すでに始まっている社会イノベーションの実現に向けた取り組みでは、組織の枠を超えたオープンな協創、連携が不可欠となっている。既成概念を超えた新たな社会的価値の創造に向けたブレークスルーのカギとは。そして、日本がこれから向かうべき方向とは。ダイバーシティに富んだパネリストが語り合う。

私にとっての社会イノベーション

八尋
最初に、皆様それぞれの「私にとっての社会イノベーション」というテーマについて、自己紹介を含めてお話しいただけますか。

朝倉
私は2009年より産業革新機構に勤めておりますが、その前を含めると約20年にわたって投資の仕事に携わってきました。投資とは、実は「変化を起こす」仕事であり、そうした意味では、私は過去20年間、世界中でイノベーションの可能性を見続けてきたと言えるのかもしれません。イノベーションというと、一般的には技術面が注目されますが、本日のテーマである「社会イノベーション」は、技術だけではなく人が一緒にイノベーションを起こすことも含む、幅広い概念ではないかと思います。

人と技術が呼応していくとき、非常に大きな変化が起きるということも事実です。そうした観点から、私はこれまで主に技術の動向を追いかけてきたのですが、これからは人の行動、発想、あるいは価値観がどう変わっていくのか、そして、それが投資の機会につながっていくのかに注目していくつもりです。実際、世界ではソーシャルな変化に高い関心を持つ投資家も増えており、私自身も、日本での投資活動を通じて、社会の変化に対してしっかり目を向けていきたいと考えています。

和泉
私は現在、総理補佐官を務めており、担当は社会資本整備、そして地方創生、健康・医療です。私の考える社会イノベーションとは、科学技術と社会制度システムの改革です。例を挙げると、エネルギー分野のスマート化や再生可能エネルギーなどの技術が、最終的な目的である安くて質の高い電気の供給に結びつくためには、発電・送電・買電の分離という電力制度改革が必要です。また、iPS細胞が実際に使われるためには、薬事法などの医療制度が変わらなければなりません。このように、科学技術と社会制度の変革が車の両輪となってイノベーションを起こすことが、その果実を国民に還元する最大の道ではないかと思っています。

一木
私は、ゲームというものは自分には一生関係のないものだと思ってきたのですが、ご縁あって現在のゲーム会社に入社しました。それまで全く違う畑でさまざまな経験をしてきたのですが、この会社に入って受けた衝撃は忘れられません。当社のゲームクリエイターは「天才だ」と感動する場面をいくつも経験したのです。そして、その技術力、芸術性、発想力など、クリエイターの中に暗黙知として脈々と受け継がれているノウハウは、ゲームだけに留めているのはもったいないと考えるようになりました。そこで、ゲーム制作やエンターテインメントコンテンツ開発で培った技術やノウハウを他の業界の商品開発、サービス設計、コンセプトメイキング、UI(User Interface)/UX(User Experience)に役立ててもらう、「ゲームメソッドコンサルティング」というサービス事業を行う「スペシャルフラッグ」という専任組織を3年前に立ち上げました。そうした経験から、本日はオープンイノベーションの事例として参考になることをお話しできればと思っています。

田澤
私は、自分自身がテレワークを始めてから23年、テレワークで仕事のできる会社を設立して16年、そして企業のテレワーク、特に在宅勤務の導入を支援するコンサルティング会社を設立して6年になります。これだけ長くテレワークに関わってきましたが、社会はなかなか動かなかったというのが正直な印象です。ところが、特にここ1~2年のテレワークへの注目は驚くほど高まっていて、まさにイノベーションが起ころうとしている。働き方の変革によって、働く人も、企業も、日本全体が幸せになることが、私自身にとっての社会イノベーションだと思います。私は北海道に住んでおりますが、地方にいてもテレワークによってさまざまな可能性が広がります。そして、私の取り組んできたことが社会イノベーションに貢献できれば嬉しく思います。

夏野
僕は、社会イノベーションは「世直し」だと思っているんです。民間企業のイノベーションの事例を研究すると、意外にもそのモチベーションは「義憤」であったりします。「どうしてこんなダサいデザインなんだ」とか、「どうしてこんな非効率なことをしているのか」という憤りが1つのきっかけになって、画期的な製品やサービスが生まれている。社会イノベーションも、もっと世の中をよくしたいということが、動機であるとともに目的であるべきだと思っています。

