歴史を振り返ると、産業革命に始まる工業化社会の拡大を経て、エレクトロニクスの発達によってコンピュータが登場し、今日につながる情報化社会が到来した。

情報化社会では、「より速く、より大量の情報を、より効率的に」処理できるITシステムを持つことが競争優位の源泉となる。その後、情報化社会はさらに進展し、パソコン、インターネット、スマートデバイスなどのコンピューティング環境が個人レベルまで浸透。「いつでも、どこでも、より身近に」情報を利用できる環境が整い、「ITの利用技術」に価値の中心が移行するとともに、人々のワークスタイルやライフスタイルを変えていこうとしている。

しかし、こうした情報化社会の進展やITの進化によって、社会がどれだけ快適で豊かなものになったかというと、まだまだ多くの課題が山積しているのが実情だ。

地球温暖化や資源問題などへの対策が急務となっており、日本をはじめとする先進諸国では少子高齢化が深刻な問題となっている。一方、経済発展の著しい新興国はどうかというと、人口の爆発的な増加と急速な都市化に社会インフラ整備が追いつかず、環境やセキュリティ(交通渋滞、ゴミ問題、エネルギー問題、スラム化、経済格差など)、あるいは教育、健康、ヘルスケアなど、さまざまな社会課題が顕在化してきている。

こうした課題解決も見据え、日立が進めている社会イノベーション事業への取り組みの全体像を紹介する。また、その1つの事例として、世界各地で稼働している建設機械の稼働情報をリアルタイムに把握・診断し、予防保全や効率的なオペレーションを実現する日立建機のGlobal e-Serviceへの取り組みにスポットをあてる。

画像: 日立建機 開発本部 開発支援センタ 情報戦略部 部長 瀧下 芳彦

日立建機 開発本部
開発支援センタ
情報戦略部 部長
瀧下 芳彦

画像: 日立製作所 情報・通信システム社 スマート情報システム統括本部 戦略企画本部 本部長 香田 克也

日立製作所 情報・通信システム社
スマート情報システム統括本部
戦略企画本部 本部長
香田 克也


「競争から共生へ」の転換をめざす

画像: 「競争から共生へ」の転換をめざす

工業化社会から情報化社会を経て、さらにその先にどんな社会をめざすのか―。まさに現在は、大きな時代の転換期に立っていると言える。この新たな時代に向けて、日立が掲げているのが「競争から共生へ」というビジョンである。日立製作所 スマート情報システム統括本部 戦略企画本部の本部長を務める香田克也は、次のように語る。

「経済発展において競争原理が大切なのは言うまでもありませんが、さまざまな社会問題を解決するためには競争を煽るだけではだめで、これからは共生という考え方が非常に重要なファクターになると考えられます。地球のリソースは有限であり、全体をうまく調和させながら、より良く機能させるための仕組みが求められるのです」

わが国のような成熟した市場において、単にシェアを奪い合うだけの競争を繰り広げたとしても、本当の意味での成長はありえない。むしろ、どんどん空洞化を招くばかりで、雇用の拡大や人々の生活の豊かさといった価値にはつながっていかない。

そうではなく、内需や外需といった枠を越え、さまざまなプレイヤー(企業や組織)やコンシューマーが有機的に結びついていくグローバルなエコシステム(生態系)を築いてこそ、そこに新たなサービスやビジネスが生まれ、さらなる発展や成長をもたらしていく可能性が広がっていくのである。

限りあるリソースを分け合いながら、過剰で必要以上の生産や消費に走ることなく、お互いにシェアすることで皆が「ちょうどいい」状態で、より良い生き方を追求していく。こうした価値観のもとで今後求められる社会のあり方を、日立は「共生(symbiosis)自律社会」と位置づける。「共生自律社会」とは、個人、企業、公共など、さまざまな主体が、個別最適を追求し競い合うのではなく、連携し合い、助け合い、分かち合う「共生」によってさまざまな課題を解決し、社会全体の持続的な繁栄を可能にする社会である。同時に、変化し続けることを常態とし、さまざまな主体が相互依存することなく「自律」した調整メカニズムを持つことで、活動を止めることなく全体調和の状態を維持していく。

ただ、従来型のインフラの上に、こうした全体調和を実現するのは困難だ。これまでにない新しい概念に基づいたインフラによってこそ、社会にイノベーションを起こすことが可能となる。
「ITによる社会インフラの高度化、革新こそが安全・安心な社会を実現し、ビジネスや生活をより快適で豊かなものにしていきます。その上にできあがるのが、競争による活力をエンジンにしながら、持続的に発展していく共生自律社会なのです。日立は、得意とする社会インフラシステムによって共生自立社会づくりに貢献していきます。これを社会イノベーション事業と位置づけ、日立のビジネスの中核とする考えです」(香田)

