「Hitachi SOCIAL INNOVATION FORUM 2015 -TOKYO-」において、株式会社日立製作所 執行役会長兼CEO 中西宏明が「協創による価値創造 社会イノベーション」と題した基調講演を行いました。日立が進める社会イノベーション事業にとってカギとなる「協創」の考え方と実践方法について、事例をまじえてお話ししました。
日立が社会イノベーション事業を推進しはじめて6年が経ちました。社会イノベーション事業とは、日立の最新のITと、長年、インフラ事業で培った運用・制御などのオペレーションテクノロジー(OT)やモノづくり力をかけ合わせ、お客さまやパートナーの皆様と協業しながら、新たな価値を創造する取り組みです。しかしながら、この事業を進めれば進めるほど、大きな課題を抱えているという認識を強めています。イノベーション創出のために重要になるのが、お客さまやパートナーの皆様の知見を取り込む「協創」です。そこで今日は、社会イノベーション事業を進める上で重要な「協創」のアプローチについてお話しいたします。

新たなイノベーションの時代へ

はじめに、Chance、Data、Change、Openの4つのキーワードを手がかりに、社会イノベーションの前提について考えてみたいと思います。

1つ目のキーワードである「Chance」を探るためには、エネルギー、都市化、交通、スマート化、ヘルスケアといった各分野において、5~10年後、あるいは20~30年後にどのような変化が生じるのか、メガトレンドを押さえる必要があります。

たとえば都市化に関しては、「2020年までに世界の人口の56%、43億人が都市部に住むようになる」と言われ、都市の集積化が進むと予想されています。スマート化ということで言えば、デジタライゼーション(デジタル化)やIoT(Internet of Things)の進展によって、あらゆるモノがつながり、よりスマートになっていきます。ヘルスケア分野においては、対症療法から予防医療へといった具合に、「生活自体をより健康に」導く社会になっていくでしょう。エネルギー、交通も様変わりします。こうしたメガトレンドは世界が直面する課題であると同時に、未来をかたちづくる潮流でもあります。つまり、大きな変化に伴って社会課題が次々と登場し、それがチャンスを生みます。社会課題に直面して、その先の未来の姿を皆様と一緒に考えていくことが、新たなイノベーションにつながると考えています。

画像: 新たなイノベーションの時代へ

いま、世界中がこれらメガトレンドをふまえ、イノベーション創出に向けた新たな取り組みを開始しています。欧州ではドイツが「Industrie 4.0」を提唱し、OECD(経済協力開発機構)が中心になって「Horizon 2020」をまとめています。米国でも「Industrial Internet Consortium (IIC)」などが発足して、デジタル化によって社会のしくみが大きく変わろうとしています。中国も「一帯一路」「中国製造2025」「互聯網+(インターネットプラス)」といった言葉を掲げるとともに、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立するなど、国のあり方を大きく変えようとしています。

日本でも産業力強化に向けた動きが活発化しています。昨年(2014年)スタートした「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は、日本政府が新たな科学技術投資を、より社会に密着したかたちで展開していこうとする典型例です。先日、「IoT推進コンソーシアム」もスタートしました。経済産業省と総務省の両省の協力のもと、IoTが切り拓く産業や社会構造の変革に、産学官が力を合わせて取り組んでいこうとしています。

次に、「Data」です。データを使うためには、情報(インフォメーション)を引きだし、分析・見える化し、知識(ナレッジ)にまで高めていく必要があります。この一連のプロセスを皆様と一緒につくり上げていくことが、イノベーション創出にきわめて重要だと考えます。また、個人の情報をどう保護していくか、そういうことも含めて、課題があり、挑戦でもあります。

キーワードの3つ目は「Change」です。メガトレンドの中で、ルールやゲームそのものが変わろうとしています(図1)。モノづくりにおいては、大量生産・大量消費の時代から、一人ひとりに適したモノをつくっていく、マスカスタマイゼーションの時代になります。サービス提供の方法もSI(System Integration)からSaaS(Software as a Service)へと変わり、お客さまがすぐ使えるかたちで提供することが当たり前になるでしょう。企業のあり方も、独占ではなくシェアに価値が置かれます。また、ビジネスのやり方は、単独で進めるのではなくつねにパートナーと連携して進めていくかたちになる。業界の境目もなくなっていきます。イノベーションのあり方も、クローズドなイノベーションからオープンイノベーションになっていくのです。

画像: 【図1】ゲームチェンジ

【図1】ゲームチェンジ

最後のキーワードが「Open」です。メガトレンドが生み出す、複雑化し相互に連関しあう社会課題を解決しようとすると、そのアプローチは必然的にオープンイノベーションとなります(図2)。しかしその追求にはさまざまな工夫が必要です。たとえば製造を行う企業は、プロダクトだけではなくサービスも同時に考えて、他の業界と連携をとっていかなければなりません。ビジネスの組み立て方をオープンにしていくことで初めて、バリューへと到達できるのです。

