デジタルマーケティング支援を事業とするネットイヤーグループのリーダー・石黒不二代氏。低成長の時代が続く日本経済だが、企業が本来持っている高い技術力や、日本人が持つ勤勉性などを活かせば、まだまだ企業は成長できると説く。第2回では、ビッグデータを用いたマーケティングや企業が取り組むべき組織戦略など、日本企業が成長するためのヒントについて話を聞いた。

画像: プロフィール 石黒 不二代 (いしぐろ ふじよ) ブラザー工業にて海外向けのマーケティングを担当し、スワロフスキージャパンにて新規事業担当のマネージャー職を経験。その後、スタンフォード大学ビジネススクールでMBAを取得し、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立。ヤフーや ネットスケープ、パナソニック、ソニーなどを顧客とし、日米間のアライアンスや技術移転などを支援した。その後ネットイヤーグループのMBOに参画し、2000年より現職。大企業を中心に、ビジネスの本質的な課題を解決するための総合的なデジタルマーケティングを支援し、ネットイヤーグループ独自のブランドを確立している。同社の連結従業員数は約350名、売上高40億円。2008年に東証マザーズ上場。現在は、内閣府の「選択する未来」委員会や経済産業省の産業構造審議会委員などの公職も務めている。

プロフィール
石黒 不二代 (いしぐろ ふじよ)
ブラザー工業にて海外向けのマーケティングを担当し、スワロフスキージャパンにて新規事業担当のマネージャー職を経験。その後、スタンフォード大学ビジネススクールでMBAを取得し、シリコンバレーにてハイテク系コンサルティング会社を設立。ヤフーや ネットスケープ、パナソニック、ソニーなどを顧客とし、日米間のアライアンスや技術移転などを支援した。その後ネットイヤーグループのMBOに参画し、2000年より現職。大企業を中心に、ビジネスの本質的な課題を解決するための総合的なデジタルマーケティングを支援し、ネットイヤーグループ独自のブランドを確立している。同社の連結従業員数は約350名、売上高40億円。2008年に東証マザーズ上場。現在は、内閣府の「選択する未来」委員会や経済産業省の産業構造審議会委員などの公職も務めている。

それでも起業を選んだ。Key Leader's Voice ネットイヤーグループ株式会社 石黒 不二代 氏 第1回 >


もっとユーザー視点のマーケティングを

――石黒さんはネットイヤーグループ社を率いて、さまざまな企業のマーケティング支援を行ってきました。今の日本の企業には、どんな課題があると思われますか。

石黒
日本では、マーケティングという概念がまだあまり広まっていないと感じています。わたしは10年ほどアメリカで過ごしたあと、ネットイヤーグループを始めて日本に戻り、主に大企業を相手にマーケティング支援のお仕事をさせていただいてきました。そこで感じたことは、ほとんどの日本企業は、営業にとても力を入れている。もちろん、営業は大切な企業活動ですが、実は、マーケティングとは考え方が正反対なんです。営業がなくても売れるしくみをつくるというのが、マーケティングですから。

画像: もっとユーザー視点のマーケティングを

日本企業の製品の売り方って、プロダクトアウトなんですよね。ユーザー視点ではなく、自社で考えた概念のなかでつくった製品を売っていこうというやり方です。わたしが日本に戻ったのは、「失われた10年」から次の10年へ入ろうという時期でした。それまで日本になかったマーケティングのインフラをつくり、企業のマインドもユーザー中心になれば、企業業績は必ず上がるはずだと考えました。ユーザーオリエンテッドのマーケティングができれば、日本経済はガラッと変わると思います。ユーザーに最高の体験を与えることができれば、自然と製品に興味を持ってもらえるし、買ってもらえる。今までの日本企業はマーケティングにしても広告宣伝にしても、その考え方にはユーザーが不在でした。ものづくりの技術はとっくの昔から持ってる。なのに、それを活かしきれてなかったんです。

――ユーザーオリエンテッドのマーケティングで、うまくいってる例にはどんなものがありますか。

石黒
例えば、検索エンジンです。グーグルは、これを売らずに、情報の整理というニーズに応じた新しいサービスに利用しました。情報があふれすぎた時代に、ユーザーは自分が欲しい情報を見つけ出す必要が出てきたわけです。実は、検索エンジンって、グーグルやヤフーよりもずっと前に日本で発明されていたんです。ところが、売り込んだ先は新聞社で、過去の記事検索という用途でした。一般のユーザーが何を望んでいるかをつかんでさえいれば、もしかしたら日本がインターネットを制することができたかもしれません。

