検索やソーシャルメディアの普及に伴い、「向こう(顧客)からこちら(企業)へ」のベクトルを重視する「インバウンドマーケティング」の概念が、企業の間でにわかに広がりつつある。同分野の第一人者として知られる高広伯彦氏に押さえるべき勘所を伺った。

第1回 なぜ今、注目を集めているのか? >
第2回 成功の鍵を握る2つのアプローチ >

日本企業がインバウンドマーケティングを実践するためには、乗り越えるべき課題がある。パイプラインマネジメントや組織の壁といった課題だ。しかし、壁を乗り越えた向こうには大きな可能性が広がっている。市場や顧客の変化を受けて、マーケティングやセールスのあり方は今後、さらに大きく変化することだろう。その変化に対応できるような組織、文化づくりが求められている。

画像: 高広 伯彦(たかひろ・のりひこ) 株式会社スケダチ 代表取締役社長 同志社大学大学院修了後、1996年博報堂入社。その後、博報堂DYメディアパートナーズ、電通、Googleを経て、2009年1月より独立し、現職。マーケティングコミュニケーション領域の企画、コンサル、ビジネス開発に従事。2013年8月、インバウンドマーケティングやB2Bマーケティングを中心としたマーケティングサービスを提供する株式会社マーケティングエンジンを設立し、2014年8月まで同社代表を務める。2013年にはHubSpotのAwardでAgency of the Year、New Agency of the Yearなど5冠を獲得した。

高広 伯彦(たかひろ・のりひこ)
株式会社スケダチ 代表取締役社長
同志社大学大学院修了後、1996年博報堂入社。その後、博報堂DYメディアパートナーズ、電通、Googleを経て、2009年1月より独立し、現職。マーケティングコミュニケーション領域の企画、コンサル、ビジネス開発に従事。2013年8月、インバウンドマーケティングやB2Bマーケティングを中心としたマーケティングサービスを提供する株式会社マーケティングエンジンを設立し、2014年8月まで同社代表を務める。2013年にはHubSpotのAwardでAgency of the Year、New Agency of the Yearなど5冠を獲得した。

マーケティングとセールスの間の溝

インバウンドマーケティングにおけるパイプラインマネジメントの重要性について、さらに踏み込んで考えてみたい。

「日本企業の多くは、長年続けてきたやり方に対するこだわりが強い。世の中に新しい手法やツールが登場したとき、それがいいものなら受け入れようと考えるのが米国流とすれば、日本企業はなかなかそこまでの割り切りができません。市場や顧客の変化に対応して、組織や業務プロセスを変えるという意識も薄いように感じます」(高広氏)

マーケティングオートメーションやCRMをはじめ、様々なITツールを導入する際、自社プロセスに合わせて重装備のカスタマイズを施す日本企業は少なくない。高広氏の指摘はインバウンドマーケティングに限らず、様々な分野で言えることだろう。

ただ、こうした日本企業のマインドも変わりつつあるように見える。カスタマイズには時間とコストがかかる。何年後かにバージョンアップしようと思えば、また同じような苦労をしなければならない。これでは、世の中の変化のスピードについていけない。市場や顧客の変化のスピードは、さらに加速しようとしているのである。

組織的な課題としては、マーケティングとセールスの溝がある。溝が深ければパイプラインは分断され、情報共有は進まない。マーケティング部門がせっかく集めた見込み客リストは、営業に生かされないまま忘れられてしまうかもしれない。

「多くの企業で見られることですが、営業部門はマーケティング部門が集めたリストより、自分たちが集めたリストのほうが質が高いと考えています。合理的な根拠はありませんが、ただ何となくそう思っているのです。2つの部門の間には、心理的な溝があります。営業部門はマーケティング部門に対して、『あんなにお金を使って、ムダなことをしている』と思っています。一方のマーケティング部門は『長期的な視野でブランディングや見込み客づくりをしているのに、営業部門は分かってくれない』と嘆いています」(高広氏)

これは、日本企業だけの問題ではない。米国で行われたある調査によると、マーケティングとセールスが互いに悪い印象を持っている企業の割合は80%を超えるという。高広氏は「同じ調査を日本でやれば、100%近い数字になるかもしれません」と言う。

マーケティングとセールスの溝をなくすことは困難だが、少しでも溝を埋める努力は必要だ。高広氏はまず、トップのコミットメントについて言及する。

「先ほど、B2CよりもB2Bのほうがインバウンドマーケティングを取り入れやすいと話しましたが、それとは別の観点で、中小規模の企業にも適していると思います。インバウンドマーケティングの施策は低予算でも実行しやすいということもありますが、規模の小さな企業なら、トップの意向が現場に届きやすいからです。大企業では部門間の利害が対立して前に進まないことでも、中小企業ならトップの一言で突破できることも多いのです」