社会イノベーションを実現するカギとは

八尋
それでは、社会イノベーション実現のカギについて、皆様と一緒に考えたいと思います。まず日立グループの社会イノベーション事業についてご紹介しておくと、私自身は、社会イノベーション事業を「家庭・職場・社会で起きている変化や、起きつつある変化を真摯に直視し、事業やシステム的な変化を生み出すために果敢に挑戦して取り組むこと」と捉えています。それは、日本企業がこれまで行ってきたことであり、だからこそ今日の発展があるのですが、最近は何か足りない視点があるのではないかと感じています。

例えば、日本では少子高齢化と人口減少が進んでいる一方で、世界では人口爆発が起きており、高等教育も不足しています。そこで、北米の大学を中心にオンラインで海外から授業を受講できる仕組みが急速に動き出しており、そうした学生の数が、実際に教室で授業を受ける学生を上回っています。その中の優秀な学生をグローバル企業が獲得するといったマッチングが始まっているなど、人材獲得や教育のあり方にもイノベーションが起きていると感じます。

日本における過去のイノベーションを振り返ると、図1のように、第1の波はエレクトロニクスで庶民の暮らし、生活を電化していくというもので、その明確な目標の下に社会は大きく変化しました。第2の波は情報化社会の到来ですが、情報インフラは普及したものの、あふれる情報と社会の変化に対して、うまくグランドデザインを描けなかったように思います。そして現在到来している第3の波は、人工知能をベースにすべてのものがサービス化される社会への変化です。イノベーションの舞台は社会であり、社会をどのようにサービス化していくのか、というビジョンが必要となっています。

画像: 図1 イノベーションの変遷 舞台は「生活」から「社会」へ

図1 イノベーションの変遷 舞台は「生活」から「社会」へ

その1つのヒントとなるのが、日立製作所と日立コンサルティングとで進めている、英国マンチェスター地域におけるヘルスケアサービスではないかと思います。これは、糖尿病の患者を減らすことで、医療費の削減と地域全体の活性化を実現しようというビジョンを、われわれと現地の関係者の方々とで共有することからスタートしたプロジェクトです。このように、社会の中で人と人、人と企業がつながっているサービス、ユーザーとパートナー双方が共同で作り上げるビジョンとシステムといったものが、これから社会イノベーションのカギになると考えられます。

そして、こうした時代における社会的課題の解決のために産業界や企業に求められる要素として、「生活者・利用者の目線でビジネスをリードするビジョン形成力」、「組織や産業の壁を越えた協創を可能にするパートナー形成力」、「法制度や規制、社会における行動規範」が挙げられます。これらについて、皆様とともに考えていきたいと思っています。

朝倉
ご指摘のように、社会イノベーションを起こそうとすると、多様な問題を同時に解決しなければなりません。そのためには、多様なものを1つにまとめるビジョン、あるいは変化を誘発するプラットフォームのようなものが必要ではないかと思います。日本の場合、個々の要素を精度よく追求することには長けているのですが、ビジョンやプラットフォームづくりで苦戦してきました。そうした現状を変えていくには、今までとは違う切り口で問題を整理し、アプローチしていくと同時に、人と組織の変革をもっと誘発していく必要があるのではないでしょうか。自分の専門性を突き詰めていくだけでなく、一木さんのように、ゲームに関心のない人があえてゲーム会社に入るというようなことが、新しいイノベーションのきっかけになるのかもしれません。

一木%
私どものサービスのクライアントには、ものづくり企業の方々が多くいらっしゃるのですが、当社クリエイターの視点から見ると、ユーザー視点や生活者視点というものが本当にあるのかと疑問に感じる場面に何度も出会いました。視線の先が社内であるケースがとても多いのです。日本はものづくり立国とか、技術大国とか、おもてなし文化などと言っている一方で、大企業のウォーターフォール型の開発現場では、社内の調整を優先したものづくりが行われ、その工数やスケジュール設計にとらわれて、「もっとこうしたほうがいいのに」と現場が思っても、途中で切り替えていくことが大変な困難を伴うという現実も知りました。そうした現場において、私どものゲームクリエイターたちが入っていくことにより、社外者という立場をフル活用し、積極的にエンターテインメントの世界の独自のノウハウを要素として加える提案をすることで、何らかの変革につながってほしい。そういう思いを込めて、毎日業務を推進しています。

