大学で経済を学び、卒業後は、世界有数のコンサルティング会社に入社。のちに独立し起業を果たす―― この経歴を聞けば、きっと脇目も振らずエリート街道を歩んできた人だと思うだろう。しかし西山浩平氏の場合は、少々事情が違う。学生時代には、学業そっちのけで自作の彫刻を売り歩き、手作りの鞄制作に打ち込んできたというクリエイターなのである。そんな同氏が、インターネットの持つ“新たな価値を形成する力”によって、モノづくりの可能性を広げようと立ち上げたサイトが「CUUSOO(くうそう)」だ。異色のクリエイターが “空想”する、モノづくりの新しいカタチとは?

西山浩平 -Kohei Nishiyama-

1970年生まれ。10代を南米などで過ごした後、東京大学入学。在学中に鞄のオーダーメイド事業を手がけ、桑沢デザイン研究所で工業デザインも学んだ。卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、1997年「空想生活(現 CUUSOO)」を設立。2000年度グッドデザイン賞を受賞。2007年にはダボス会議主催の世界経済フォーラムにてヤング・グローバル・リーダーに選ばれている。2013年、一度は退いたCUUSOOの代表に復帰した。

夢をかなえるITの力「株式会社CUUSOO SYSTEM」前編


早すぎたブレークスルーのヒントとの出会い

入社したコンサルティング会社では、様々な企業の新規事業立ち上げと、インターネット事業を開発するチームで経験を積む日々を送る。そんな中、西山氏に衝撃的な出会いが訪れる。それは、『ネットで儲けろ』などの著書で名高い経営コンサルタント、ジョン・ヘーゲル3世が示したインターネットの可能性に関する主張だった。

「彼は“インターネットがもたらすのは検索機能だけではない。人と人をつないでコミュニティを形成し、その中で新たな価値が生まれることを促すだろう”と主張していました。私はこの考え方に強く共感し、モノづくりビジネスの可能性を広げるヒントを得たと思いました」と西山氏は振り返る。

インターネットを使えば、対面で行っていたオーダーメイド式のモノづくりを、遠く離れた顧客に展開できるかもしれない。同じ製品に興味を持つ人が集まるコミュニティができれば、1対1だったビジネスの相手を、複数の相手に広げることができるかもしれない。西山氏には様々なアイデアが浮かんだ。

だがしかし、1つ問題があった。それは、西山氏がこの主張に触れたのは、1993年頃のことだった点だ。WWW(World Wide Web)が1991年に登場したばかりで、まだ一般家庭にPCも普及していない時代。通信インフラも今のように快適なものではなかった。一般ユーザーを巻き込んで、新たな可能性の追求を実行に移すには、まだ早すぎる――。こうして西山氏は、数年の“辛抱の時代”を過ごすことになるのである。

そしてついに1997年。西山氏の言葉を借りれば「見切り発車」気味にコンサルティング会社を退社すると、西山氏は作り手と買い手のニーズをネット上でつなぐサイト、「空想生活(現 CUUSOO)」を立ち上げるのである。

“焦げ付かないモノづくり”をネットで実現

CUUSOOには、ファッション、インテリア、家具、文具、家電など、実に幅広い分野の製品写真やスケッチが並んでいる。これらは、個人のクリエイターやデザイナー、大学の研究室、企業など、様々な作り手側が「こんな商品を欲しい人はいませんか」と、発想段階、または計画段階のアイデアを投稿したものである。

画像: CUUSOOには、クリエイターやデザイナー、大学の研究室、企業など、様々な立場でモノづくりに携わる人たちからのアイデアが日々寄せられ、商品化の可能性を探っている

CUUSOOには、クリエイターやデザイナー、大学の研究室、企業など、様々な立場でモノづくりに携わる人たちからのアイデアが日々寄せられ、商品化の可能性を探っている

一方、これを見たユーザーは、気に入った商品があれば「投票する」ボタンを押し、そのアイデアを応援することができる。そして投票が一定数を超えると商品化が決定し、ブランドやメーカーの協力を得て実際に製品を作製。発案者はサイト上で商品を販売できるようになる。