共生自律社会の基盤となる「モノづくり技術」「OT」「IT」の融合

共生自律社会を実現するイノベーションを起こしていくためには、具体的にどんな取り組みが必要となるだろうか。

「そこでは、生活者と事業者、事業者と環境問題など、異なるステークホルダー間で相反する利益をどうやってバランスさせるかが最大の課題となります。高信頼、高品質な製品、社会インフラシステムを生み出す『モノづくり技術』、そのシステムを最適に動かす制御・運用技術である『OT(オペレーション・テクノロジー)』、システムの状態を把握して情報を分析し、次の状態を予測する技術である『IT』を融合することが、イノベーションに向けた鍵となります」(香田)

例として、新幹線のような高速鉄道インフラを構築することを考えてみよう。モノづくりの現場では、時速300キロメートルを超える高速鉄道車輌を実現するための膨大な知識と情報、ノウハウを持ち、データベース化やドキュメント化も行われている。しかし、そうしたモノづくりの知見が、インフラシステムの運用プロセスに直接的に生かされていくには課題があり十分とは言えない。メンテナンスの現場では、個々のパーツの耐用年数をベースにしたマニュアルに基づいて、点検や交換のスケジュールが組まれ実行されているが、製造と直結した取り組みが行われるには若干の距離もある。また、そうしたメンテナンス現場における日々の努力も、地球環境とのバランスや顧客サービスの向上といった課題解決には必ずしも結びついていない場合がある。

画像: 共生自律社会の基盤となる「モノづくり技術」「OT」「IT」の融合

すなわち、「モノづくり技術」と「OT」「IT」の融合は、それぞれの現場が持つ知識や情報を動的かつリアルタイムに連携させて共有化する。この例でいえば「今、この時代において最適な快適性、環境性能、および経済性をバランスさせた高速鉄道車輌とはどのようなものか」を、インフラづくりに関わっている誰もが知り、理解するという「共通善」(同じ目標や価値観)を導いていくものなのである。これによって、刻々と変化する関係性の中において、課題解決のためのより正しい判断・選択を行うことが可能となり、きめ細かなインフラシステムの運用を実現することができる。

「日立はもととも強みとしてきた『モノづくり技術』『OT』『IT』をもとに、EPC(エンジニアリング、調達、建設)だけでなく、ファイナンスや運用保守サービスにいたるトータルソリューションを強化し、社会インフラの高度化やビジネスの革新をさまざまなお客さまとの協創によって実現していきます」(香田)

日本企業のクオリティの高さは必ず世界で受け入れられる

先に例として挙げた高速鉄道のインフラづくりに向けた取り組みは、すでに実際のグローバルなプロジェクトとして始動している。英国運輸省と日立の協業によって進められている高速鉄道車輌事業プロジェクトがそれで、現地での車輌製造から運行管理、保守までのトータルエンジニアリングをめざしている。

「車輌上のセンサーからリアルタイムに情報を取得して状況・状態を監視し、部品管理などのシステムと連携させることで保守コストを最適化します。また、日立が国内の鉄道事業者の皆さまと培ってきた技術とノウハウを生かし、フレキシブルな運行計画の作成、障害発生時の迅速な運転回復など、地域のニーズに合ったきめ細かな制御で運行安定化を実現します。さらに、ICカード乗車券システムなど付帯サービス提供へとグローバルに提案していく考えです」(香田)

また、米国ハワイ州においては、離島での化石燃料に依存しないエネルギーインフラの構築をめざして独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が行うスマートグリッド実証に参加し、2030年にマウイ島内の全体発電量の40%を再生可能エネルギーに置き換える計画だ。

スマートグリッドとならぶ社会インフラ改革のテーマとして注目が集まる「インテリジェントウォーター」の分野では、限りある水資源の有効利用のため、先進の水処理システムと情報制御システムを融合。地図情報(GIS)や遠隔監視の水質計器などを活用し、水道の配水量や水圧分布をリアルタイムで監視・制御することで、最適な水循環を実現する街づくりに貢献している。

その他、衛星画像を利用して農作物の生育状態を解析し、収穫時期と順番を最適化することで品質と収益を向上する農業分野での取り組みや、国内外で進行するさまざまなスマートグリッド関連の実証など、日立が社会イノベーションに向けて手がけているプロジェクトは、業界業種を問わず多方面にわたる。