八尋
そうした知の交流に、大いに期待したいと思います。

21世紀にふさわしい社会の仕組みとインフラを

八尋
ここからは、皆様にそれぞれショートプレゼンテーションをお願いいたします。まずは夏野さんからどうぞ。

夏野
私がまず強調したいのは、日本社会の危機感の欠如です。現在の日本がどれだけ危機的な状況にあるかを認識し直すところから、社会イノベーションというものを考えるべきだと思っています。日本のGDPが増えていないことはご存知のとおりですが、1人当たりの名目GDPを見ると、米国は1994年から2014年の20年間で200%成長しているのに対し、日本はほぼ横ばいです。これはつまり、日本の生産性がまったく向上していないことを意味します。

この20年間における米国と日本の一番の違いは、ITの活用だと思います。今後、日本は人口減少局面にあり、経済規模を成長させるためには、それを上回る生産性の向上が必要になります。図2の技術の部分に入るのは、IT以外の何ものでもありません。単に生産性を上げると言っても、昔のように少しずつ改善していくという方法では追いつきませんから、社会のあらゆる部分でイノベーションが必要になります。

画像: 図2 成長の方程式

図2 成長の方程式

そのためには、過去の延長線上に未来はないという割り切りをしなければなりません。これだけテクノロジーがあるのに、旧態依然とした会社組織。ITを徹底的に活用しなければいけないのに、紙の教科書。おかしいと思いませんか。21世紀なんです、われわれが生きているのは。新しいことは全部試してみなければいけない。そして、われわれのような年配者はサポートに回って、若い世代をメインアクターにするような改革を、思い切ってやらなければいけない。

メモリ(記憶)はコンピュータ、スマホやクラウドに任せて、人間の脳は創造力と想像力に特化すべきです。学校で日本全国の一級河川の名前を全部憶えることが必要ですか。暗記中心の教育体系も、資格制度も前面見直しすべきでしょう。そして、「Last One Feet」が解決された未来を想像して、私たちは社会をつくっていかなければいけない。「Last One Feet」とは、情報デバイスと自分の脳との間です。インターネットと脳は30年以内に直接つながるようになるでしょう。そうなると、僕が話していることが、ウェブ上の原稿を見ているのか、その場でクリエーションしているのかは関係ない。アウトプットの価値だけが意味を持ちます。そういう時代になったとき、われわれが今やっていることがどう変わるのかを想像しながら、社会の機能を1つずつ点検していくことが大事です。

柔軟な働き方「テレワーク」による社会イノベーション

田澤
皆さんテレワークという言葉はご存知でも、定義は答えられない方もいらっしゃるかもしれません。テレワークとは「離れたところで働く」という意味の造語で、基本的には「ICTを活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。また、それを週8時間以上行えば、その人はテレワーカーであるともされています。ただ、そうなると範囲が広がりすぎるため、図3に示したように、分類して考えると分かりやすいと思います。

画像: 図3 テレワークの分類と関連するキーワード

図3 テレワークの分類と関連するキーワード

テレワークはアベノミクスの成長戦略にも取り入れられており、2020年までにテレワーク導入企業を3倍に、また、週1日以上、終日在宅で就業する雇用型在宅テレワーカーを全労働者の10%以上にするという目標を立てています。そのような世の中になると、生き方も働き方も大きく変わると期待しています。

私は安倍総理にお目にかかったとき、「女性が10人いれば仕事に対する思いもさまざまです。適度に働きたい人には、育児給付金の増額や育児休業期間の延長が大事ですが、しっかり働きたい人には、保育園の待機児童対策をはじめ、柔軟に働き続けられるような施策が必要です」と、お話ししました。

