最終回はアンバサダー・マーケティングの実践編。どのようにアンバサダーを発掘するのか。そして、継続的な改善のサイクルをどのように構築するのか。そのためには、効果を測定するための何らかの指標が欠かせない。また、マーケティング施策のポートフォリオ全体の中にアンバサダー・マーケティングを位置づけることも重要だ。アンバサダー・マーケティングに取り組むかどうかは別にして、ユーザーによるクチコミの理由を知る努力はすべての企業に有益な知見を与えてくれるはずだ。

画像: 徳力 基彦 (とくりき もとひこ)氏 アジャイルメディア・ネットワーク株式会社 取締役 CMO ブロガー

徳力 基彦 (とくりき もとひこ)氏
アジャイルメディア・ネットワーク株式会社
取締役 CMO
ブロガー

NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの1人として運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より現職。
ブログ以外にも日経ビジネスオンラインや日経MJのコラム連載など、複数の執筆・講演活動を行っており、2011年の登壇回数は100回を超える。また個人でも、WOMマーケティング協議会の事例共有委員会委員長や、政府広報アドバイザーなど幅広い活動を行っており、著書に『デジタル・ワークスタイル』『アルファブロガー』などがある。

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アンバサダーを発掘する3つの方法

アンバサダー・マーケティングに取り組む場合、最初の課題となるのはアンバサダーの発掘だろう。自社の商品やサービスが大好きで、周囲に推奨してくれるファンはどこにいるのだろうか。この点について、徳力基彦氏が提示する方法は大きく3つある。

画像: アンバサダーを発掘する3つの方法

「一番分かりやすいやり方は公募すること。『こういうプログラムを計画しています。皆さん、集まってください』と、ユーザーに呼びかけるのです。2番目は、傾聴です。ブログやツイートの内容を見て、商品名などにポジティブな言及をしているユーザーを探します。自社Webサイトへのリンクを張ったブログもあるので、そこから流入するトラフィックを見ることもできる。それは、ブロガーの影響力の大きさを示す材料になります。そして3番目は、これが実は一番基本だと思いますが、自社の会員システムの中から探すことです」

会員向けのポイントプログラムなどを運営している企業であれば、容易にロイヤルカスタマーを特定できるはずだ。

「顧客ごとに購買履歴などが分かるデータベースがあるなら、まずは、その中から探してみるのが一般的でしょう。すでにクチコミがある程度広がっている場合には、傾聴から始めてもいいと思います」と徳力氏は語る。

一定数のアンバサダーが集まれば、いよいよプログラムを実行に移す。その際、重要なポイントは継続的な改善である。

「1回だけの取り組みなら、あまり意味がありません。小規模でも構わないので、継続的に続けることが重要。PDCAサイクルを回しながら改善を繰り返し、マーケティングのヒントを見つけていくのです。1サイクル目で結果を出そうと思わないほうがいい」と徳力氏。アンバサダー・マーケティングの重要な側面は、人との関係づくりである。短期的な成果を追求するのではなく、息の長い取り組みが求められる。

効果を検証するための指標「NPS」

継続的な改善には、何らかの指標が欠かせない。一つひとつの施策について、効果を検証したうえでアンバサダー・マーケティングを進化させる。その際、指標は正しい方向に進んでいるかどうかを確認するための手段となる。

指標には様々なものが考えられるが、徳力氏が多くの企業に提案しているのがNPS(Net Promoter Score)である。NPSは商品やサービスの推奨者から批判者を引いた数値で示される。

まず、顧客に対して「商品やサービスを友人や知人に薦めたいと思いますか」と問いかけ、0~10までの11段階で回答してもらう。次に、回答者を推奨者と批判者に分類して、上記の引き算をする。例えば、推奨者50%、批判者20%なら、NPSは30。全員が推奨者なら100、全員が批判者ならマイナス100である。NPSの動きを見ることで、施策の効果を測定することができる。

画像: 効果を検証するための指標「NPS」

「NPSのポイントは2つ。1つは、満足度を聞く調査とは異なるということ。満足しているファンであっても、誰かに薦めるかどうかは別問題です。満足度は高くても、NPSが低いということはしばしば起こります。もう1つは、推奨者と中立者、批判者に分けて、それぞれの傾向を分析するというサイクルを重視していること。例えば、推奨者が気に入っているポイントを分析したり、批判される原因を探ったりすることで、次の改善策に役立てることができます」(徳力氏)