低コストで海外市場を開拓する

パイプラインマネジメントの確立に向けて、SFAやCRMなどを導入する企業は少なくない。しかし、せっかく導入した仕組みが単なるレポートツールになっているケースも散見されると高広氏は言う。

「例えば、案件情報の入力といった基礎的なことができていない企業も少なくありません。パイプラインマネジメントには程遠い状態です」

入力を徹底させるためには、トップの強い意志が欠かせない。企業規模が小さければ比較的その意志を貫徹しやすい。もちろん、大企業なら入力が不徹底でもやむを得ないということではない。ただ、トップの意志は現場に浸透させるために、より大きなエネルギーを要することは確かだろう。

特に大企業に向けての、高広氏のアドバイスは次のようなものだ。

画像: 低コストで海外市場を開拓する

「マーケティングとセールスを同じ組織に入れている企業と、そうでない企業があります。インバウンドマーケティングをスムーズに導入できるのは前者。別々の組織になっている企業であれば、それを一緒にして事業部門内にマーケティング&セールス部門をつくるといった組織改編を検討してはどうでしょうか」

インバウンドマーケティングにより成果を上げる企業は増えつつあるが、日本では公表されている成功事例が少ないように見える。そこには、あまり自慢話をしたくないといった奥ゆかしさ、あるいはまねされたくないという心理が働いているのかもしれない。高広氏は次のように語る。

「日本における成功事例として見られ、他の企業にも採用してほしいと考えるのは、海外の見込み客の獲得です。インバウンドマーケティングの考え方を取り入れて、ターゲットとした国に向けたWebコンテンツを充実させ、見込み客を集めるといったやり方。ローカルニーズや国民性などを把握した上で、適切なコンテンツを現地の言葉で届けることで一定の反応が期待できます。わざわざ海外に営業用の支社を置いて電話外交してアポ先を各社訪問する時代ではもうない。日本にいながら海外の見込み客を得られる時代なわけです。これがインターネットがB2B企業に特に与える恩恵。まだ日本企業でそれに気づいて活用しているところは少ないですが。もしサイトに問い合わせがあったら、電話やメールなどでやり取りし、確度が高いと判断すれば日本や近くの海外拠点から営業担当者を派遣する。このほうが効率がいいし、コストはかからなくないですか? インバウンド需要は何も隣国からの旅行客だけの話ではなく、各企業がネットを駆使してインバウンド需要をつくり出せる時代なんですよ」

海外で営業活動を展開しようとすれば、以前は現地に拠点を設置するか、商社に依頼するといったやり方が一般的だった。インバウンドマーケティングにより、別のアプローチが可能になった。商材の特性にもよるが、海外のフロンティアを開拓したいと考えている企業にとっては有力な選択肢になりそうだ。

広告や営業のあり方が変わる

インバウンドマーケティングの考え方は今、様々なところに広がりつつある。その一例として高広氏はネイティブ広告を挙げる。ネイティブ広告は、記事などメインコンテンツの間に広告を溶け込ませ、ユーザーがストレスなくメッセージを受け取れるよう工夫されたものだ。

「ネイティブ広告は、一種のインバウンドマーケティング的な広告といえるのではないか。今後、顧客を邪魔しないインバウンドマーケティングの考え方は、様々な広告の中に入っていくと思います」

従来はアウトバウンド的、あるいは一方的に送りつけるだけと考えられていた広告も変わりつつある。こうした動きを、高広氏は「広告のコンテンツ化」と呼ぶ。

画像: 広告や営業のあり方が変わる

「顧客に楽しんでもらう、役立ててもらうというように、広告をより受け入れやすいものにする事例は増えています。でも本来広告やマーケティングはそのような側面がありました。テレビ広告を例にとると、1社提供が当たり前だった時代には、商品をコンテンツのような形で登場させる番組もあったのです。コンテンツとしての広告を考える上で、昔の手法から学べるものは少なくないと思います」

営業の領域では、最近インサイドセールスに注目する企業が増えている。確度の高い見込み客には営業担当者が直接フォローするのだが、確度が一定以下の場合は、営業リソースを投入すると非効率になることがある。こうした見込み客に電話やメールなどで対応して、案件を温めるのがインサイドセールスの役割だ。

「インサイドセールスには、インバウンドマーケティングの視点が欠かせません。これがなければ、単なる売り込み営業になるでしょう。例えば、『先日、この資料をダウンロードされましたが、よろしければ関連する別の資料もお送りします』といった情報提供のプロセスを通じて、より良質な見込み客にしていくプロセスがインサイドセールスです」

マーケティングと営業のプロセスにインバウンドマーケティングのマインドセットを埋め込むことで、顧客とのよりよい関係づくりを目指す。その取り組みは始まったばかりだが、そこには大きな可能性が秘められている。


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