それから、アップルのiPodもよい例です。戸外でも音楽を聴けるだけでなく、iTunesと組み合わせることで音楽をインターネットでダウンロードでき、CDを買いに行くというユーザーの不便を解消しました。製品を出しただけではなく、顧客の生活を変えたんですね。日本では、まだまだこういった例が少ないと思います。

ビッグデータを活かしたデジタルマーケティング

――近年、ビッグデータを活用する新しい技術が出てきました。
これを使ったマーケティングとはどのようなものですか。

石黒
大量生産・大量消費の時代はマスマーケティングが行われていました。それは、みんなが同じ製品を欲しがっていたので、たくさんの人に周知する必要があったからです。でも今は、それぞれのユーザーが違う製品を欲しがっている。ひとりひとりのニーズを把握するためには、マスではなく個別のコミュニケーションが必要です。ビッグデータを使ってそれを行うのが、デジタルマーケティングです。

CRM(Customer Relationship Management:顧客情報管理)の考え方が普及して20年くらいになりますが、購買データや顧客データだけでは、今や不十分です。その製品を買った人が、自社のホームページで何をどのくらい長く見てくれたのか。どんな検索ワードでそこに行き着いたのか。どんな広告をクリックしたのか。ネットショップの中でどこを見たのか。ソーシャルメディアでどんなことをつぶやいたのか。そういうことが、ひとつのIDにひもづいて、リアルタイムでユーザーの興味・関心・行動がわかるようになりました。それがビッグデータです。

例で言うと、アマゾンのサイトにはリコメンデーションという機能があります。ユーザーの購買や検索の履歴から、その人が欲しがるような商品を勧めるんです。この精度が高い理由は、彼らの技術自体がすごいからではありません。何億という人がアマゾンのサイトを使っているから、人と人の好みの関係性がわかり、結果として、精度の高いリコメンデーションができるんです。また、グーグルは検索エンジンを利用して広告ビジネスをやっています。検索ワードに応じて広告配信をしているのですが、これも世界中にユーザーがいるから的確な広告配信ができるんです。実は、アマゾンもグーグルも、データを集めることをはじめから企業目的にしている。技術を活かすために、たくさんのデータが重要だと認識していたんですね。

――ビッグデータが出てきて、特にどんな点が変わったのでしょう。

石黒
変わった点は4つだけです。

1つめは、データがビッグになった。アマゾンやグーグルの例のように、データどうしの相関関係がわかるようになりました。

2つめは、購買前のユーザーのデータを取得できるようになった。インターネット前にあったデータは購買データや顧客データ、つまりユーザが購買したから得られたデータです。しかし、今は、サイトやソーシャルメディアを分析すれば、購買前のユーザーの行動や興味がわかります。

3つめは、文脈がわかること。自分のために買ったのか、プレゼント用に買ったのか。買ったから嬉しかったのか、これから何が欲しいのか。これらが、やはりソーシャルメディアで実際につぶやかれていることで、ユーザーが次にどんな製品を欲しいか予測できるようになりました。

4つめは、それがリアルタイムでできるようになったことです。

大量のデータを使ったマーケティングの分析というのは、とても面倒な作業です。ずっとリアルタイムで分析してるわけですから(笑) これを行うためには、技術的には実はむずかしくはないのですが、勤勉で真面目な労働力が必要です。となると、日本人が向いている作業だと思います。工場の徹底した品質管理だって、日本の企業だからできることだと思いますし。今でこそマーケティングは欧米のほうが進んでいますが、日本の企業がビッグデータ分析をマネジメントできれば、海外の企業を逆転するのは可能だと思います。

ホワイトカラーの生産性向上も、日本企業の伸びシロ

画像: ホワイトカラーの生産性向上も、日本企業の伸びシロ

――ホワイトカラーの生産性についても、お考えをお持ちだそうですね。

石黒
日本の工場って、とても生産性が高いと思うんです。ところが、一旦、デスクワークをしているホワイトカラーに目を移すと、とにかく残業が多い、生産性が低い。OECDに加盟している34か国中、日本の生産性は19位です。さらに、主要7か国中では18年連続で最下位。これを業種で比較すると、製造業は高いのにサービス業では生産性が低いです。でもシリコンバレーの場合は、まったく違います。わたしが渡米した理由のひとつが保育所問題だったのですが、日本の保育所の多くは18時までしか開いてなかったので、勤労と保育を両立するのはむずかしかったのです。それで渡米すると、実はアメリカの保育所こそ18時ですべてが閉まってしまうことがわかりました。日本と違うのは、みんながちゃんと子どもを迎えに行くんです。女性だけじゃない、お医者さんでもノーベル賞受賞者でもそうするんです。これって、生産性が高くないとできないことなんですね。18時に間に合うように、絶対に仕事を終わらせないと。人事制度が成果主義ということも大きいと思います。日本ではまだまだそうなってないですよね。