ただし、「この指標を使うのが正解」というものはない。徳力氏は「企業の業態やビジネスの実態によって見るべきポイントは違ってきます」と話す。

例えば、アンバサダー1人が平均して何人のユーザーを連れてきてくれたか、あるいはアンバサダー自身の購入額とアンバサダーの影響を受けたユーザーの購入額を合計するとどの程度になるのか。正確性についての議論はあるだろうが、米国企業の中には、こうした指標を使ってアンバサダー・マーケティングの効果をモニタリングしている企業も少なくない。

一方、こうした指標を作成するための基礎データが十分そろっていないという企業もあるだろう。企業によって使えるデータの質や量は異なる。どのような指標を見るべきか、見ることが可能か――こうした議論を重ねながら、自社に適したアンバサダー・マーケティングを工夫するほかないだろう。

ペイドメディア偏重からの脱却がカギ?

第1回で徳力氏が述べたように、アンバサダー・マーケティングは様々なマーケティング活動の中で行われる取り組みの1つであり、全体のポートフォリオの中に位置づけるべきものである。では、そのポートフォリオは具体的にどうあるべきだろうか。徳力氏は次のようなリソース配分をイメージしている。

「マーケティング分野では、3つのメディアに分けて考えることがよくあります。マス広告をはじめとするペイドメディア、オウンドメディアとしての自社サイトでの活動、ソーシャルメディアなどの評判を獲得するという意味でのアーンドメディアです。一般的な目安にすぎませんが、個人的には広告費の配分はペイド90%、オウンド9%、アーンド1%くらいのバランスから始めてみるのがちょうどいいのではないかと思っています。アンバサダー・マーケティングは、この1%の中に含まれます」

1%というと少ないように見えるが、「アーンドメディアに1%を使っている企業は少ないのではないか」というのが徳力氏の実感だ。

しばしば指摘されることだが、欧米と比べると日本ではペイドメディアの比重が大きいと言われる。最近はトリプルメディアという言葉も浸透しつつあり、3つのメディアのバランスやシナジー創出を重視する企業も増えているが、長年慣れ親しんだマーケティング手法を変えるには時間がかかりそうだ。

前回、徳力氏が「マスマーケティングに慣れている企業は、自分たちがプログラムをコントロールできると考えがち」との懸念を示したのは、ペイドメディア重視という日本企業の傾向を意識するからだ。ソーシャルメディア上の評判やアンバサダーの共感を、お金で買うことはできない。

念のために付言すると、それはアンバサダーに対してまったくインセンティブが発生しないということではない。徳力氏は次のように指摘する。

「商品サンプルや無料クーポンをアンバサダーに配るなど、ある程度のインセンティブを用意したほうがアンバサダー・プログラム全体の効果を高められる場合もあるでしょう。ただし、興味のない人にお金を払って無理やりブログで推奨してもらったり、広告であることを隠してやらせで宣伝してもらうといったやり方はやめたほうがいい。いずれバレてしまいますし、バレたときの悪影響が大き過ぎます」

顧客との対話力を磨く

画像: 顧客との対話力を磨く

最後に、アンバサダー・マーケティングに関心を持つ経営者やマーケティング担当者に向けたメッセージを徳力氏に伺った。同氏はまず「現在のマーケティング活動でうまくビジネスが回っているなら、無理にアンバサダー・マーケティングに取り組む必要はないと思います」としたうえで、次のように語る。

「どんな企業にも、ファンと呼べるような顧客はいるでしょう。その中には、周囲に『これ、いいよ』と薦めているファン、つまりアンバサダー的な人がいるはずです。そんな人たちはなぜファンになったのか、なぜ推奨しクチコミをしてくれているのか。そこにヒントがあると思います。もちろん、直接その理由を聞くという方法もありますが、ソーシャルメディア上の声を聞くこともできる。つまり、傾聴です」

現在、ソーシャルを含めたネット上の評判を定量化するツールは次々に登場している。

「コールセンターに寄せられた電話の記録、他の顧客接点で得た情報と傾聴を組み合わせることで、ユーザーの反応を多面的に把握することができます」と徳力氏は言う。こうして得られた知見はクチコミの理由を探る以外にも、様々な分野で生かすことができるはずだ。アンバサダー・マーケティングを導入するかどうかは別にして、それは顧客との対話力を高めるための大きな一歩になるはずである。


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