Hitachi
お問い合わせお問い合わせ

本日は、日立イノベーションフォーラム2014にご来場いただきまして誠にありがとうございます。これから「人々の未来を拓く社会イノベーション~新たな協創による成長をめざして~」というタイトルでお話をさせていただきますが、まず導入として、地球という観点からエネルギーと水のインフラについて少し考えてみたいと思います。

エネルギー、とくに電力ですが、今世界中で電力のサービスを受けていない、供給を受けていない方々の数は未だ13億人とも言われています。電力をつくるには地球の限りある資源をさまざまに使うわけですから、効率的につくり、そして効率的に利用するというこの両方をこれまで以上にいかにうまくしていくかが地球規模で大きな課題となっていることがわかります。水についても同様です。地球はよく水の惑星と言われます。確かに地球には14億立方キロメートルもの水があると言われていますが、その97%は海水です。しかも残り3%の淡水のうち約70%は南極や北極の氷で、地下水や川など生活に使える淡水は地球上の水全体の1%にも満たないということになります。これもまさにいま地球規模の課題になっていると思います。

日立はそうした社会課題の解決に向けて、これまでさまざまな社会イノベーション事業に取り組んできたわけですが、これを今後とくにグローバルな舞台でしっかり展開していくのは、正直なところ簡単なことではないという実感を持っていまして、改めて社会イノベーション事業というものをもっとわかりやすく世の中に広めていく必要があると、経営陣も含めて深く認識していますので、今日はその社会イノベーション事業を今後どのように進化させていこうとしているかも含めてお話をさせていただきます。

新たな時代に向けて

画像: 新たな時代に向けて

まず「新たな時代に向けて」ということですが、20世紀と21世紀を対比して考えてみたいと思います。20世紀は科学技術を万能と見て、それでもって経済、社会をどんどん発展させた時代ではなかったかと思います。それが21世紀では、すでに14年経っていますが、単純に科学技術だけがすべてではなく、環境、生命科学といった従来とは異なる新たな知見、知恵が必要とされ、つまるところ人間性回帰が課題となってきています。そこに、大量生産・大量消費といった20世紀の工業化一辺倒の時代から、もう少し循環型な社会へと変えていかなければいけないといった課題も生まれてきていると思います。

例えば、エネルギーについては石炭、石油などの化石エネルギーから、自然エネルギー、再生可能エネルギーへの流れです。私ども製造業からすると、単純にモノを売るだけではなくて、いろいろな「コト」や「サービス」を組み合わせて、経済価値だけではなくて、社会的な価値があるものをお客さまと一緒につくり上げていくことが重要になってきているように思います。ただ20世紀の後半から一貫しているのは、インフォメーション・テクノロジー(IT)を活用したデジタル・ソサエティへの移行がものすごいスピードで進行してきたことです。私どもITをビジネスの核に据えている立場からすると、初期のITの目的は効率化とか省力化とか比較的わかりやすいものでしたが、現在では膨大なデータを集めて、そのデータを知識や知見へと変換して新たな知恵を創造していくといった形に変わってきています。ある意味では、人の知的創造を支える社会基盤になってきているということです。

21世紀の課題ということで、もう少しみてみたいと思います。エネルギーや環境については先ほどから出てきていますが、最近では食糧の問題も大変大きくなってきています。食糧はエネルギーや水などとともに国の安全保障とか、社会の安定性にも結びついています。また、とくに日本では少子高齢化に伴って社会の仕組みそのものがさまざまな矛盾を抱え始めています。一方、新興国では人口爆発ということで、貧困の拡大や格差といった社会課題が出てきています。ただこうした課題は昔から議論していたような気がしますが、ここにきて大変重要なポイントとなっているのは、距離と時間の概念が大きく変わってきたということです。昔は100年かけて大きな都市を築きあげていたわけですが、それが今は10年経つとがらりと変わった大きな都市が突然生まれていたり、また、遠い外国で起きたことがその日のうちに日本の経済に影響したりします。21世紀になって、そういう距離と時間が本当に短く速くなってきていますので、そういったことを背景としていろいろなことを考えていかなくてはいけなくなっていると思います。