画像: 【図2】オープンイノベーション より大きな価値を創造

【図2】オープンイノベーション より大きな価値を創造

このようなChance、Data、ChangeからOpenにまで至るプロセスを整理・構築していくことにより、日立の考える社会イノベーションが実践できると考えています。

日立の社会イノベーション事業

日立は、イノベーションを通じて社会課題の解決に貢献する社会イノベーション事業を、エネルギー、まちづくり、交通、ヘルスケア、水・資源、ロジスティクス、製造・建設、金融・公共などの分野でグローバルに展開しています。これらの各分野において、ITの知恵を盛り込んださまざまなソリューションを提供してきました。

今後はITに加えて、モノづくり企業である日立の強みであるオペレーションテクノロジー(OT)も利用して、IoTの時代に適合する新たな価値を提供していきたいと考えています。また、プロダクトだけではなくシステム化してサービスのかたちでお届けすることは、私どもにとって大きな事業機会になるととらえています。

ここまで社会イノベーション事業の理念に関してお話ししましたが、実際に社会課題を解決していくには、多くのステップが必要になります。まず、さまざまなステークホルダーとの課題共有が出発点です。その課題をいかに解決したらよいかを「見える化」する際には、ITによるシミュレーションが役立ちます。最大のポイントはビジネスモデルのデザインです。誰がどのようなベネフィットやバリューを得るのかを明確にし、検証・シミュレーションにより、具現化していく。このようなサイクルを高度かつスピーディーに回していくことが重要です。

また、連携・協調による全体最適のしくみとして、私たちは「共生自律分散」というコンセプトを提案しています(図3)。この言葉は、社会の複数のシステム間の連携・協調を意味します。つまり、目的の異なるシステム間でリアルタイムに情報を共有し、資源の融通や脆弱性の補完などを通して全体最適なシステムを構築するという概念です。さらにこの考えを、組織や地域、世界中の多様なステークホルダーにまで拡張して捉えようとしています。すなわち、ビジネスや生活を取り巻くさまざまな環境変化を俯瞰し、それぞれが自律的に活動しながら、有機的につながり、ともに生かしあうことで、社会全体の持続可能性をめざすというものです。このコンセプトをいかに実現していくかが、社会イノベーション事業に取り組む際のカギを握っており、そこに「協創」のアプローチが役立つと考えます。

画像: 【図3】「共生自律分散」

【図3】「共生自律分散」

社会イノベーションの協創に向けて

では、「協創」とは具体的にどのようなものでしょうか。日本語の「協創」は英語ではCollaborative Creationであり、言葉としては美しいのですが、出発点はそう簡単ではありません。互いに信頼しあえる関係をつくり、課題やビジョンを共有していかなければなりませんが、出発点でつまずくと、あとのプロセスがうまくいかなくなります。

そこで私どもは、オープンなプラットフォームとして「協創のフレームワーク」を構築しています。ここでめざすのは、お客さまやパートナーの皆様と「課題やビジョンを共有」し、「見える化・検証」し、「つないで、分析」し、「判断し、提示」する、「セキュア」な解決策をつくり上げるインキュベーションの場です。これら「協創」を実現するための手法、ツールをいくつかご紹介していきたいと思います。

(1)課題とビジョンを共有する:Exアプローチ

まず、「課題とビジョンを共有する」ための手法として、「Exアプローチ」があります。これは、できるだけ多くのステークホルダーが一堂に会して、ワークショップを実施し、率直に議論するというエクスペリエンス(体験)をベースにして、課題やビジョン、具体的なビジネス/サービスモデルについて、参加者の考えやアイデアを徹底的に引き出すことで、個々人のものの見方を共有できる場をつくり上げていく手法です。

その実例として、三井不動産様の「柏の葉スマートシティ」プロジェクトをご紹介します。このプロジェクトには、日立もまちづくりの計画段階から参画してきました。「30年プロジェクト」としてさらに開発を進めていくにあたり、三井不動産様は住めば住むほど価値が上がる都市空間を提供していきたいとお考えでした。そこで、現在の課題と将来のビジョンについて、Exアプローチで率直な議論をさせていただきました。Exアプローチでは、違ったものの見方を引き出し、そこで率直な議論ができる「場」のつくり方がポイントになります。実際にワークショップに参加された三井不動産様のメンバーの方々からも、「今だけではなくてその先を見据えて、よりレベルの高いユーザー視点で考えることができた」、「これまでとまるで違うアプローチであり、皆様に使っていただいた時間を無駄にしないように、責任をもって実現させたい」などの声をいただいています。