テレワークは女性のためになるだけではありません。少子化による一人っ子の増加や、女性の社会進出、男性の未婚率増加など、さまざまな背景から、働きながら親の在宅介護をしなければならない人が増加します。そうなると、毎日朝から晩まで会社に来る人しか雇わない企業は、労働力人口が減少する中で、人手不足に陥ることでしょう。適切なテレワーク社会を実現するためには、これまでのようにテレワークでは限定的な仕事しかできないのではなく、クラウド上に会社の機能をおくなど、会社でも家でもできるように仕事のやり方を変えていくことが重要です。

私がテレワークの話をすると「ワークライフバランスとか、ダイバーシティとか、カタカナ言葉がいっぱいでよくわからない上に、今度はテレワークか」とよく言われます(笑)。そこで自分なりに整理したのは、ワークライフバランス=仕事と家庭の調和とは、人の生き方、つまり社員の生き方。ダイバーシティ=多様性とは、社会のあり方、つまり企業のあり方。そして、テレワークとはこれらを実現する働き方だと。私自身もテレワークが最良の働き方だとは思っていません。でも、これからの日本においては、テレワークという柔軟な働き方の「選択肢」がないと、企業も、働く人も、とても厳しい状況になっていくと思っています。

オープンイノベーションから社会イノベーションへ

一木
さきほど自己紹介で申し上げたスペシャルフラッグは「ゲームのすべてを、ゲーム以外に。」というテーマで活動しています。私どもバンダイナムコゲームスは、家庭用・業務用のゲーム、ネットワークコンテンツ、パチンコ・パチスロ向けの液晶基板およびコンテンツという4分野を事業の柱としています。その中で、当社グループの約1,000名のクリエイターたちが、20種類以上の専門職種にわかれて活躍しており、遊んでいただくデバイス・場面に応じて、数あるゲームの中からどうやったら自社製品を選んでもらえるのかを日々追求しています。また、私どもが提供しているゲームという商品は生活必需品ではありません。ですので、もしプレイ中に少しでもストレスを感じるとそこでやめてしまい、そのユーザーは二度と戻ってきません。そうした開発環境だからこそ培ってこられたゲームクリエイターの暗黙知をもとに体系化したものが「ゲームメソッド」です。

また当社は、数多くあるゲーム会社の中で唯一、旧ナムコの時代から、ゲームが人間に与える効能や影響を、人間工学、認知科学、発達心理学、医学、教育学などあらゆる分野の方々と共同研究、実証実験を繰り返し、分析・調査を行ってきました。そして、障がい者向け携帯用会話補助装置「トーキングエイド」や、九州大学病院リハビリテーション部の高杉紳一郎准教授と共同でゲームをリハビリテーションに応用した「リハビリテインメントマシン」を開発しました。さらに、学校図書株式会社と共同で、子供たちが開きたくなるような小学校向け文部科学省検定教科書の制作、総務省のモデル事業として、東京大学大学院の馬場章教授と共同で、電子黒板用小学生向け学習コンテンツ「あたまの給食 タマキュウ!」を制作したりするなど、ゲームのメソッドを活かした学習教材の開発も行ってきました。こうしたことが全て、ゲームメソッドコンサルティングサービスの礎となっています。

図4に、ゲームメソッドの5つのコアを簡単に示しました。このメソッドは、私どもスペシャルフラッグのアカデミックパートナーである立命館大学映像学部のサイトウ・アキヒロ教授が体系化されたゲームニクス理論の5原則と、ほぼ重なるものです。

画像: 図4 ゲームメソッドの5つのコアとその応用

図4 ゲームメソッドの5つのコアとその応用

家庭用ゲーム機のコントローラーには十字キーといくつかのボタンぐらいしかありませんが、ゲームクリエイターは、お子さんが説明書を読まなくても直感的に操作することができるようにUIを考えています。段階的に高度な操作を習得できるように設計することで、最終的には無理なく数百、数千のアクションを操作できるようになるのです。