大きな元手を持たずとも、優れたアイデアがあれば、需要を見込んだ商品化・販売を実現できる。さらにサイト内のコメント機能でユーザーの声を吸い上げ、製品改良に生かすこともできる。インターネットを使って、モノづくりの可能性をどこまで広げられるか――。それを追求した結果、CUUSOOは、クラウドファンディングの仕組みをいち早く取り入れたサイトにもなっていたのだ。

「学生時代、モノづくりの現場で感じた壁をどう乗り越えるか。その問いに対する私なりの答えが、いまのCUUSOOです。世界に向けて“作りたいモノ”を提示し、需要を把握した上で生産・販売する。“焦げ付かないモノづくり”を実現する場として、多くの人に活用してほしいと思ったのです」と西山氏は述べる。

LEGO社と協業する「LEGO CUUSOO」

さらに、この仕組みを生かして展開するのが、世界的なブロック玩具企業、LEGO社との協業による「LEGO CUUSOO」である。

画像: LEGO社との協業で展開する「LEGO CUUSOO」。ユーザーが持つ「こんな商品が欲しい!」という願いをLEGO社に届ける貴重な場となっている。

LEGO社との協業で展開する「LEGO CUUSOO」。ユーザーが持つ「こんな商品が欲しい!」という願いをLEGO社に届ける貴重な場となっている。

画像: LEGO CUUSOOでは、商品化を望むサポーターが1万人集まると、LEGO社が商品化を検討。LEGO CUUSOOからは、7つのアイデアが実際に商品化されている(2014年3月現在)。

LEGO CUUSOOでは、商品化を望むサポーターが1万人集まると、LEGO社が商品化を検討。LEGO CUUSOOからは、7つのアイデアが実際に商品化されている(2014年3月現在)。

LEGO CUUSOOでは、ユーザーが「こういう商品が欲しい」というアイデアを投稿し、支持者が1万人を超えると、LEGO社が正式に商品化を検討。実際に商品化されると、アイデア提案者には売上の1%がロイヤリティーとして支払われる。同サイトでは、これまでに「有人潜水調査船しんかい6500」や「小惑星探査機はやぶさ」など7製品が商品化されている(2014年3月現在)。

世界的な企業を動かすほどの影響力を、インターネットを使って生み出す。それはまさにITによる社会変革である――そう捉えることもできるが、西山氏は「考え方の順序を間違えてはいけない」と言う。

「IT技術は素晴らしいものですが、本当に重要なのは、それをどう使うかです。時代とともに人間の行動様式は変化し、そこから新たな要求が生まれてきます。その要求を満たすために、どんな道具を、どう使うか。ITは選択肢の1つであり、ITが人々の要求を生み出すわけではない。その点を忘れてはいけないと考えています」(西山氏)

一度は手放したCUUSOOをさらに磨き上げる

画像: 一度は手放したCUUSOOをさらに磨き上げる

実は西山氏は一度、自らの手で立ち上げたCUUSOO事業を離れ、その運営を他人の手に委ねたことがある。

「事業を立ち上げ、学生時代に突き当たった壁に自分なりの答えを見つけ、さらに黒字化も達成した。そこまでいったら、会社ごと人に譲るという、事業活動、企業経営に関するすべてのサイクルを体験してみたいと思ったんです」(西山氏)

そうした“一通り”のことを体験したうえで、2013年、西山氏は再びCUUSOOに戻ってきた。目指すのは、CUUSOOの存在感を、日本のみならずグローバルでも高めることだ。「空想生活」だったサイト名を「CUUSOO」に変更したのもその一環である。

「日本はこれから少子化の時代を迎えますが、アメリカの人口ピラミッドを見ると10代の層が多くなっている。つまり、新しい変化の鍵を握るのは英語圏の10代になると私はにらんでいます。では、彼らの欲求を満たすデザインとは何なのか。欲しがっているモノや仕組みは何か。それをどう届ければ歓迎されるのか。要求の変化をしっかり見極め、それに応えられるよう、CUUSOO事業に磨きをかけていく。それがこれからの私のチャレンジです」(西山氏)


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