日本経済が好転し始めた今こそ、経済成長を確固たるものにし、世界の成長に日本が貢献する好機が訪れている。

日立グループは、成長はイノベーションによってこそ成し遂げられるという考えのもと、一丸となって社会イノベーション事業に取り組んでいる。

本基調講演では、日立グループの取り組みを紹介するとともに、日本、そして世界の成長に対していかに向き合い、持続可能で豊かな社会を実現していくためには何を成すべきかについて提言した。

株式会社日立製作所 執行役社長 中西 宏明

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世界の中の日本

画像: 世界の中の日本

本日は、「日立イノベーションフォーラム2013」にお越しいただき、誠にありがとうございます。

まず世界の中の日本というお話ですが、今日の世界経済発展の礎となっているグローバル化は、1990年の東西冷戦の終結以降から急速に進展してきました。本日の一番のテーマでもある国境を越える、あるいは境界を越えた貿易や海外投資が世界のGDP成長に大きく影響していることは皆さまもご承知のとおりです。最近のTPP( 環太平洋戦略的経済連携協定)の議論でもわかるように、国を越えた経済成長というのがもはや一つの大きな前提となっています。実際、いま世界で広がっているFTA( 自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)の加盟国が世界のGDP に占める経済規模のシェアは、2020年には約90%に達するともいわれています。そうした中、経済発展の著しい新興国においては、日本を100とした場合、通信などの分野はほぼ同等レベルですが、医療や教育といった生活の基盤分野はひと桁の数字だということがあります。そこには、日本など先進国の貢献が必要であり、日立グループも貢献をしていきたいと考えています。

一方、日本をはじめとする先進国においては、少子高齢化に伴う社会保障制度などの問題に代表されるように、サステナブルという言葉が非常に重みを増しています。
こうした世の中の課題をどう乗り越えていくかを私の独断と偏見でセットすると、三つのことが言えると思います。一つ目は集中から分散へ。例えば、これまで欧米や日本に集中した経済発展は、いま新興国といわれる国々によって世界中に広がっています。二つ目は所有から共有へ。例えば、ITの分野ではすでにクラウドになっていますし、交通の分野ではカーシェアリングがよい例でしょう。三つ目は消費から循環へ。これはリサイクル(再使用)ということだけではなくて、ありとあらゆるものを共有しながらうまく回していこうという発想です。こうしたことは、人・モノ・金・情報が自由に動き回るからこそ可能になることで、まさに境界を越えていくことが重要なポイントであると理解しています。

経済成長とイノベーション

続いて、経済発展とイノベーションについて考えてみたいと思います。私は、グローバルに連携していくことによって文化の交流が生まれる、基本的にはこのことが永続的な経済発展に結びついていくと考えています。先頃2020年の夏季オリンピック・パラリンピック開催地に東京が決まりました。前回は1964年、私は大学生になったばかりでしたが、その頃から海外旅行が自由化されて世界との距離がいちどに縮まっていったように思います。それが、その後の経済発展のベースにもなりました。もちろん人・モノ・金が自由に壁を乗り越えていくのは良いことですが、一方でそれによって発生するいろいろな問題を解決する必要があります。例えばエネルギー。これまでは供給サイドで対応すれば良かったのですが、いまはそれだけでは十分ではない。より循環型でサステナブルな使い方、つまり需要サイドでのマネジメントが必要になってきます。私たちの生活に身近な生産や流通の世界でみれば、IT抜きでモノを作ったり、お届けしたりすることはできませんし、グローバルなサプライチェーンや消費者指向の仕掛けなどがビジネスの重要なベースになっています。とくに最近では、WebやSNSなどの新しい情報メディアによるさまざまな展開、例えばネットショッピングやクラウドファンディングなどもそうですが、従来は考えられなかったような生活空間の広がりや基盤の広がりが出てきました。

経済の成長と社会の課題やニーズへの対応をしっかりバランスをとってやっていくことが大切ですし、そのために何をしなければいけないというのがイノベーションの課題でもありますし、解決していくことそのものがイノベーションであると考えています。