一方で、身の周りを見ると、約60ものボタンのあるリモコン、直感的に操作できないタッチパネル、分厚いマニュアル……。自動販売機なんて、お客様をしゃがませて、左手で重いアクリルの扉を押し開けさせて、商品をわしづかみにして、そして立ち上がらせる。私どものゲームクリエイターのユーザー視点で自販機を創ったなら、こういうお客様に負担を強いるものにはならないだろうと思います。バス停も、路線図や時刻表の位置が高かったり、文字が小さく、平日土日が横一線に「分」表示が並んでいたりと不親切な表記になっていて大変見づらく、交通弱者のことを考えているとは言えないと思います。このようなことを考えながら街を歩いて見てみれば、世の中には、ゲームクリエイターの視点で見るとユーザーフレンドリーと言えないものが溢れています。

バンダイナムコゲームスの社員は常に「ファンファースト」の精神を大切にしています。ファンにはFanとFunという2つの意味があります。これから確実に増えていく外国人労働者にも扱いやすい機器のインタフェース、災害現場などでの産業機械の遠隔操作、お年寄りの見守りシステムなど、今後注目される分野でも、ゲームで培った技術やノウハウ、そしてエンターテインメントのおもてなしの心は、きっとお役に立てるはずです。私どもの進めてきたオープンイノベーションが社会の課題解決に結びつくことで、社会イノベーションに繋がっていくのではないかと思います。

科学技術システムの変革と社会制度システムの変革を

和泉
ゲームメソッドの5つのコアは、官庁の行政改革にそのまま活かしたいですね。私はさきほど申し上げた科学技術システムと社会制度システムの変革についてお話しします。日本が持続的発展を遂げるには、図5に示した4点の要素が必要だと思っています。

画像: 図5 科学技術システムの変革

図5 科学技術システムの変革

1点目は、「イノベーションによる生産性の向上」です。さきほど夏野さんから日本の生産性の低さを指摘されましたが、グローバル企業だけ見ると生産性は極めて高いのです。一方、ローカル企業、特にサービス業は極めて低い。けれど、日本の雇用、あるいは付加価値のかなりの部分を中小のサービス業が支えていることを考えると、これに真剣に取り組めば、まだ伸び代はあると思います。アベノミクスの成長戦略における戦略市場創造プランでも、健康・医療、環境・エネルギー、ITも含めた高度なインフラ技術などでイノベーションを起こして生産性を向上させることで、他国との競争において優位性が保てると考えています。

2番目は「新陳代謝を促す設備投資」です。企業が絶えずイノベーションを起こすと同時に自分の生産設備を変えていく、その掛け算が大事です。そして3番目が「労働力の確保」。人口の減少は深刻な問題で、放っておくと2100年に日本の人口は5720万、今の半分以下になります。そのため労働力の確保が必要なのですが、労働力とは、量、質、そして使い方の掛け算です。

量を増やす方策としては、子供を増やす、高齢者が健康長寿で働く、女性の社会参加、外国人労働者の受け入れなどがありますが、4番目は社会的なコンセンサスを取るのが難しい。また、子供は出生率が上がっても急には増えません。ただ、テレワークなども含めて環境を整備し、結婚したい男女が結婚でき、望む数の子供が生めるような環境とすることによって、人口は1億人くらいで安定すると試算されています。高齢化率も、放っておくと2100年には65歳以上が人口の40%を占めると推計されていますが、これも25%くらいで安定する社会が可能であると考えられます。質については、夏野さんや一木さんのご指摘のように教育を変えていくこと、そして、使い方は田澤さんの活動につながります。 バブル崩壊後、何となく停滞したムードが続いたこの20年間、問題点がわかっていても解決できないのではないかという諦めムードが漂っていたように思います。ここでもう一度元気を出して、科学技術システムの変革と社会制度システムの変革を通じて、チャレンジ精神を取り戻すことが、まさに社会イノベーションではないかと思います。

リーダーシップ×流動性×リスクマネー

朝倉
私がずっと関わってきた投資の掟というものは、単純化すると、リスクとリターンがトレードオフの関係にあるということです。成熟した社会では、投資だけではなく社会行動そのものにも、そうした関係性が強まります。開発途上国などでは、比較的リスクが低くても成長する分野があるのですが、成熟社会では、みずからリスクをとって新しい変化を起こさないとリターンも発生しません。そうした意味で、投資というのはリスクそのものを追いかけるものでもあるわけです。