いずれにしましても経済の成長は大変重要なことで、この日本を振り返ってみますと、過去20年間はほとんど成長を捨てたような形になっていて、これが問題をより難しくしてしまったという実感を持っています。今の安倍総理の新たな成長戦略、そしてそのリーダーシップに大いに期待したいところですが、私ども企業としても競争力をつけて新たな市場をつくり出していくことが大事ですし、先ほどの時間と距離の観点からしても、今後はさらにグローバルにビジネスを展開していくことが大切になってくると考えています。一方で、先ほどから述べているエネルギーや環境、都市といった社会課題の領域では、単独の技術や単独の製品、単独のサービスだけではなかなか解決することができません。やはりイノベーションによって、成長と課題解決の両立を図っていくことが非常に重要であると思っていますので、そういう意味で日立グループの社会イノベーション事業を改めてお話させていただきたいと思います。

日立グループの社会イノベーション事業

日立の社会イノベーション事業には、エネルギー、都市、交通、ヘルスケア、水、ロジスティクス、製造・建設、金融をはじめとしてさまざまな分野があります。その中から、エネルギーと水についてご紹介したいと思います。

まずエネルギー・ソリューションです。エネルギーと言いますと、電力をつくる発電所のイメージが浮かぶ方も多いかと思いますが、最近は少し変わってきています。例えば、太陽光発電。その中には、34万枚ものソーラーパネルを使って82メガワットという小型の火力発電所くらいの出力を出すものもあってメガソーラーと呼んでいます。日立ではこういったものの建設はもちろんですが、さまざまな再生可能エネルギーの活用だけでなく、電力流通を含めた新しい電力の使い方、つまり使う側に対してもいろいろな制御や最適化を図っていくようなシステムも提供しています。今後は家庭での電力についても、より合理的な使い方をすることで消費電力を下げるような仕組みを各地域や各国々に合わせたやり方で幅広く展開していく必要があります。私どもは作る側と使う側の両方から考えるエネルギー・ソリューションという言い方をしていて、会社の組織も従来の電力事業という呼び方から新たにITを高度に使ったエネルギー・ソリューション事業というようなくくり方をする組織に改めつつあります。

ここで、エネルギー・ソリューションの事例をご紹介します。場所はイギリスのグレーターマンチェスターというところです。プロジェクトの全体はNEDO(※)で掌握されていますが、その発端はスマートコミュニティの実証実験をぜひここでやりたいということでした。イギリスは再生可能エネルギーの活用を国の基本にしています。しかし、ご承知のように自然エネルギーというのはお天気次第で不安定です。通常ですとそれを補うバッテリーやダムが必要になります。ただイギリスはそんなに山がないからダムはつくれない。ところが、イギリスには面白い家の仕組みがあって、各家庭にはお湯をため込むタンクがあります。わりと寒いところだからだと思いますが、このタンクをエネルギーの貯蔵に使おうという発想です。日立はここでのエネルギーの制御で参画していますが、このように、地域に合わせてエネルギーをマネジメントしていくということがこれからは非常に重要になってくると思います。

次に、水についてです。地球の資源の中でも本当に貴重だということは冒頭でも触れました。日本は水に恵まれた国ですが、それだけではなくて、水の処理、あるいは運営・管理という面でも優れた技術を持っています。この技術を水資源が不足している国々で活用しようということで、日立ではインテリジェントウォーターシステムと言っていますが、上下水処理や海水淡水化などの高度な水処理システムと、情報・制御システム、シミュレーション技術などのITを融合したソリューション提供を中近東やアジアの国々で展開しています。

こうしたプロジェクトに取り組んでいくうえで最も肝要なことは、お客さまの課題がどこにあるかをお客さまと一緒になって見極めることだと、私は考えています。これを協創、コラボレーティブ・クリエーションと言いますが、これが実は非常に難しい課題です。この製品を買ってください、このサービスをぜひ評価してくださいといった会話からは、お客さまの課題はなかなか見えてはきません。お客さまとの信頼関係を築き、お客さま視点で、お客さまのビジネスのどこに課題があるかを検討していくことが重要です。とはいえ、個人の力量だけで課題を見つけ出すのも限界があります。そこで、ITをうまく使う、ツールをうまく使うということが重要で、もしデータを活用させていただけるのでしたら、ビッグデータやアナリティクスが有効なツールになると思います。ITでデータを集め、分析・予測して、お客さまの業務の改善や新しいサービスの創出につなげ、フィードバックしてサービスを革新していくというサイクルです。

私どもは、お客さまの事業の成長とさまざまな社会課題の解決を出発点と考えています。そして、上で述べたサイクルでお客さまと会話をさせていただき、日立グループの広範な領域の事業の経験やノウハウを活かして、お客さまの事業を革新していきたい。これが、日立の提唱する社会イノベーション事業です。