社会イノベーションに向けて

では、日立が実際にどのような社会イノベーションに取り組んでいるかということですが、まずその前提として、先ほどより申し上げている境界を越えるということを私どもに当てはめてみると、組織の壁をどう越えるか、あるいは規制の壁をどう越えるかというオープンな社会における経営や制度そのものをしっかり設計していくことが重要だと考えています。そして、それを推進していく鍵となるのが「情報」であると思います(図1)。

画像: 図1:情報活用による社会のイノベーション

図1:情報活用による社会のイノベーション

この情報の前提となっているのが、最近よく言われているビッグデータです。これはまさに天然資源で、データの収集、蓄積、分析といった領域でのITの進化によって活用できるようになったものです。とくに社会インフラの分野はビッグデータの塊です。日立ではこのビッグデータをうまく活用して、社会インフラの改善を実現していこうということで、都市、交通、エネルギー、水、ヘルスケア、金融、ロジスティクスなどの分野において、安全・安心、快適・便利、かつビジネスの成長につながるイノベーションをソリューションとして提供しようとしています。これを「社会イノベーション事業」と呼び、社会インフラを実際に動かしていく仕組みや技術、人材の訓練といったこともスコープに入れて取り組んでいます。

事例をいくつか簡単にご紹介します。英国都市間高速鉄道の事例です。よく車両のリプレースということで注目されますが、それだけではなく、車両のメンテナンスや予兆診断、運行管理、チケッティングなども含めたトータルソリューションに取り組んでいます。次に建設機械の保守サービスの事例です。これは建設機械にセンサーを取り付けて、その配置や稼働状況を監視し、通信網やクラウドを通じて一括して見えるようにし、ライフサイクル管理や機械の効果的な運用を実現するもので、これもトータルサービスとして提供しています。

エネルギーコストを下げる取り組みもあります。米国の通信事業者の事例ですが、通信というのは意外に電力を消費していて、その会社では年間数億ドルもの電力料金がかかっていました。これを総合的かつきめ細かな対策によってエネルギーコストが20~30%低減できるという提案をして、実際に下がったコスト分の10数パーセントを日立がいただくという契約で実現しています。お客さまにとっては、ビジネスの発展とサステナブルを両立できるわけです。

次は水資源への取り組みの事例です。日本の場合、上水、下水、農業用水、工業用水がそれぞれ独立して計画されていますが、それは水資源が豊富だからできることで、世界では水不足が深刻化しています。この事例はすべての水資源を一体で管理しようというものです。例えば、発展途上のある国では水源から利用者に届くまでの間に水の30%が何らかの理由で失われているそうです。そこで、センサーを付けて監視すると、漏水率を下げることができます。そのような仕組みをインテリジェントウォーターと呼んで、世界各国に提案しています。

ヘルスケアの事例もご紹介したいと思います。英国のNHS GM(※)という国民保健サービスの事例ですが、これは日立グループの健康保険組合の取り組みがベースになったものです。日立では、成人病、生活習慣病が増えて健康保険の負担もかかってくる対策として、これまで組合員の体重、血圧、血糖値などを基礎データとして蓄積し、ダイエットや病気予防に役立てる取り組みを行ってきました。この取り組みをNHS GMの方にご紹介したところ、ぜひ英国でもやってみたいということで、現在すでに糖尿病や心臓病の予防などに関する生活指導プログラムが走っています。これもまさにビッグデータとそのアナリティクスを用いた新しい社会イノベーションではないかと考えています。

※NHS GM:National Health Service England(Greater Manchester)

境界壁に挑む

ここまで成長に向けたイノベーションの考え方や日立の社会イノベーション事業の事例の一端をご紹介してきましたが、ではこれから先、何が挑戦で、何を企画して乗り越えていくかについて考えてみたいと思います。

私はここでもやはり人が起点でなければならないと思います。より人間寄りに、個人寄りに技術の開発、商品の開発、サービスの開発をしていくことが重要であるということです。幸い、ITを活用することでそれらを時間軸も含めて大きなスケールで考えることができるようになってきました。その中で、社会インフラの新しいハードウェアやサービスをしっかりとらえてビジネスを定義し、成長の糧にしていくことで、個人や社会の進歩につなげていけると考えています。そのためには文化あるいはカルチャーミックスということが非常に重要となります。例えば日本の文化を説明する際には、おもてなしとか、繊細な職人の技とか、美に対するこだわりといった特徴が語られます。こうした特徴はそれぞれの国によって違っています。その違いを一つの形にして世界に発信し、市場をつくっていくということです。これを日立では協創という言葉を使って、世界の中でコラボレーティブ・クリエーションをやっていこうという考え方で進めています。