組織が大きくなるほど本能的にリスクを避けてしまうのですが、実はリスクを避けるとリターンも得られなくなってしまいます。さきほどご指摘があったように、日本は20年間成長していないのは、そうした面が明確に出てきているのではないかと思います。

本日のテーマであるイノベーションも、さきほど申し上げたようにリターンはイノベーションから発生するということ考えると、イノベーションを起こすためにはリスクをとらなければいけない。逆に言うと、イノベーションというのは必ずリスクを伴うものであり、その覚悟で立ち向かわなければいけないものです。

では、イノベーションは何がきっかけとなって起きるのか。単純化すると、リーダーシップと、流動性と、リスクマネーの掛け算ではないかと思っています。まず、変化を起こすきっかけとなるリーダーシップが必要ですね。新しいものにチャレンジしていく、個人としてのリーダーシップも必要ですし、大きな社会インフラなどでは企業としてのリーダーシップも必要だと思います。

もう1つ重要なのが、実は流動性です。変化というものをサポートするのは、新しい人であったり、新しい資源であったり、新しい財であったりするわけですが、それらの流動性が高いと変化は起きやすくなります。和泉さんがおっしゃるように、規制改革によって社会全体の流動性を高めることがイノベーションの必要条件だと思います。
そして、それらを結びつけて大きな変化を起こすためにはリスクマネーが必要です。図6に示したように、リスクマネーには不確実性を支えることと同時に、特に社会イノベーションのように長期にわたる変革が求められる場合に、時間軸を延ばす、あるいは時間軸を支えていく役割があります。

画像: 図6 イノベーションを起こすには

図6 イノベーションを起こすには

日本の社会はだいぶ変わりつつありますが、リーダーとして目立つことを避ける雰囲気がまだ残っており、流動性も高いとは言えません。リスクマネーの提供機能も、先進国の中ではやや弱いところがあります。社会のさまざまな立場の方が、これらの要素をそれぞれ押し上げていくことが、社会イノベーションにつながっていくのではないかと思います。

数値では見えてこない日本の現場力

八尋
皆様、ありがとうございました。産業革新機構は、日本の金融のあり方などを変えてくために、官民共同で設立された投資ファンドであり、民間とは違う形でリーダーシップを発揮されていますが、手応えはお感じですか。

朝倉
日本の場合は社会構造、特に金融・企業構造が欧米と異なり、金融と企業の接点がかなり限定されています。これを変えていくことがわれわれのミッションで、民間ではできない分野への投資を行っています。まだ道半ばではありますが、5年ほど携わってきて感じるのは、日本企業は現場力が非常に強いということです。投資を検討する際にはリスクとリターンを試算しますが、欧米型の試算方法をそのまま日本に適応すると、投資不可という結果が出てくるケースが多いのです。しかし、そこで一歩踏み込んで投資をしてみると、欧米のやり方では見えてこない大きな成長力、潜在力のようなものが現場にあることが見えてきます。それは、誠実さとか忠誠心といった、極めてソフト的なものです。

また、数字の上では一人当たりの生産性が低くても、作業の精度やチームで動いたときの効率のよさなど、日本が世界でも圧倒的に優れている部分はまだまだあります。これを、もう少し広がりが持てるような形に変えていくことが、大きな成長のきっかけになるのではないかと思っています。そうした観点から、普通の投資案件としては少し厳しくても、日本の現場力に踏み込んだ投資領域をつくっていくことを心がけています。

八尋
さきほど夏野さんから若手に譲ろうというご意見もありましたが、いろいろな企業の方とお会いしてみると、実は年配の、60歳以上の方のほうが現場で新しいチャレンジをしようとされていて、若手のほうが早くスペシャリストになろうとしてリスクをとりたがらない傾向もあるように感じます。ですから、必ずしも若手に任せればいいとも言い切れないと思いますが、投資されるお立場からはどう感じられていますか。

朝倉
非常にいいご指摘をいただきました。変化のエージェントとしては、若い世代のほうが可能性を持っています。反面、実際に価値を生み出す現場力は、むしろシニアのほうが持っている。日本ではどうしても年齢で上下関係を考えがちですが、若手が企業の経営トップにいて変化の起点となり、シニアが実は現場を支えているという形が実現できるなら、イノベーションにつながるかもしれません。また、外部から異なる価値観を持った人材を招き入れることによって、年齢や上下関係というものの意識を変えられる可能性は十分あると思いますし、そういった変化は投資という観点からも関心の高いテーマではないかと思います。