働き方以外にも、日本の企業が変えられる点はあると思います。例えば、顧客との接点をデジタル化することにより、企業内部の生産性を高められると思います。営業の方がタブレットなどで顧客に提案書を見せますよね。この時のログを、自社で解析できるようにしておく。それを分析すれば、誰がどの顧客に何を提案したのかがわかる。どんな提案に時間を使っているかがわかる、業績とひもづけることができる。業績を上げている営業マンがいたら、その商談のやり方を社内で標準化していくということもできます。

アメリカではベンチャー企業が発明する製品がすごく売れるんです。新しいものを導入すれば生産性が高まるんじゃないかと合理的に考えて、担当者が積極的に新しい製品やサービスを取り入れるからです。日本だと、失敗したらどうしようとか、リスクを考えてしまって、なかなか新しい製品には手を出せない。そこが大きく違いますね。日本の企業がもっとホワイトカラーの生産性を高めるツールや技術を取り入れれば、極端な話、イノベーションや海外展開が無くても、まだまだ伸びシロはあるのではないでしょうか。

成功体験にしばられないイノベーション

――日本の企業文化にはどんなお考えをお持ちですか。

石黒
日本の企業は、高度成長期の成功に引きずられてしまっていると思います。この成功をもう一度、という思いがあるのではないでしょうか。でも、時代も市場も違うので、同じ成功はもうできないと思うんです。成功体験にしばられてしまうと、イノベーションは起きにくいと思います。成功体験は捨てていくんだ、という文化をつくる必要があると思うんです。企業が大きくなればなるほど、それって難しいことですが…。1994年にヤフーが立ち上がって、インターネット業界を制覇したと言われました。しかし、その10年後にはグーグルがトップに置き換わった。そして今、Webの閲覧時間ではフェイスブックが1位です。ここまで5年かかってません。そのくらい、今は移り変わりの速い時代です。

弊社でも、自らが常に変われる文化をつくっていくために、2年前に「Change myself, Change the world」とビジョンを変えました。目指しているのは、変革に必要なエンジンを持つ会社づくりです。そのために必要な要素っていろいろありますけど、例えば"想像力"。自分に対して、正しい質問をできているか。5+5の答えが何か、ではなく、10という解を出すにどんなやり方があるか。問うべきなのは、10という企業目的を果たすために、どんな努力をすべきかだと思うんです。また、変化のスピードが速い時代だからこそ、PDCAを速く回していかないとライバル企業には勝てません。インターネットビジネスにおいて、一番の批評者はユーザーです。今までのように2年も3年もかけずに完成品をつくってみて、まず出してみる。そして、ユーザーの批評を受けて、改善していく。そういった取り組みが必要になるのではないでしょうか。

社風も、重要な要素だと思います。日本ではどうしても失敗を傷だととらえがちですが、わたしは、アメリカでのあるできごとがきっかけで考え方が変わりました。息子が幼稚園に入った頃、コミュニティでサッカーの試合があったんです。息子の友だちでピーターという子がいて、たまたま彼がゴール前にひとりでいたところへ、ボールが転がっていった。これを決めれば、ピーターはヒーローになるわけです。ところが彼は舞い上がってしまって、空振りして転んでしまったんです。あまりのかわいらしさに、思わずクスッと笑ってしまったのはわたしだけ。ほかのお父さんお母さんたちは全員「Good try!」。失敗しても、いいトライだったと言える教育をしているんですね。このとき、わたしは日本の文化との大きな違いを実感しました。これは企業にも通じることで、失敗したことを学習ととらえると、成果が大きく違ってくると思います。成功のポートフォリオには、失敗は含まれるものです。

今は不確実の時代です。新しい製品やサービスを生み出すのは大変なことです。しかし、未来は予測できなくても、創造できるとわたしは思っています。日本企業には、技術や勤勉な国民性という底力があります。生産性を向上させる努力や、ユーザーオリエンテッドのマーケティングを行うことで、まだまだ企業は伸びていくと信じています。


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