internet of Things)を専門分野とし、5年以上にわたり調査/アドバイザリー業務に従事。また、同分野に関する数多くの講演やメディア向けプレゼンテーションなど、豊富な経験を有する。IDC Japanにおける現職では、IoT に関わるビジネス動向や技術トレンドの市場分析をベンダー側とユーザー側の双方の角度から実施し、幅広い顧客を対象として調査/アドバイザリーサービスを提供。2015年現在、IDC年間情報提供サービス「Japan Internet of Things Ecosystem and Trends」を担当している。

専門の分野/テーマ

IoT市場のエコシステム/トレンド分析
アナリティクス/セキュリティ/ウェアラブル/その他専門サービスのうちIoTビジネスに関わる分野
モバイルサービス/デジタルコンバージェンス分野、他


国内IoT市場が、急激に注目を集めている理由

IDCでは、IoTを構成する技術要素を「端末」「通信」「プラットフォーム」「分析」「アプリケーション」という5つのレイヤーに分けてとらえている。詳細は<図2>を参照されたいが、これら5つのレイヤーおよび各レイヤーに付随する専門サービスやセキュリティといった市場を合算したものを、IDCではIoT市場として定義し、市場規模を算出している。

IoTの構成要素をこうしたレイヤーで分解することで、「なぜ今」国内IoT市場が、急激に注目を集めているのかを理解することが容易になる。<図2>では、この5つのレイヤーからなるIoTの構成要素を、さらに「M2M の世界」と「ICTの世界」という大きく2つのカテゴリーにまとめている。さまざまな産業機器に通信モジュールやセンサーを組み込んで遠隔で管理するという考え方は、まだIoTという言葉が存在しなかった約20年前から「M2M」として、すでに製造業を中心に根付き始めたコンセプトである。M2Mは、製造機器などを中心とした「端末」とそれらをつなぐ最低限の「通信」のみで実現可能であり、IoTを構成する技術要素の中で、下位レイヤーの一部に該当するのが「M2Mの世界」と言える。一方、最近になって上位レイヤーの「プラットフォーム」「分析」「アプリケーション」およびそれらに付随する専門サービスやセキュリティといった「ICTの世界」が台頭し、M2Mの世界と融合してきたことが、「なぜ今」IoTなのかという疑問に対する答えになるとIDCでは考えている。

画像: 国内IoT市場が、急激に注目を集めている理由

製造機器の利用プロセスを、IoTが劇的に改善

たとえば、製造業の工場における製造機器の保守プロセスを想定した場合、従来のM2Mの世界においては、(1)製造機器に取り付けたセンサーが故障を検知、(2)製造機器がアラートを上げる、(3)工場の人間が駆けつけ状況を確認、(4)その状況をメンテナンスの委託先(製造機器メーカー)に知らせる、(5)メンテナンス担当者が現場に駆けつけ修理を行う、といった一連のプロセスが必要であった。

一方、昨今では分析ソリューションや産業特化型ソリューションといったICTの世界が発達し、M2Mの世界と融合することで、そうしたプロセスを抜本的に改善することが可能になりつつある。たとえば、幾種もの高性能なセンサーを搭載した製造機器を高速ネットワーク回線につなぎ、クラウド側で製造機器の挙動を常時さまざまな角度から分析することで故障の予兆を検知し、その製造機器が故障する前にメンテナンスを行うような用途が登場してきている。また、製造機器の故障のパターンデータを大量に収集、分析することで、製造機器の運用環境の最適化や開発プロセスの改善につなげることも可能になってきている。

こうしたことからM2Mの世界とICTの世界が融合し、IoTへとシフトすることで、製造業は製造機器の利用プロセスを劇的に改善することが可能になってきている。また、製造機器の保守などのアフターサービス分野は、従来M2Mの世界においてはその製造機器メーカーが担ってきた役割であるが、IoTの世界においてはあらゆるタイプの企業がそうした分野に新規参入できる余地があると言える。たとえば、製造機器の製造そのものには携わっていないSIerやコンサルティング会社であっても、農業や医療などといった各産業分野においてビジネスの実績やノウハウを保有していれば、農業機器の遠隔管理や医療機器の遠隔診断などといったサービスを新たに開始することが可能になってきている。したがってIoTは製造業を中心に、あらゆる産業分野の企業のビジネスを一変させるインパクトがあると考えられる。

IoTへのシフトを加速させる、国内外の産業動向

そうしたあらゆる産業分野に対してIoTを広げることを目的とし、全世界的にさまざまなコンソーシアムが立ち上がる動きもみられる。米国ではIoTに必要な技術要素を提供するトップベンダーが主体となり、「IIC(Industrial Internet Consortium)」が発足しており、IoTのベストプラクティスの策定やセキュリティガイドラインの策定を積極的に進めている。また欧州では「Industrie 4.0」という構想の下、産官学が一体となり、IoTを活用した製造業の活性化を推進している。日本国内においてもそうした欧米の動きに対抗し、「Industrial Value Chain Initiative(IVI)」などのコンソーシアムが立ち上がっている。同コンソーシアムでは、IoTを活用して国内製造業の現場の強みを最大限に引き出すためのリファレンスモデルを構築することを目標としており、今後の動向に注目が集まる。

このようにさまざまなベンダーのコンソーシアムを通じた活動も後押しすることで、製造業を中心としたあらゆる産業分野の企業にとって、自社の競争力を確保し熾烈な競争を勝ち抜いていく上でIoTを活用していくことは、必須の流れとなりつつある。国内市場では、組み込み系の産業機器を長年M2Mとして活用してきた企業は少なくないと言えるが、今後はICTの技術も積極的に取り入れ、IoTへのシフトを加速させなければ、中長期的に競争を勝ち抜いていくことが難しくなるものとIDCではみている。

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