※NEDO:New Energy and Industrial Technology Development Organization(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)

社会イノベーション事業を進化させる

これまで日立はさまざまな社会イノベーション事業に取り組んできました。この社会イノベーション事業を今後どのようにして進化させていくかということがここからのテーマになります。キーワードは、「共生自律分散」です。

私どものこれまでの経験から一つ言えることは、ビジネスや社会の大きな課題に対応していくためには、個別最適では限界があるということです。その例を、JR 東日本様の東京圏の輸送システムでご説明したいと思います。これは運用がスタートしてすでに20年近く経つシステムで、ATOS(アトス)(*)と呼ばれています。このシステムは20線区、約300の駅の運行管理をリアルタイムで行うもので、そのポイントは各列車の制御を各駅のコンピュータが隣接の駅と連携して相談しながら決めていく完全な自律分散型となっている点です。一方、列車がどのように動いているかは全体で見ないといけないので、情報はすべて一か所で集中して管理しています。個々に何かあってもシステム全体は止まらない。必ず協調しながら動かしていくということです。実は、20数年前に私はこのシステムのプランナーでして、非常に思い入れのある、現在でも重要なシステムであると考えています。

私はこうした自律分散の考え方をさらに進化させ、鉄道という特定のシステムではなくて、社会イノベーション事業全体の基本的な構想に広げていくべきではないかと考えています。つまり、ビジネスや生活を取り巻くいろんな環境の変化をしっかりと検知して、その影響を分析・予測して、フィードバックをかけていくことができれば、さまざまな資源を無駄なく使えますし、いろいろな脆弱性にも対応できるシステムがつながっていくことで、全体が共存共栄できる最適な社会の仕組みができると考えているからです。

この連携と協調の仕組みが「共生自律分散」です。実は、会社の組織もこうして動いていくのが良いのではないかと考えていて、各ビジネスの責任者が自律的に運営して成長を図りながら、同時に相互に連携協調して全体の成長も図っていくことができるといいのではないか、と考えています。

*ATOS:Autonomous decentralized Transport Operation control System

協創によるイノベーション

「共生自律分散」のコンセプトが実際にどこまで広がっていくかはまだまだ途中段階ですが、その可能性ということで事例も含めてご紹介します。まず一つはエネルギーの例です。エネルギー・マネジメント・システム(EMS)という言葉があります。これには、BEMS(ビル)、FEMS(ファクトリー)、HEMS(ホーム)といろいろなタイプがあるわけですが、これらを一つひとつ考えるのではなくて、コミュニティ全体のエネルギー管理を連携協調して行うことでエネルギーの有効活用を図ろうという考えです。

一つの事例として、ハワイのマウイ島でのNEDOによる実証実験があります。ハワイでは州全体で全発電量に占める再生可能エネルギーの比率を40%まで高めようとしています。こうした再生可能エネルギーの普及に伴う諸問題を解決しようと、行政機関、電力会社、研究機関、住民などが参画したプロジェクトになっています。一つのポイントは、先ほどイギリスの事例でご紹介した貯湯タンクに代わりエレクトリック・ビークル(EV)のバッテリーを活用して、エネルギーを蓄えるということです。昨年(2013年)12月より、現地ボランティアの協力を得ながら運転を開始しており、ハワイのエネルギー需給の全体最適化という観点から非常に期待されています。

次の事例は、北米でのシェールオイル油田のお客さま向けに推進中の事例です。シェールオイルは、生産能力が異なる膨大な数の油井を効率よく管理して利益を最大化することがビジネス上のポイントとなります。そこで私どもにおいては、米国の研究拠点の一つ、ビッグデータラボがアメリカの大学と連携を取って研究を進めています。3万か所以上の油井からデータを集めて個々の油井の状況を把握しながら、油田全体に関するビッグデータ・アナリティクスを実施、その生産量や状況を把握、解析し、衛星写真と合わせてビジュアル化することで経営判断を支援していくというものです。これをアナリティクス・アズ・ア・サービスとして提供することを検討しており、石油やガスの生産管理を幅広くサポートする統合サービスの実現に取り組んでいます。