日本人のよさを活かすために

八尋
夏野さん、社会イノベーションを実現する上で、今の日本に足りないものは何でしょうか。

夏野
日本には個人金融資産が1650兆円、上場企業の内部留保が330兆円など、お金がたくさんある。そして人材の質がものすごく高い。企業への忠誠心が高く、放っておいても働きます。もう1つ、技術力があるのは言わずと知れています。つまり経営の三種の神器が全部揃っているんです。問題なのは経営者です。われわれ「井の中の蛙はいけない」と言われて育てられたはずなのに、数十年間、同じ釜の飯を食っていた人だけで構成されている経営陣というのはどうなのでしょう。公務員も企業も、リーダー層をもっと流動化させることが必要だと思います。そういう意味でも、社外取締役の導入をもっと進めるべきです。経営陣、リーダー層の甘えが、日本の問題なのだと思います。

八尋
日本の可能性についてさまざまな示唆をいただきました。最後に一言ずつお願いします。
朝倉
日本には世界で勝ち残っていく力がまだ十分にあるということに、もっと自信を持っていいと思います。ただ、そのためには、やはり皆さんが意識して社会イノベーションを起こさなければいけないのだと改めて感じました。

和泉
1年半ほど前でしょうか、深夜の電車の中で、立て続けに財布の入った荷物を2回も忘れました。それが2回ともそのまま戻ってきました。たまたま運がよかったのかもしれませんが、こんな国はほかにありません。ですから、グローバルの競争の分野については徹底してイノベイティブでなければなりませんが、逆にそういった日本社会の良さについては変えないというイノベーションも大事だと思っています。

一木
本日はたいへん勉強になりました。企業の一員として、組織のあり方など考えさせられることも多く、皆様のご指摘をまずは自社に活かすことで、ひいては社会全体のイノベーションに貢献できればと思います。

田澤
さきほど夏野さんがおっしゃったように、日本人はすばらしい資質を持っていて、テレワークでもさぼらず、むしろ働きすぎるぐらいです。そうした日本人のいいところを活かせるような、日本型テレワークというものをつくり上げることができれば、もっと生産性も上がり、可能性も広がるはずです。社会イベーションは働き方の変革から起こります。

夏野
ITが登場して、21世紀になり、最も大きく変わったのは個人と組織のパワーバランスだと思います。20世紀にはどこかの組織に属していなければ専門家になれなかったのが、今はその分野に興味があればインターネットでいくらでも調べられます。そうした個人力の活かし方を、日本の高度成長期につくられた人事システムでは対応しきれていないことが、この20年の低迷につながっているのかもしれません。一方、米国では個人力を最大限に引き出すことで、新しい付加価値をどんどん生み出しています。今われわれに何ができるかで30年、50年先の日本の姿が決まります。頑張りましょう。

八尋
1つひとつ行動を変えていくことが、社会イノベーションにつながっていくと思います。本日はどうもありがとうございました。

(構成・文=関亜希子)

画像: 株式会社 産業革新機構専務取締役(COO) 朝倉 陽保氏

株式会社 産業革新機構専務取締役(COO)
朝倉 陽保氏

画像: 内閣総理大臣補佐官 和泉 洋人氏

内閣総理大臣補佐官
和泉 洋人氏

画像: 株式会社バンダイナムコゲームス 社長室 新規事業部 ゼネラルマネージャー 一木 裕佳氏

株式会社バンダイナムコゲームス 社長室 新規事業部
ゼネラルマネージャー
一木 裕佳氏

画像: 株式会社テレワークマネジメント 代表取締役 田澤 由利氏

株式会社テレワークマネジメント
代表取締役
田澤 由利氏

画像: 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授 夏野 剛氏

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授
夏野 剛氏

画像: 株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長 八尋 俊英

株式会社 日立コンサルティング
代表取締役 取締役社長
八尋 俊英

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