(2)見える化し、検証する:「NEXPERIENCE/Cyber-Proof of Concept」

次に、「見える化し、検証する」ためのツール「NEXPERIENCE/Cyber-Proof of Concept」をご紹介します。これは、課題を抽出したあとに、仮説実証をサイバー空間の上で実現するツールです。

このNEXPERIENCE/Cyber-Proof of Conceptを使った例として、中国の蘇州での事例をご紹介します(図4)。中国では都市の発展が急速に進む中、とりわけ工業都市ではロジスティクスが重要課題になっています。そこで、サイバー空間で、実データを反映したシミュレーションを行いました。その結果、渋滞を回避する配送ルートをとると、配送遅延率が下がる一方、配送コストが増加してしまうことがわかりました。一方、異業種共同配送を試してみると、配送遅延率も配送コストも下がるという結果を得ることができました。一企業の取り組みだけでは解決できない課題も、都市全体で最適化を図れば解決できることが、このような仮想的なツールを使うことによって、手軽に実証できるのです。

画像: 【図4】「NEXTPERIENCE/Cyber-Proof of Concept」物流ソリューション事例

【図4】「NEXTPERIENCE/Cyber-Proof of Concept」物流ソリューション事例

(3)つなぐ、分析する:ビッグデータ利活用基盤

見える化・検証を行ったあと、もう一歩戦略的に次の手を考えていくために、多種多様なビッグデータをつなぎ、分析して可視化していきます。私どもはデータを集め、貯めて、それを一次利用、二次利用と展開していく全体をサポートする役割を担っていきたいと考えています。そこで、今年(2015年)6月にペンタホ社という先進的なビッグデータアナリティクス技術を持つベンチャー企業を買収し、具体的な社会課題に対してビッグデータを役立てていくトライアルをすでに始めています。

(4)判断し、提示する:Hitachi AI Technology

AI(人工知能)の技術を使って「判断し、提示」しようと、日立はさまざまなパートナーの皆様と一緒に、AIの活用範囲をさらに広げていくためのトライアルを実施しています。たとえば、まちづくりにおいて地域の安全を確保したり、安全な自動走行を実現したりするために、大量の画像データや音声・動画データなどから必要なパターンや特徴を高速に検索・認識し判断する。ビジネスの効率を高めるために、企業の経営データや業務データ、人の行動データから有用な相関関係を見出し提示する。このようにAIをうまく活用することによって、社会課題の解決、あるいは皆様方の企業活動の戦略性の向上や事業展開のお役に立ちたいと考えています。

(5)守る、支える:セキュリティ

一方で、IoTの進展に伴い、制御機器の物理的なアクシデントやサイバーアタックにより、インフラストラクチャーの制御に不具合が生じるような事態も想定されます。そのような事態が発生すれば社会や国の基盤がゆらぐという危機感のもと、日立はサイバーとフィジカル(物理施策)、オペレーションも含めた、トータルシステムとしてのセキュリティソリューションに取り組んでいます。

パートナーと創る新たなビジネスのかたち

こうした「協創」の展開を図り、パートナーの皆様とともに取り組んでいく中で、さまざまなビジネスが生まれてきています。そのうちの4事例をご紹介します。

(1)水「Remix Water(海水淡水化・下水等再利用統合システム)」

1つ目の事例は海水淡水化・下水等再利用統合システム「Remix Water」です(図5)。海水淡水化では通常、水に圧力をかけて逆浸透膜でろ過するため、多大なエネルギーを消費します。Remix Waterは、海水淡水化を下水処理水などの水と混ぜ合わせて行うことにより、省エネを実現するもので、技術的には東レ様の膜技術と日立の浄水・造水・下水処理システムや海水淡水化システムの組み合わせにより実現しました。多様なステークホルダーと合意しながら、水全体をトータルで考えた、より省エネで合理的な水システムをつくっていく。価値・課題の共有に基づいた協創により可能となったシステムです。

このシステムは、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の出資のもと、北九州市で実証運用を行いました(「ウォータープラザ北九州」)。その結果、海水淡水化システム比で約30%の省エネ・コスト低減に成功しました。次はグローバル展開をめざし、2015年から南アフリカのダーバン市において、実証前調査が着々と進んでいます。単に技術を提案するのではなく、コラボレーティブワークの結果をふまえ、コラボレーティブワークの「やり方」も含めて提案して初めて、真にその社会に貢献できるインフラになるのではないかと考えています。