ここで、協創を支える技術について考えてみますと、今日、インターネットの世界でも、人と人とのコミュニケーションだけでなく、モノや機械の動きをカバーするインターネット・オブ・シングス(IoT)やインダストリアル・インターネット、あるいはドイツを中心としたインダストリー4.0といった新しい考えを社会の基盤にしていこうという動きがあります。日立ではそうした基盤のうえでもビッグデータのアナリティクスを使うことで新たな知見を導き出していくことが重要であると考えています。これは、日立の「共生自律分散」の一つのベースともなるものです。さらに、人の活動や関係、思考を支える技術を発展させて、人に合わせたシステムの実現をめざします。そして、各国政府や公共機関との連携、大学や研究機関との連携、そして地域住民という大きなパートナーと共に新たな協創に取り組んでいきたいと考えています。それがすなわち先端技術の開発にも結びついていくでしょうし、こうしたことを日本から世界へと広げていきたいと思っています。

夢あふれる豊かな社会の実現に向けて

私は、日本にはその文化に裏打ちされた多くの強みがあると思っています。モノづくりの技術、高性能・高信頼へのこだわり、きめ細かな価値観、調和の重視、さらには磨き上げたおもてなし…。日本企業というのはそういったことをほぼ身につけています。
私たちが世界のさまざまな国や地域で社会イノベーション事業を展開するうえで、これらは大きな強みであると言えます。ただ一つ大きな課題があるとしたら、多様性です。日本文化に弱みがあるとすれば、この多様性に対する取り組みや柔軟性の不足ではないかと思います。世界の国や地域に安全・安心、快適な社会を実現していくためには、これを乗り越えていくのが一つの大きなポイントとなります。そして、イノベーションを加速していくためには、人、モノ、金、情報がグローバルでセキュアに流通する環境をつくっていくことです。それが、日本を世界一のイノベーション・ハブにしていくためには非常に重要です。

日立はこれからも、世界各国・地域の仲間と共に、社会イノベーション事業を通じて人々の夢があふれる豊かな社会の実現に貢献してまいりたいと考えています。今後とも、なにとぞ日立グループをよろしくお願いします。

画像: 夢あふれる豊かな社会の実現に向けて
画像: 中西 宏明 株式会社日立製作所 執行役会長 兼CEO

中西 宏明
株式会社日立製作所 執行役会長 兼CEO

シリーズ紹介

楠木建の「EFOビジネスレビュー」

一橋ビジネススクール一橋ビジネススクールPDS寄付講座特任教授の楠木建氏の思考の一端を、切れ味鋭い論理を、毎週月曜日に配信。

山口周の「経営の足元を築くリベラルアーツ」

山口周氏をナビゲーターに迎え、経営者・リーダーが、自身の価値基準を持つための「リベラルアーツ」について考える。

協創の森から

社会課題の解決に向けたビジョンの共有を図る研究開発拠点『協創の森』。ここから発信される対話に耳を傾けてください。

新たな企業経営のかたち

パーパス、CSV、ESG、カスタマーサクセス、M&A、ブロックチェーン、アジャイルなど、経営戦略のキーワードをテーマに取り上げ、第一人者に話を聞く。

Key Leader's Voice

各界のビジネスリーダーに未来を創造する戦略を聞く。

経営戦略としての「働き方改革」

今後企業が持続的に成長していくために経営戦略として取り組むべき「働き方改革」。その本質に迫る。

ニューリーダーが開拓する新しい未来

新たな価値創造に挑む気鋭のニューリーダーに、その原動力と開拓する新しい未来を聞く。

日本発の経営戦略「J-CSV」の可能性

日本的経営の良さを活かしながら利益を生み出す「J-CSV」。その先進的な取り組みに迫る。

ベンチマーク・ニッポン

日本を元気にするイノベーターの、ビジョンと取り組みに迫る。

デジタル時代のマーケティング戦略

マーケティングにおける「デジタルシフト」を、いかに進めるべきか、第一人者の声や企業事例を紹介する。

私の仕事術

私たちの仕事や働き方の発想を変える、膨らませるヒントに満ちた偉才たちの仕事術を学ぶ。

EFO Salon

さまざまな分野で活躍する方からビジネスや生活における新しい気づきや価値を見出すための話を聞く。

禅のこころ

全生庵七世 平井正修住職に、こころを調え、自己と向き合う『禅のこころ』について話を聞く。

岩倉使節団が遺したもの—日本近代化への懸け橋

明治期に始まる産業振興と文明開化、日本社会の近代化に多大な影響を及ぼした岩倉使節団。産業史的な観点から、いま一度この偉業を見つめ直す。

八尋俊英の「創造者たち」~次世代ビジネスへの視点~

新世代のイノベーターをゲストに社会課題の解決策や新たな社会価値のつくり方を探る。

This article is a sponsored article by
''.