「こうした社会イノベーション事業を進めることが、日本や世界の発展へとつながっていきます。日立をはじめとする日本企業のクオリティの高さや優秀性は、必ず世界で受け入れられると確信しています」(香田)

精緻なモノづくり技術、OTとITの連携によるきめ細かなサービスという日本の強みを生かすことで、社会イノベーションへの期待はより一層高まっていく。

建設機械のライフサイクルを支援するGlobal e-Service

「モノづくり技術」「OT」「IT」を融合した社会イノベーションへのチャレンジとして、日立建機における取り組みにスポットをあてておきたい。

日立グループの総合建設機械メーカーである日立建機は、顧客のニーズに応える「独創的な技術の創造」と、顧客に新しい価値を提供する「需要の創造」という2つの創造を通して、顧客の経営に貢献する事業を展開してきた。

ただ、リーマンショック以降の建設機械の需要構造は、これまでの先進国から新興国を中心とした市場へと急速に変化している。また、技術面では環境意識の高まりにより、排出ガス規制強化への対策や省エネルギー化が強く求められるようになった。こうした事業環境の変化に柔軟に対応し、持続的な成長を実現するためには、経営基盤のグローバル化をさらに進めていく必要がある。

画像: 建設機械のライフサイクルを支援するGlobal e-Service

そこで日立建機が推進しているのが、モノである建設機械が発信するさまざまな稼働情報を、ライフサイクル全般にまたがったサポートに活用する「Global e-Service」と呼ばれるサービスである。日立建機 開発本部開発支援センタ 情報戦略部 部長の瀧下芳彦は、同サービスのねらいをこのように語る。

「建設機械の市場は新興国を除いて成熟期にあり、製品性能のみでの差異化は難しくなりつつあります。このような状況においては、販売後のアフターマーケットにおけるサービス対応がますます重要となっています。お客さまのニーズは、建設機械の稼働率を上げ、メンテナンスコストを低減したいというところにあり、これに応えるために各社はITを活用し、遠隔から建設機械を管理する仕組みを相次いで導入しようとしています。Global e-Service は、その取り組みの先駆けとなるものです」

世界中で稼働する建設機械のデータを集約

日立建機における建設機械のライフサイクルサポートへの取り組みは、2000年6月に油圧ショベルの「ZAXISシリーズ1型」に同業他社に先駆けて衛星通信端末をオプション搭載し、稼働情報を遠隔から収集できる「情報ショベル」として販売を開始したことに端を発する。2005年10月からは、建設機械の稼働情報だけでなく、関連するマニュアルやカタログ、技術ドキュメントなどの「モノづくり技術」に関する情報も同じITシステムで一括して管理するようになり、Global e- Service へと発展していったのである。

そして、2006年4月に「ZAXIS - 3シリーズ」を製品化するにあたって衛星通信端末を標準搭載することとなり、本格的な展開が始まった。

「これを機に、大量のデータが集まるようになりました。また、2011年にライフサイクルサポート本部という部署ができて、社内の運用体制も整いました。現在、Global e-Serviceは20か国語に対応し、82の国や地域で利用されており、約2万4000社の登録会社、約6万人のユーザーに有用な情報を提供しています」(瀧下)

具体的にGlobal e-Service がどんな役割を担うのかというと、そこには大きく次のような3つの機能がある。

(1)建設機械が生産されてからその寿命を終えるまで、ライフサイクル全般に関わる生産、品質、稼働、技術、販売、サービス履歴の情報を収集する。

(2)収集した情報を蓄積し、一元管理する。

(3)蓄積・管理する情報を、モノづくりに携わる日立建機の各部門や代理店、建設機械のオーナー、ユーザーなどの階層に応じて利用範囲を定め、セキュリティを担保した上でメニューとして提供する。

画像: 建設機械データ利活用の仕組みと事例 ― Global e-ServiceとHiTMAP ―

建設機械データ利活用の仕組みと事例 ― Global e-ServiceとHiTMAP ―

これらの機能のもとで提供される多様なサービスの中でも、特に大きな目玉となっているのが、携帯電話や衛星通信網を介して建設機械の稼働情報をモニタリングする「M2M(Machine to Machine)」と呼ばれるサービスである。現在、世界中で稼働している約8万台の建設機械から送られてくる膨大なデータを集約・蓄積し、地図情報と組み合わせるなど、多彩な用途に対して情報を提供している。

メンテナンスの効率化から、さらに予防保全へ

建設機械のありとあらゆる箇所にセンサーが取り付けられている。その数は、中型機械で数百個、大型機械になると千個以上におよぶという。これらのセンサーによって実測されたデータがリアルタイムで送られ、集約されて稼働情報となるわけだ。