画像: 【図5】水「Remix Water」海水淡水化・下水等再利用統合システム

【図5】水「Remix Water」海水淡水化・下水等再利用統合システム

(2)エネルギー「バーチャルパワープラント(VPP)」

2つ目は、エネルギーソリューションである「バーチャルパワープラント(VPP)」の事例です。VPPとは、電気自動車に搭載されたバッテリーや各家庭に設置された太陽光発電システム、地域に設置した大型蓄電池などの小さな分散電源を統合運用する、バーチャルなパワーステーションのことです。その具体例が、日立が参画しているハワイ州マウイ島におけるNEDOによる実証実験であり、トータルで省エネ化し、なおかつ自然エネルギーの比率を上げていくプロジェクトです。5年前にスタートして、すでに実稼働に入っています。

ハワイにおいては州全体で全発電量に占める再生可能エネルギーの比率を、2030年までに40%まで高めようとしています。ただ、自然エネルギーは天候に左右されるため、バッテリーが必要になります。そこで、電気自動車のバッテリーを利用するしくみを考え、充電だけでなくて給電も行えるようにしました。センサーを用いることで、電力のアベイラビリティも把握できます。

電気自動車のバッテリーを地域の電源として活用するためにコミュニティ全体の合意を得るという試みは、ある意味で、壮大な社会実験と言えます。そこに日立が、多数のステークホルダーの合意形成に役立つしくみを用意できれば、大きな価値提供になるでしょう。このVPPのソフトウェアはクラウドによりSaaSとして提供し、さらなるグローバル展開を図っていきます。

(3)交通「英国Intercity Express Programme」

3つ目は、英国の鉄道での取り組みの事例です。英国での鉄道ビジネスは、日本での鉄道の車両ビジネスと大きく異なります。英国では国営鉄道の民営化に伴い、PPP (Public-Private Partnership)というスキームが採用されています。PPPにより、パブリックつまり政府が都市計画など全体像に関わる部分を担当し、その新たな都市計画によって想定される乗客数や料金体系などをもとに、トレインオペレーターと呼ばれる列車運行会社が実際の輸送提供を行っています。

そして私どもベンダーは単に列車を納入するのでなく、トレインオペレーターの作成する運行ダイヤやサービスレベルに適合した運行を保証すること(アベイラビリティコミットメント)によって代価をいただきます。つまり、定時運行、安全・快適な運行を実現するための「稼働保証」を行うのです。実際に、私どもはIntercity ExpressのClass 800の列車の稼働保証をするために、英国に十数カ所のデポの建設を始めました。

列車のアベイラビリティを上げていくためには、不具合の発生を事前に検出する予兆診断なども行います。それは必然的に、メンテナンスの最適化というサービス提供につながり、モノの提供からサービスの提供への大転換となります。このような取り組みにおいても、トレインオペレーターや英国運輸省との価値観の共有が不可欠です。われわれ日立は、単に列車を納入しているのでなくて、英国において社会のしくみづくりも一緒に行っているということを申し上げたい。それこそが協創だと考えています。

(4)地方創生

4つ目、最後の事例として、地方創生に向けたNTT様との取り組みをご紹介します。NTT様と日立は、地方創生への貢献を目的に、ビッグデータの利活用をベースにするなどの方向性で合意し、業務提携しました。まずは、行政の根本的な改善や、住民サービスのボトルネック解消といった身近な問題をテーマに、さまざまな取り組みを進めたい。たとえば先に述べたExアプローチによって住民の方々との意見交換の場を提供するなど、していきたいと考えています。今まさに始まったばかりですが、このプロジェクトは地方創生という漠然とした課題の解決にどのような知恵が役立つのかを探る、大きな挑戦だと考えています。

SOCIAL INNOVAITON - IT'S OUR FUTURE

日立が社会イノベーション事業に取り組んできたこの6年間で、非常に多くの課題が明らかになってきました。最大の課題は、実は日立の内部にあります。日立社員の多くは、これまでモノづくりに携わってきたので、どうしてもモノが売りたくなってしまう。しかし、モノを売る前に立ち止まって「お客さまのニーズが本当は何なのか」を考え、共有し、次のステップに向かっていかなければなりません。これは日立のカルチャーを変える大きなチャレンジと受けとめています。

そして皆様とも、「オープンイノベーション」と「協創」によって社会イノベーションを進めていきたいと考えています。新たな発想やイノベーションは多くの場合、ステークホルダーが集まってフランクにディスカッションする場から生まれます。オープンイノベーションと、協創による社会課題の解決と、その中でビジネスチャンスを生み出すことこそが、日立の社会イノベーション事業のあるべき姿であり、未来を創るアプローチだと信じています。日立の社会イノベーション事業が真に社会の進歩に役立つように、さらなる取り組みをしていきたいと思っています。ご清聴ありがとうございました。

画像: SOCIAL INNOVAITON - IT'S OUR FUTURE
画像: 中西 宏明 株式会社日立製作所 執行役会長 兼CEO

中西 宏明
株式会社日立製作所 執行役会長 兼CEO

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