画像: 図2:境界壁に挑む

図2:境界壁に挑む

少し具体的な話になりますが、私どものスタッフが「境界の壁に挑む」ということで図を作ってくれました(図2)。イノベーションは何があればできるのか、こうすればできるというのは簡単な話ではありませんが、こういうことがあるとやりにくいということはいくつもあります。例えば規制緩和というのは政治レベルで非常にホットな話題ですし、企業においても組織の壁、部門の壁、業界の壁などがあります。日立では「IT」×「社会インフラ」と言っていますが、これは情報・通信システム部門がサーバやストレージといった基本コンポーネントをどうビジネスするかというかつての時代から、さまざまなITサービスを提供する時代を経て、いまや電力や鉄道をはじめとするさまざまな社会インフラの領域において、お客さまや生活者の立場に立った時に、それらの部門とクロスして問題を解決していかなければならない時代になっていることを表しています。まさに組織の壁を越える、そこにイノベーションがあるということではないかと思います。

明日の成長に向けて

2012年、安倍政権の発足以降、三本の矢ということが言われています。大胆な金融政策、財政政策、そして三つ目が日本再興戦略、いわゆる新たな成長戦略です。経済成長を果たしていくためには、もちろん政府の役割には非常に大きなものがありますが、企業や民間の力を活用することも重要であり、最近では人材の育成とか、医療分野における規制緩和とか、民間の力を最大限に引き出すための議論が活発になっています。

こうした動きを受けて、日立もグループを挙げてこれまでお話してきた社会イノベーション事業というものを世界で求められるように真正面から展開していこうと改めて覚悟を決めているところです。そのことがよく理解されているかどうかはわかりませんが、最近、“日立さん、ビジネスモデルはB to B ですか、B to C ですか、それともB to B to C ですか”ということをよく聞かれます。私は、いま社内で一生懸命に取り組んでいるのは、ビジネスツー ソサエティ、B to Sだと答えるようにしています。ソサエティというと少し抽象化してしまいますが、具体的には、これまでの話に出てきたような市であったり、コミュニティであったりとさまざまですが、日立がつくって提供できる社会基盤を明確に意識した仕事の組み立て方をしていこうという方向性を持っています。本日会場にお越しいただいた皆さまの中には気づかれた方もいらっしゃるかと思いますが、そうした日立の思いをSOCIAL INNOVATION‐IT'S OUR FUTURE というキャンペーンスローガンでもってさらに推進していくということです。

日立が社会イノベーション事業ということを言い出してから三年半くらいになりますが、当初はお客さまからも従業員からも“社会イノベーション事業ってなんだ”ということをよく聞かれました。中には、“私のやっている仕事は社会イノベーション事業でしょうか?”といった質問を直接してくる従業員もいました。そこで私はよく言うんですが、“あなたの仕事はお客さまの役に立っていますか、革新的かどうかは別にしてバリューはありますか、バリューがあればそれはイノベーション事業です”と。ただここまでは簡単ですが、“バリューがあればお金を払ってもらえますよね、儲かるはずですよね、利益が上がればそれはイノベーション事業です”と言うと、下を向く人、上を向く人といろいろですが、やはり企業というのはバリューを届けなくてはいけないし、そのバリューというのは従来とはひと味もふた味も違う新しい安全・安心、快適・便利な生活基盤や社会基盤を追求したものであると思います。まあ最近ではさすがに“社会イノベーション事業ってなんだ”という話はなくなり、どうやってイノベーションをつくっていくかという議論に入れるようになっていますし、お客さまが知っている自分たちとは違った考えで物事を考えることがイノベーションにつながるという事例が出てきていますので、これもある意味、組織の壁を乗り越えた結果ではないかと考えています。

なにとぞ、これからも日立グループをよろしくお願いします。


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