「例えば、ショベルのパワーを生み出す命は油圧であり、圧力の変化やポンプの状態などを、きめ細かくセンシングしています。この他にも要所のデータを遠隔ですべて収集しており、建設機械が動いている“今”の状態を手に取るように把握することができるのです。すなわちM2Mサービ スは、建設機械の“健康診断”をリアルタイムに行うための仕組みといえます」(瀧下)

このM2Mサービスによって実現するのが、メンテナンス業務の効率化である。

「建設機械が活動する現場は広範囲にわたります。山奥やジャングルなど、サービス担当者がすぐに駆けつけられない現場で稼働していることも珍しくありません。お客さまから緊急要請を受けて現地に向かったとしても、事前情報がなければ適切な対処はできず、あらためて出直さなければならないなど、非常に大きなロスが発生してしまいます。M2Mサービスによって、最初から建設機械の状態を正確に把握した上でメンテナンスに出向くことが可能となります。我々にとっては作業効率の大幅な改善であり、お客さまにとっては建設機械のダウンタイムの短縮につながります」(瀧下)

さらに、その先で期待が高まるのが、壊れる前に先手を打って対処する、いわゆる予防保全への応用である。

一般的な車両などと違い、建設機械は常に過酷な環境下で稼働していると同時に、使用状況も国や地域によって大きく異なっている。例えば、日本国内における油圧ショベルの1日あたりの稼働時間は平均4~5時間ほどであるのに対して、インドネシアでは8時間、中国では9時間におよぶ長時間の稼働を行っているという。

「建設機械はどの現場でも同じような使われ方をしているわけではないため、単純に経過年月から部品交換の目安をつけるといった経験則を当てはめることはできないのです。建設機械の負荷状況や稼働状況を見ながら個別に判断する、お客さまごとの予防保全が必要であり、M2Mサービスを利用することでそれが可能となります」

実際、建設機械のダウンは工事現場に多大なロスをまねく切実な問題となっている。特に建設機械の規模が大きくなればなるほど、ダウンタイムが周りに与える影響も拡大していくため、より効果的な予防保全体制の確立が強く求められているのだ。

「資源開発などで用いられているマイニング機械と呼ばれる大型の建設機械を例にとると、通常ほとんど止まることなく一日中稼働を続けています。鉱山などの現場は、全体があたかも一つの巨大な生産工場のようなプロセスで動いているため、仮にマイニング機械が長時間にわたってダウンすると、ライン全体がストップするという致命的な事態に陥ってしまいます。頑丈に作られているだけでなく、稼働状態を常にモニタリングしながら診断を行える機能が備わっていることが、今後のマイニング機械の必須条件になりつつあるといって過言ではありません」(瀧下)

情報提供を通じて顧客とのコミュニケーションを深める

今後に向けて日立建機では、Global e - Service をより顧客視点にカスタマイズした形での情報提供にも発展させていく計画である。情報を通じて顧客とのコミュニケーションを深め、建設機械の稼働率や作業効率の改善、満足度の向上を図っていくというのがそのねらいだ。

「例えば、昨今の燃料価格の高騰を背景に、燃費に対するお客さまの関心は以前にも増して高まっています。しかし、現場において建設機械の燃費改善効果や環境配慮効果が十分に発揮されているかどうかは、オペレーターの操作や稼働状況にも左右されることになります。そこで、収集した稼働情報をもとに日立建機側で分析を行い、客観的なレポートによるアドバイスや改善提案を行うのです。こうした情報提供のあり方が、今後のお客さま接点として有効なツールとなっていくと考えています」(瀧下)

この構想の背景には、情報提供によって実際に顧客の作業改善に大きく寄与した次のような事例がある。

初期点検によって建設機械の基本性能を調査したところ不具合は見当たらず、顧客もその内容に満足していた。しかし、稼働情報を継続的にモニタリングしている過程で、その建設機器は同業種の平均的なポンプ負荷と比較し、最大負荷域での作業が長時間行われていることが判明。そこで日立建機は、顧客からより詳しい作業内容を聞き取り、作業方法の改善を提案した。これにより、実際に燃費向上が図られたので ある。現在は試行的にレポート配信を実施している段階だが、将来的にはより広範な情報を網羅したサービスレポート支援システムとして統合していく計画だ。Global e-Serviceを活用したライフサイクルサポートのさらなる強化により、日立建機は「地球上のどこでも、最も身近で頼りになるパートナー」をめざしていくという。

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